夏、去りぬ

長谷部慶三

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第一章 理と忠義

沈黙の帳

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 石田屋敷の座敷は、春の朝日で静かに満たされていた。巻紙の上に広がる数字の列、朱筆の注、城代や勘定奉行からの報告書――三成の視線はそれらに厳しく注がれる。先日までの書状は、各大名の不満と懸念を淡くにじませていた。今やその重みを、三成自身の手で形にする必要がある。

「近江、百二十。城防に残す者は八十、徴発する農兵は四十まで……」
 三成は呟きながら、朱筆で巻紙に注を加える。線を引き、丸で囲む。数字の背後にある現実――城代の守備人数、農兵の徴発限度、鉄砲・火薬の備蓄状況――すべてが帳面に凝縮されている。

 勘定奉行の一人が控えめに声をかけた。
「治部少、備前小寺家の百という人数は、城防を崩さず徴発するのは困難にございます。農兵を減らせば、年貢や地元の秩序にも影響が……」

 三成は目を伏せ、慎重に筆を走らせる。城代の報告書に目を通し、必要最小限の兵のみを差し出す形に修正する。鉄砲・火薬は順を追い、京・大坂・堺からの商人経由で調達する段取りを頭の中で組み立てた。寺社・豪商からの借財も段階的に行い、返済計画を同時に考慮する。

 午後になり、山城・丹波・摂津の使者が立て続けに屋敷を訪れた。書状や口頭で、急な徴発は領国の秩序を乱す恐れがあると告げる。三成は耳を傾け、帳面に朱筆で注を追加する。

「山城は城防を優先せよ。余剰兵のみ抽出。美濃は火薬と鉄砲の在庫を確認し、必要分を確保。浅井・細川は守備を崩さぬ範囲で抽出せよ」

 奉行たちは筆を止めず、各指示を細かく控える。誰も口を挟まぬが、その目には責任の重みが映る。座敷の空気は静かだが、緊張で張りつめていた。

 三成は次に、京・大坂・堺の商人からの搬入可能量を確認した。火薬や鉄砲、鉛玉――必要な物資は多岐にわたり、欠損や遅延は戦場で致命的となる。帳面に記した数字を見直し、朱筆で優先順を付す。段階的に国元から戦地に送る形を計算する。

「備前、播磨、近江、山城、丹波、備中……順を追えば混乱なく、兵と武器を届けられるはず」

 巻紙の隅には、金子の手配も朱で記されている。寺社・豪商への借財、回収の順序、金子の運搬方法まで細かく指示が書き込まれていた。すべては、国元の秩序と戦場の安定を守るためである。

 夕刻が迫ると、障子越しの光が鈍くなり、春の風がわずかに梅の香を運ぶ。三成は筆を置き、奉行たちの顔を見渡す。

「各国の事情は日々変わる。書状の到着が遅れれば調整を行い、物資の供給が滞れば代替策を講じること」

 奉行たちは深く頷く。外面では不満を抱える大名も、書状を通じてのみ意見を伝えられる。戦力と資金の制約は、彼らを常に苛む現実である。

 さらに三成は、各大名の城代からの最新報告を確認した。城防の人数、兵卒の体調、弾薬の残量。すべてを帳面に照らし合わせ、朱筆で再計算する。数字の一つ一つが、戦地と国元の均衡を保つための鍵である。

「近江八十、播磨百、備前六十……火薬の搬入は播磨優先、次に近江。城防を崩すな」

 奉行たちはそれを逐一控え、書状として大名に送る手配を進める。夜の帳が下り、座敷にはろうそくの揺らめきだけが残る。静寂の中、三成の朱筆は冷徹な現実とともに、最善の采配を示していた。

 三成は再び巻紙を前に座り、筆を持つ手を止めなかった。
 一枚の紙に書かれた数字は、単なる兵力の配分ではない。それは城代たちの生活、農兵たちの命、寺社や豪商への負担、さらには戦場での勝敗に直結する。朱筆で線を引き、丸で囲み、補足の注を書き加えるたびに、三成は息をつき、再び筆を動かす。

「播磨、小寺家……城防は百五十を残す。徴発可能は四十。鉄砲は六十挺まで……」
 呟く声は低く、座敷の静寂に吸い込まれていく。勘定奉行の一人が紙の端に目を落とし、控えめに声をかけた。
「治部少、兵を差し出す際、農兵の補填は……」

 三成はわずかにうなずき、朱筆で注を補う。「農兵の補填は次月の収穫後、調整せよ」と。帳面に刻まれる文字は、戦場に向かう者たちへの配慮でもあった。

 座敷の障子越しに春の光が差し込み、墨の匂いが漂う。三成は墨壺から硯に墨をすり、筆先を含ませ、次の行を書き進める。朱筆の赤は、冷徹な現実の中に生まれる希望のようにも見えた。

「近江、浅井家。城防残置は八十。徴発農兵は四十。鉄砲は五十挺。搬出順は京経由で、大坂へ」
 奉行たちは帳面を前に、数字と注を確かめる。筆記を控えつつも、視線は三成から一瞬たりとも離さない。重い決定の瞬間を、共に背負うためである。

