【完結】週刊誌の記者は忘れられない

若目

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テレビ出演

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放送当日になった。

その日、敏雄は仕事が入っておらず、自宅にいた。
時刻は午後10時。
コーヒーが入ったマグカップを片手にリビングでテレビを見つめながら、敏雄は横居の言葉を待っていた。

番組は冒頭から、この一連の出来事についてのVTRを流した。
テレビ画面に、横居の上半身のみが映る。
横居の個人情報の関係から、テレビ局側が画角から外したのだろう。

上半身だけの横居が「週刊文士です」「隣にいる女性はだれですか?」「2人だけで会われていましたよね?」などと詰め寄るように問いかける。
音楽プロデューサーは、それには何も応えることなく、ずっと黙ったまま車に乗り込んだ。

これが、週刊文士のカメラに記録された一部始終であった。
この後に、この一連の出来事が紙面に載るのだけど、このときの横居は、こんな未来などまるで予測していなかっただろう。


この音楽プロデューサーは、15年くらい前までは誰もが知るヒットメーカーだった。
その頃は、常にブランド物のサングラスなんかかけていて、目に痛いくらい派手な色シャツを着ていた。

肌艶もよく、髪もカラーリングのお手本みたく見事にセットされていたのに、今はどうか。
髪は白髪が混じっていて覇気がなく、顔にはシミやシワ、たるみが隙間なく広がり、実年齢よりはるかに老けて見える。

彼は約15年間の間に詐欺に遭い、そのほかには前妻との離婚や金銭トラブル、さらには両親の死という不幸に見舞われた。

それらを乗り越えて、ようやく再婚した妻と新たなスタートを切ったというのに、その妻が病に倒れる。
妻の介護に追われて、仕事もなかなかおぼつかない。

そんなわけで最近は、表舞台にめったに顔を出していなかった。
いや、出せなかったのだ。
そんな矢先に、下世話な週刊誌の記者が「不倫だ!」と責めてくる。

こんな責め苦の連鎖が、彼のエネルギーを奪い、一気に老けさせてしまったのだろうか。


番組は、事の経緯や音楽プロデューサーの経歴を淡々と伝えていく。

そうして、番組開始から約15分ほど経った頃合いに、「今回の騒動について番組側は、担当記者に話を聞いてみた」とナレーションが流れる。

「今回のことについて、どう思われますか?」
容姿端麗な若い女性アナウンサーが、にマイクを向けてくる。
敏雄の視線は、テレビに釘付けになった。

「本意じゃない結果になったなって…引退自体は、ホントに残念だと思っています」
顔にボカシをかけられた横居が、躊躇いがちに語り出す。

「でも、これだけは言わせてください。ご本人が言われたことと、わたしたちが取材したこと。違う部分っていうのはやっぱり、たくさんありますよ。それは…記事を見ていただければ分かると思うんですよ。そこには絶対の自信があります!」

これ以降の言葉は何もなかった。
いや、何かあったのかもしれないが、番組側が意図的にカットした可能性もある。

ワイドショーだって、メディア関係者だ。
騒動の火種になった週刊文士の記者を、なるだけ悪く見せることで、大衆の注目を集めようとしたのかもしれない。

横居が著名人の不倫やパワーハラスメントを面白おかしく取り上げるのと、全く同じ要領で。

あるいは、横居がもっとまずいことを言ったから、やむなくカットしたのかもしれない。
視聴者から顰蹙を買うのは、番組としても避けたいトラブルであろうから。



──こりゃ、明日から地獄見ることになるだろうな…


横居の言葉は、誠実だとか正直とはほど遠い。
これだけのことが起こっていながら、謝罪や反省の言葉ひとつないのだから、視聴者の怒りを買うには充分であろう。
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