【完結】週刊誌の記者は忘れられない

若目

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事件における問題点

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敏雄はパソコンを開いて、新規データを起動させた。
キーボードをカタカタ鳴らして、以前に取材した内容をまとめて書き込んでいく。

『被害者少女の自殺にいたるまでに、さまざまな問題点が明らかになっている。

被害者少女の保護者は少なくとも4回、担任教師に相談していた。
しかし、担任の女性教師は

「あの子たち(いじめグループの生徒たち)はおバカだから、いじめなんてないですよ」
「今日は彼氏とデートなんで、明日にしてもらっていいですか?」

などと言ってまともに取り合わなかったという。

被害者少女が川に飛び込んで重体となり、警察が駆けつける事態が起きたときでさえも、事件の説明や保護者会などは一切なく、被害者少女の保護者やA市の教育委員会に対して「いじめの事実はなかった。男子生徒たちのいたずらが過ぎただけ」とだけ説明した。

これについてもA市教育委員会が対応を再三求めたにも関わらず、校長が中心となって事件性を否定し、問題への対応を先送りにし続け、結果として被害者少女は死に至った。



また、被害者少女の母親からの懇願を受けて、学校側はようやくいじめグループのメンバーを全員呼び出し、謝罪の場を設けたことはあった。
しかし、被害者側の弁護士の同席も録音も禁止され、教師は誰ひとり同席しなかった。

また、加害者の生徒たちは「すみません」と口先では謝罪したものの、だらけた姿勢で足を崩して座ったり、「証拠はあるのか?」と詰め寄ってきたりするなど、どう見ても反省したようには見えず、被害者少女は「先生たちはあの子たちの味方なの?」と泣いていたと母親は証言している』

──改めて思うが、つくづく嫌になるぜ…

敏雄は今度は、担任教師へ取材したときの原稿を書き始めた。
キーボードを打つ音が、また無機質にカタカタと鳴り始める。

『──A子さんのお母様からイジメの相談があったとき、なぜ断ったのでしょうか?

「学校でのことは個人情報ですからお話することはできません」

──なぜ、謝罪の場に先生は立ち会わなかったのでしょうか?

「学校でのことは個人情報ですからお話することができません」

──A子さんにお悔やみの言葉はございますか?

「すみませんが、私からはお話することができません」

 どんな質問をしても、担任教師はどこか他人事のような同じ台詞で返すだけであった。
何が面白いのか不明だが、担任教師は時折、苦笑いまで浮かべていた』

敏雄は質問を繰り返していくうち、ヒステリックに喚き出した担任教師の言葉を思い出した。

『だって仕方ないじゃないですか!やめなさいって言ってやめるような子なら何回でも言いますよ!!でも、あの子たちはそんなじゃないんです!何ですか?手を上げて止めればよかったんですか?』

『不良生徒たちから恨みを買って、刺されでもしたらどうするんですか?あの子たちは人間じゃない。悪魔みたいな顔で笑うんですよ!』

『下手に首を突っ込んで、大事になったら最悪の場合は懲戒。辞職に追い込まれることすらあるんです!教師だって人間です!自分の生活第一で何が悪いんですか⁉︎』

そうして散々喚き散らした担任教師に敏雄は、「ほかに何か言いたいことはありますか?」と聞いてみた。

取材の途中で相手がカーっとなって怒り出すなんて、大して珍しいことではない。
こんなときでも平静を保つことに、敏雄は慣れていた。

その態度が気に食わないらしい担任教師は、加害者少女B子と同様、敏雄をしばらく睨みつけた後、「ありません、もう失礼しますね」とぶっきらぼうに言い捨てて去っていった。


──「自分の生活第一」で結果的に自分の生活脅かされてちゃあ、世話ねえよなあ

敏雄は、この担任教師がインターネット上で顔や名前、住所を晒されて、毎日毎日何百件何千件という苦情や批判、誹謗中傷を浴びていることを知っていた。

そして、今から3日後に、この中学校で緊急保護者会が開かれることを聞き、敏雄は編集長命令を受けて、取材に向かうことになった。

保護者会当日、学校側はこの事件について、集まった保護者たちに何と説明するのだろうか。

今までが今までだから、大体の予想はつく。
それでも、少しは筋の通った答えが出ることを願わずにはいられなかった。
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