【完結】週刊誌の記者は忘れられない

若目

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横居昭彦という記者

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青葉春也は悩んでいた。

以前勤めていた音楽雑誌が廃刊して職を追われてしまい、そこからようやくありついた仕事は、下世話な写真週刊誌の契約記者兼カメラマンだった。

渋々就いた仕事だけあって、全くやる気にはなれなかったし、何より青葉を辟易させたのは、そこのカメラマンや記者の暴挙だった。

仕事とはいえ、他人のプライベートを盗撮盗聴したり、しつこく後をつけていくのは、どうにも抵抗があった。
それに対して、わずかでも不満を漏らそうものなら、「じゃあ辞めれば?」の一言で終わらされる。


特に、横居という記者の有り様は最悪だった。
以前、妻の出産直前に女を自宅に連れ込んだ議員の突撃取材に向かったことがある。

取材のきっかけは不倫相手の女からのリークで、その不倫相手の女が売り込みに来たとき、横居はそれはもう嬉しそうに「これはチャンスだ」と言って笑い、さっそくその議員に突撃取材しようと言ってきた。

上司に命令されて渋々ながら、それについて行くことになった青葉は、横居とともに議員宿舎の出入り口付近に張り込み、その議員が出てくるのを待った。

やっていることはまるでストーカーのそれのようで嫌気がさしたし、当事者の議員が出てきた途端、獲物を見つけたハイエナのように飛びついていった横居の姿は、本当に見苦しいとしか言いようがない。

三崎みさきさんですよね?」
「え?ええ…」
突然名前を聞かれた三崎議員は、戸惑いの表情を浮かべた。
「週刊文士の記者です」
「はあ…」
横居が身分を明かすなり、三崎議員の肩がぷるっと震えた。
「この女性、知ってます?」
横居はスマートフォンを取り出して、画面に写った女の写真をこれでもかというほどに近づけて、三崎議員に見せた。
「あー…知らない知らない」
誤魔化すためなのか何なのか、三崎議員が「へへへ」と薄ら笑いを浮かべ始める。
「本当に知らないですか?」
「うん、知らない」
言い捨てて、三崎議員は待機していた公用車に乗り込むと、逃げるようにその場を去っていった。

「後日たのしみだなあ!」
その様子を見送った横居はニヤッと笑った。
「何でですか?」
「ありゃあ、クロだよ」

実際、その通りだった。
後日、三崎議員が事実を認め、さらには、相手の女がメディアに出て、いつどこで会ったのか、メッセージアプリでのやりとりを洗いざらい暴露した。

三崎議員はもともと、男性議員で初めて育児休暇を取ったことで話題になっていたが、このことで信用を失って謝罪会見を開くこととなり、強いバッシングを受けた。

「はっはっは、大当たりだったな!」
この一件で世間が大騒ぎしていたとき、横居は驚くほどに上機嫌であった。
そんな横居を見て、青葉は眉をひそめた。
「何が面白いんですか?こんなの…」
「自分が創ったものが話題になれば、嬉しいと思わねえ?そういうことだよ」
そのときの横居の、意地の悪い笑みときたら。
青葉は、嫌悪感で吐き気がこみ上げてくるくらいに、気味が悪かった。

「ぼくは、創作に懸命に向き合うアーティストについて書きたかったんですよ。こんな下品で汚いもんじゃなくて…」
このタイミングで、思わず本音を漏らしてしまったことを、青葉は後悔することになる。
「あははははは!正気かお前⁈」
青葉の言葉を聞いた横居は、今まで見たことがないくらいに大笑いしていた。


「大半の人間はそんなの求めてねえよ。ウチはゲスでいいんだよ、ゲスで。下品で汚い?大いに結構だ。それが大衆に求められてんだから!!」
「そんな…」
「大体なあ、そんなご立派な主張は結果出してから言えや。お前、ロクなネタ持ってきてないから、クビ候補だって噂立ってんぞ!」

それを言われると、青葉は何も言えない。
結果が出ていないのは事実なのだから。

その日から、青葉は横居との接触をなるだけ避けるようになり、横居も横居で、青葉とはまともに目も合わさなかった。





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