【完結】週刊誌の記者は忘れられない

若目

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翌朝

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「あいたた…」
鈍い頭の痛みに起こされた青葉は、額を押さえた。
目を開けると、見たことのない景色が広がっている。

──ここ、どこだ?

昨日はたしか、上司の記者と職場近くの居酒屋に行って、カウンター席に座って、そこからいろいろと話し込んでいたはずだ。
それなのに、どうして知らない家のソファに寝転がっているのか。

──確か、伊達さんに一緒に事件を追いたいって頼んで、了承してもらって、えーっと、それから…

青葉は、昨日の記憶を探り出していこうとした。

「よお、青葉」
「あ、伊達さん…」
声のした方へ目を向けると、Tシャツにスウェット姿の上司が立っていた。
いつもはしっかり撫でつけられている髪が、額に垂れ下がっている。
会社にいるときにしか会ったことがないから、青葉にはその姿が新鮮に感じられた。

「昨日は激しかったなあ、ダーリン?」
敏雄がニタニタと笑った。
歯を見せてイタズラっぽく笑うその様は、不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫を彷彿とさせる。

この上司に対して「真面目でしっかり者」という印象を持っていた青葉は、この人もこんなふうに笑うことがあるのか、と意外に思った。
案外、プライベートではくだけた人なのかもしれない。

「何のことです?」
それにつけても、上司の言っていることがわからない。
彼が言う「激しかった」とはどういうことだろう。
なんだって自分は「ダーリン」などと呼ばれたのか。

「おいおい、しらばってくれる気かあ?昨日はあれだけ情熱的に迫ってくれたのに、アレはウソだったのか?」
言うと敏雄が、そばのテーブルに置いてあったレコーダーを手に取って、スイッチを入れた。


『聞こえなかったから、もう1回言ってくれ』
レコーダーから、敏雄の声が聞こえてくる。
『好きです、付き合ってください』
聞いてから青葉は青ざめた。
これは、間違いなく自分の声だ。
ここで青葉は初めて、自分が何をしたか理解した。

酒の勢いにまかせて、ろくでもないことをしてしまった。
それに対して、敏雄は何と言ったのだろうか。
青葉が気になったのはそこだった。

『そうか。じゃあ俺にキスしてくれよ、青葉』
『はい…』
自分が返事する声がはっきり聞こえてくる。
それ以前に、この上司もなぜこんな懇願をしてくるのか。
しかし、そんな疑問は一瞬で吹き飛んだ。
レコーダーからはっきりと、ちゅっちゅっという唾液が絡まる音が聞こえてきた。

「え…?」
青葉が呆けているうちに、レコーダーのスイッチが切られた。
「この後は撮れてなかったんだよ。何せお前ときたら激しくてなあ。俺からレコーダーブン取った後…あんなことするとは思わなかったぞ。俺は腰がくだけるかと……」
敏雄はそれ以上、何も言わなかった。

この後、自分はいったい何をしたのか。
「腰がくだける」「激しかった」「ダーリン」などという言葉から察せられることは、ただひとつだ。

レコーダーから流れてきた音声と、目の前にいる敏雄の言動から、昨夜の自分が何をしたのか。
青葉はようやく気づいてしまった。

「あ、あの…すみません、ぼく…」
何と言えばいいのかもわからない。
あたふたしているうち、敏雄が片手で顔を覆って肩を振るわせた。
その手の下で、敏雄がどんな顔をしているのかわからない。




「くくっ…はっはっは!青葉、これはフェイクだよ」

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