 三成は次に、丹波・摂津・備前・美濃・備中の城代からの報告を開いた。城の防備人数、鉄砲や火薬の残量、兵卒の体調。すべてが微細に記されている。数字を照らし合わせ、朱筆で調整を加える。必要最小限の徴発で、国元の防備を崩さぬ形を作る。

「丹波、城防は百。徴発兵は三十。火薬の搬出は急がず順を追うこと」
「摂津、城代より報告。鉄砲の備蓄は十分、火薬は残量二百匁。搬出は京経由、大坂にて確認せよ」

 外では春風が障子を揺らし、梅や桜の香がほのかに流れ込む。座敷の空気は静かだが、緊張感に満ちている。誰も口を挟まず、ただ三成の指示を筆記する音だけが響く。

 さらに三成は、商人筋への依頼も帳面に書き込む。京・大坂・堺の商人からの鉄砲や火薬の入荷量を確認し、搬入順序を整理する。寺社や豪商からの借財も朱筆で記す。金子の運搬順、返済の段取り、納入先との調整――すべてが、戦地と国元の均衡を保つための計算である。

 座敷の奥で、勘定奉行の一人が静かに問いかける。
「治部少、これほどの兵と物資を短期間に整えるのは、領国に動揺を与えぬか……」

 三成は答えず、数字を前に筆を走らせ続ける。その手は迷わず、しかし慎重に、朱筆で注を重ね、帳面に現実的な秩序を刻む。

 夕刻になり、障子の光は鈍くなり、座敷の影が長く伸びる。三成は巻紙を一枚ずつ見渡し、奉行たちに指示を与える。
「浅井・細川は守備を崩さぬ範囲で徴発せよ。山城・近江は城防優先、余剰のみ割り当てる。美濃は火薬と鉄砲の在庫を確認、必要分を確保せよ」

 奉行たちは深く頷き、筆記を控える。書状として各大名に届ける準備は整った。夜の帳が降りるころ、座敷にはろうそくの揺らめきだけが残る。

 三成は一息つき、墨の匂いを吸い込みながら、帳面を見渡した。朱筆で書き込まれた数字と注は、冷徹な現実の中で最良の形を示す。国元の秩序と戦地の安全を守るため、己の采配にすべてを賭ける決意がそこにあった。

            *

 三成は朱筆を持ち替え、紙面に赤を走らせた。
「摂津、兵三十を差し出す。鉄砲は五十挺。火薬は残り二百匁……」
 数字を口にするたびに、座敷の空気が重く沈む。奉行たちは息をひそめ、筆を走らせる。

 沈黙を破ったのは、年嵩の奉行だった。
「治部少……農兵の徴発、この数で村々は耐えましょうか?」
 声はかすれ、畳に落ちるほど低かった。

 三成は顔を上げずに答える。
「収穫後には補填する。いまは守備を揺るがす方が禍根となろう」
 その声音は冷たいが、裏に焦りが隠れているのを、近くに座る者は感じ取った。

 若い書役が筆を止め、恐る恐る口を開く。
「しかし……播磨からの米の搬送は遅れがちにございます。兵糧が届かねば、兵の士気も……」

 三成は一瞬、筆を止め、静かに書役を見た。
「遅れるからこそ、数字で補う。どこかが欠ければ、別の地で補填する。そうせねば全体が崩れる」
 その言葉に、書役は深く頭を下げ、再び筆を取った。

 やがて別の奉行が口を開いた。
「京・堺の商人衆、兵糧や火薬を供出しぶっております。利を示さねば動きませぬ」

 三成はため息をひとつ洩らし、朱筆で「堺・泉州の商人へ利銀を与える」と書き込む。
「利は後で良い。まずは兵を支えることが肝要だ。金子は借りればよい。命は借りられぬ」

 座敷に一瞬、誰も言葉を返せぬ沈黙が落ちた。外では風が枝を揺らし、障子がわずかに鳴った。

            *

 翌朝。座敷には朝の光がゆっくりと差し込む。墨の香りと書付の紙の手触りが、静かな空気を支配する中、三成は昨夜の算段の続きを思い返していた。兵の割り振り、鉄砲・火薬の調達、商人との借財……その全てを帳面に落とし込み、順序立てて各奉行に指示を与えたものの、まだ一つ山が残っている。それは寺社からの借財であった。

 使者が一人、石田屋敷の門をくぐり、書状を差し出す。封を切ると、そこには控えめな筆致ながらも、はっきりとした拒絶の意が書き込まれていた。
「この度の申し入れ、誠に恐れ入る。然れど、当山の経済は既に限界に達しており、これ以上の御用に応じることは叶わぬ。金銀を貸すことは、信仰の維持と寺務の執行に支障を来すこと必至に候」

 三成はゆっくりと目を閉じ、深く息をついた。紙面の文字が、単なる拒絶ではなく、寺社の内情と彼らの立場を映していることを理解する。寺社は、以前より金銀の貸与に消極的であった。昨夜の指示書が届く前から、陰に潜む躊躇の気配はあったのだ。だが、これほどはっきりとした言い回しで返書が届くのは、初めてである。

