44 / 73
加害者の行く末
しおりを挟む
結局、警察には厳重注意処分で済まされたからだ。
さらに学校には、「1人の被害者と10人の加害者の未来どちらが大事か」と知らん顔をして、本来なら罰せられるはずの自分を守ってもくれた。
B子はさぞかし喜んだことであろう。
同時に、こうも思ったのではないか。
自分は運に恵まれている。
常に味方がいるし、これから何があったとしても、その味方が必ず守ってくれる。
だから、自分に不都合なことなど何も起きることはない。
学校側のこの擁護は、B子の人生で一番の幸運と言えるだろう。
そして、最後の幸運でもあった。
何せ、運に恵まれたと思ったのも束の間、人生最大の不運が襲いかかってきたのだから。
自分のやったことが新聞沙汰となり、各メディアがこぞって取り上げるようになり、インターネットの波に乗って、しまいには日本中に伝播するなどとは、夢にも思っていなかったのだ。
この事件において、いの一番に取材を行ったのは敏雄であった。
B子は敏雄が取材したときは不満げながらも、どこか余裕ぶっていた。
おそらく、このときもまだ事態を楽観視していたのだろう。
一部のメディアにだけ取り上げられて、短い間だけ騒がれて、それで終わり。
そうすれば、また元の日常生活に戻れる。
だって、自分は運に恵まれているから。
そう思っていたのに、事態は予想とはまるで違う方向へ向かっていく。
ありとあらゆるメディアが自分を追いかけ回し、広田さんの死から1年以上経過しているというのに、地元には報道関係者が次々やってくるし、自分は学校にも通えなくなってしまった。
それだけではない。
最初の報道がなされた途端、報道関係者以外にも、事件に興味を持った一般人や動画配信者が毎日のように校門前で騒ぎ立てるようになった。
さらに、SNSのアカウントを特定され、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせられたために、やむを得ずアカウントを削除した。
しかし、一度インターネットに流れて拡散された情報を、そう簡単に制御できるわけもない。
もうすでに、大半の個人情報が漏れている。
名前に住所に、通っている中学校の名前と場所。
クラス名簿の顔写真までもが、ごく当たり前のように流出している。
自分を知っている誰かが流したのだろうが、一介の中学生にそれを特定する方法などあるわけもない。
そうこうしているうち、警察の捜査も報道関係者の追跡も、どんどん加速していく。
ここまでになると、今までともに悪さしていたグループのメンバーなど、何の役にも立たない。
学校側は報道関係者への対応に追われるばかりで、自分をほったらかしたままにする。
ほかの生徒には、はなから相手にされていない。
親だってアテにならない。
今度こそ、本当に孤立してしまった。
どうしてこうなったのか、B子の頭ではわからない。
自分は運に恵まれていたのではなかったのか、これから自分はどうなるのか。
いつかほとぼりが冷める日が来るだろうが、その日はいったいいつなのか……
──と、まあ大体はこんなとこだろうな
敏雄はB子とその取り巻きたちの心情を、勝手に考えた。
この予想は、長年の経験則から来るものだ。
これ以外なら、「しばらく外に顔を見せなければ、また日常生活に戻れる」と未だに楽観視している可能性もあるな、とも考えた。
これも珍しいことではない。
子どもは後先を考えず、その場の衝動や思いつきだけで行動する。
その行動がどんな結果をもたらすか、考える頭はない。
警察沙汰になっても、新聞沙汰になっても、その場しのぎの言葉や態度でやり過ごそうとする。
B子や取り巻きたちの行動原理は、まさにこれなのだ。
こういった子どもはたいてい、後でトラブルが起きれば、逃げるかほったらかす。
しかし、ほったらかしているうちに事態は大きくなっているし、どこにも逃げ場はない。
──将来どうなるか、ある意味楽しみではあるな
敏雄は昔に取材した事件を思い出した。
通りすがりの女子高生を15~17歳の少年4人がかりで誘拐、監禁して強姦し、サンドバッグのように弄んでなぶり殺した後、コンクリート詰めにしたという恐ろしい事件だ。
