【完結】週刊誌の記者は忘れられない

若目

文字の大きさ
20 / 73

朝食

しおりを挟む
「え?」
青葉が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

「あははははは!」

──あー、どうしよう、笑いが止まらない!

青葉があまりに呆けた顔をするから、敏雄は大声を出して笑ってしまった。
「あ、あの、伊達さん?」
「はっはっは!あー…すまんすまん。ダマして悪かった。お前、俺のこと好きだって言った後、ソファで寝こけちまったんだよ。本当はキスなんかしてないんだ。ついでに言うと、この後は特に何にもなかったぞ」

敏雄は口内で唾液を絡ませて、ちゅっと音を立てた。
キスしたときのリップ音を偽装するために出した音だ。

「え?」
青葉が赤面した。
「お前、酔った勢いでこんな冗談言うなんて、案外酒グセが悪いんだなあ!」
戸惑う青葉などお構いなしに、敏雄はその場で腹を抱えて笑った。

「冗談…」
青葉は聞こえないくらい小さな声で、ボソリと呟いた。
「そこ座っててくれ、朝メシ出してやるから、食べていけよ」

ひとしきり笑った後、敏雄はテーブルにレコーダーを置くと、洗面所に向かって顔を洗い、洗面台横の棚からワックスを取り出すと、慣れた手つきで髪を撫でつけた。

それが終わると、キッチンの戸棚からミニクロワッサンが10個入った袋を、冷蔵庫からはヨーグルトを取り出した。
「青葉、コーヒー飲むか?紅茶がいいか?煎茶とか牛乳もあるけど」
敏雄は、言われた通りにソファに座っている青葉に呼びかけた。
「コーヒーで…」
「わかった」

ヨーグルトとスプーン、皿に開けたクロワッサンに、2つのカップに入ったコーヒー。
それら全てトレーに乗せると、テーブルまで運んでやった。
「ほら、食え」
「…ありがとうございます」
青葉がおずおずと、ヨーグルトが入ったカップを手に取った。
その様子は、どこか気遣わしげだ。
無理もないことだ。
泥酔して、迷惑をかけた上司の家で一晩中ずっと寝こけた後で迎える朝食など、とても気軽に摂れるものではない。

「砂糖とミルク置いとくぞ。好きに入れるといい」
そんな青葉を気遣って、敏雄はできるだけ優しげに話しかけた。
キッチンから砂糖とミルクを引っ張り出し、青葉の目の前に置くと、青葉はペコリと会釈して、砂糖とミルクをコーヒーカップに入れた。
どうやら青葉はずいぶんな甘党のようで、あんまりな量を入れるものだから、持ってきた砂糖のミルクの大半は消化されてしまった。

「食べ終わったら、すぐに支度しろよ。ブラシ貸してやるから、まずは髪を梳かせ。お前、頭ぐしゃぐしゃだぞ」
敏雄は青葉の隣に腰掛けると、自分の頭を指さした。
「あ…ふぁい!」
噛み砕いたクロワッサンで口内をいっぱいにした青葉が、口に手を当てて間抜けな返事をした。
その様子に笑ってしまうのを堪えながら、敏雄もコーヒーを飲んだ。

敏雄が「遠慮なく食え」と言うと、昨夜あれだけ食べたというのに、青葉はクロワッサンもヨーグルトもペロリと平らげて、追加で出したロールケーキもあっという間に胃袋に収めてしまった。

──いい食べっぷりだな

敏雄のような中年にとって、若者がたくさん食べている姿はとても微笑ましい。
クロワッサンをつまみながら、敏雄は青葉が食べている様子をじっくり楽しく眺めていた。


あわただしい朝食を終えると、2人は髪と服を整えて、マンションを出た。

「送ってやるから、お前は助手席に乗れ」
駐車場に着くと、敏雄は所持しているライトバンのロックを解除した。
「はい!」
青葉が元気よく返事すると、助手席に乗り込む。

──さて、出社したらまずは、編集部に行かねえとな、

青葉を助手席に乗せ、今日の予定を頭の中で組みながら、敏雄はライトバンを発進させた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」 幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...