 指先で紙面を撫で、三成は大きく唸った。言葉に出さずとも、心中で何度も試算を重ねてきた。寺社が応じぬならば、兵や鉄砲、火薬を整える作業全体の計画に影響が及ぶことは明白であった。

 傍らの勘定奉行が、そっと言葉をかける。
「治部少、これは……ある程度、予期されていたことにございます。しかし、寺社側の立場も理解せねばなりますまい」

 三成は頷き、墨をすり直す。紙面に朱を置き、注を加える。兵の数、鉄砲の優先順、金銀の調達予定――すべてを帳面に書き込みながら、寺社の返答による微調整を念頭に置く。

「寺社の借財が確保できぬ以上、次善の策を講じねばならぬ。京・大坂・堺の商人筋、そして各大名からの余剰金銀……段取りは複雑だが、可能な限り混乱なく整える」

 三成の目は遠く、窓の外の春の光を受ける桜を見据えていた。華やぐ花の色は、戦の算段に覆われた屋敷の空気に、冷たく鋭い対比をもたらす。彼にとってこの紙面の一言は、ただの数字や金銀の問題ではない。寺社の拒絶は、国元の民や兵の安全、戦地への供給、さらには将来の秩序を左右する重大な一手であった。

 三成は静かに筆を取り、紙に向かう。今一度、各奉行の名前を書き出し、命じるべき指示を整理する。寺社への借財が叶わぬなら、どの大名から余剰を引き出すか、どの順序で物資を回すか――微細な算段を一つひとつ頭に描きながら、書付に落とし込む。

「よいか……すべての算段は、寺社の返答を踏まえて調整せねばならぬ。民を困らせず、守備を崩さず、戦地へ届ける。順序を誤れば、兵の命にも関わる」

 紙面に朱で加えられる注は、単なる備忘ではない。三成の意志、責任、そして誠意が、墨の濃淡となって記されているのであった。

 座敷の空気は、まだ冷たさを帯びる。外では風が桜の花びらを揺らす。三成は最後の筆を置き、静かに息をついた。今日という一日の算段は、ここでひと段落する。だが、心の中での戦いは、まだ終わりを告げてはいない。

            *

 夕餉の膳はまだ整わぬまま、三成は筆を取り、紙面に最後の指示を書き込んでいた。座敷の障子を通る陽は西に傾き、淡い橙色が墨の匂いを際立たせる。彼の指はしびれるほどに硬直し、肩の重みも増していたが、それでも書き続ける。

膨大な書付を一枚一枚確認し、奉行に下し、各地の城代や商人、寺社への取り次ぎを思案し終えたその時、ようやく三成は筆を置く。呼吸を整えようと深く息を吸うが、心の中にはまだ算段が渦巻く。

膳の膳はまだ手つかずのまま、夕餉の香りも届かぬ。座敷に漂うのは、墨と紙、そして計算と責任の重みだけ。三成は硯を撫で、短く唇を噛む。ようやく、わずかの静寂が、束の間の彼の肩を解きほぐした。

⸻まだ一息つけるだけだ。

 蝋燭は短くなり、煤が細く揺れている。机の端に積まれた紙の山を横目に、彼は静かに息を吐いた。尽きぬ務めが山ほどあることを承知しながらも、今宵はどうしても筆を執らねばならぬ相手がいた。

 墨をすり、白紙を広げる。筆を取り、ためらいなく走らせる。

 ⸻

 大谷刑部少輔殿

 この度の出兵につき、太閤殿下の御意はかたく、我ら奉行に託された命もまた重きものにて候。
 されど、国々の大名より寄せられる憂いの声は、日に日に募り申す。
「領内の兵を取り立てれば、農は荒れ、守りは手薄となる」との訴え、数知れず。

 我もこれを軽んずるには忍びなく、筆を取りては数を試み、再び改め、なおも均しく収める術を求め候。
 しかれども、いかに割り振りを尽くせど、誰かは必ず不満を抱く。これぞ奉行の宿命か。

 そちは我が友にして、ただ一人、心を明かすこと能う人にて候。
 もし我がなす事が民を苦しめ、諸将の怨みを買うとも、我が胸奥にあるは一つ。
 ――太閤の御恩に報いること。
 ――この国を戦乱より遠ざけ、民を護らんこと。

 そのために我は悪名を甘んじて受ける覚悟にて候。
 されど、ときに心揺らぐ。これほどの道が、果たして正しきかと。
 そちは病身と聞く。なおも御身を案じつつ、愚痴をも漏らし候は、誠に不面目の至りなれど、今宵は許されよ。

 いずれまた面を交え、語るを期す。

 石田治部少輔 三成

 ⸻

 三成は筆を置き、墨痕を見つめた。封を結び、蝋を垂らす。
 炎に揺れる影の中で、その表情には疲労と、なお消えぬ決意とが刻まれていた。


 


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