さらに学校には、「1人の被害者と10人の加害者の未来どちらが大事か」と知らん顔をして、本来なら罰せられるはずの自分を守ってもくれた。
B子はさぞかし喜んだことであろう。
同時に、こうも思ったのではないか。
自分は運に恵まれている。
常に味方がいるし、これから何があったとしても、その味方が必ず守ってくれる。
だから、自分に不都合なことなど何も起きることはない。
学校側のこの擁護は、B子の人生で一番の幸運と言えるだろう。
そして、最後の幸運でもあった。
何せ、運に恵まれたと思ったのも束の間、人生最大の不運が襲いかかってきたのだから。
自分のやったことが新聞沙汰となり、各メディアがこぞって取り上げるようになり、インターネットの波に乗って、しまいには日本中に伝播するなどとは、夢にも思っていなかったのだ。
この事件において、いの一番に取材を行ったのは敏雄であった。
B子は敏雄が取材したときは不満げながらも、どこか余裕ぶっていた。
おそらく、このときもまだ事態を楽観視していたのだろう。
一部のメディアにだけ取り上げられて、短い間だけ騒がれて、それで終わり。
そうすれば、また元の日常生活に戻れる。
だって、自分は運に恵まれているから。
そう思っていたのに、事態は予想とはまるで違う方向へ向かっていく。
ありとあらゆるメディアが自分を追いかけ回し、広田さんの死から1年以上経過しているというのに、地元には報道関係者が次々やってくるし、自分は学校にも通えなくなってしまった。
それだけではない。
最初の報道がなされた途端、報道関係者以外にも、事件に興味を持った一般人や動画配信者が毎日のように校門前で騒ぎ立てるようになった。
さらに、SNSのアカウントを特定され、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせられたために、やむを得ずアカウントを削除した。
しかし、一度インターネットに流れて拡散された情報を、そう簡単に制御できるわけもない。
もうすでに、大半の個人情報が漏れている。
名前に住所に、通っている中学校の名前と場所。
クラス名簿の顔写真までもが、ごく当たり前のように流出している。
自分を知っている誰かが流したのだろうが、一介の中学生にそれを特定する方法などあるわけもない。
そうこうしているうち、警察の捜査も報道関係者の追跡も、どんどん加速していく。
ここまでになると、今までともに悪さしていたグループのメンバーなど、何の役にも立たない。
学校側は報道関係者への対応に追われるばかりで、自分をほったらかしたままにする。
ほかの生徒には、はなから相手にされていない。
親だってアテにならない。
今度こそ、本当に孤立してしまった。
どうしてこうなったのか、B子の頭ではわからない。
自分は運に恵まれていたのではなかったのか、これから自分はどうなるのか。
いつかほとぼりが冷める日が来るだろうが、その日はいったいいつなのか……
──と、まあ大体はこんなとこだろうな
敏雄はB子とその取り巻きたちの心情を、勝手に考えた。
この予想は、長年の経験則から来るものだ。
これ以外なら、「しばらく外に顔を見せなければ、また日常生活に戻れる」と未だに楽観視している可能性もあるな、とも考えた。
これも珍しいことではない。
子どもは後先を考えず、その場の衝動や思いつきだけで行動する。
その行動がどんな結果をもたらすか、考える頭はない。
警察沙汰になっても、新聞沙汰になっても、その場しのぎの言葉や態度でやり過ごそうとする。
B子や取り巻きたちの行動原理は、まさにこれなのだ。
こういった子どもはたいてい、後でトラブルが起きれば、逃げるかほったらかす。
しかし、ほったらかしているうちに事態は大きくなっているし、どこにも逃げ場はない。
──将来どうなるか、ある意味楽しみではあるな
敏雄は昔に取材した事件を思い出した。
通りすがりの女子高生を15~17歳の少年4人がかりで誘拐、監禁して強姦し、サンドバッグのように弄んでなぶり殺した後、コンクリート詰めにしたという恐ろしい事件だ。
0
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる