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息子の決意
しおりを挟む「お父さま、おかえりなさい」
家に帰りつくと、ジャンティーが出迎えてくれた。
その後ろに、アヴァールとリュゼもいる。
いつもならとても喜ばしいことなのに、今のシャルルの心はますます重く沈むばかりだった。
そんな父親の尋常ならざる様子を、子どもたちは天気の悪いなか、一晩中歩き続けて帰ってきたからであろうと推測した。
「お父さま、大丈夫?」
ジャンティーは困惑しながらもシャルルの濡れて冷たくなった服を着替えさせ、温かい食事を用意して勧めた。
しかし、シャルルは精魂尽き果てたかのように、長椅子にへたり込んでしまった。
「ジャンティー。約束通りに薔薇を一輪持ってきたよ。しかし、この薔薇が、仇になってしまった……本当に、すまない」
シャルルは震える手で、懐から真っ赤な薔薇を一輪取り出した。
「お父さま、いったいどうしたの?何があったの?」
ジャンティーに問いかけられて、シャルルは道中に起きたできごとを、すべて子どもたちに話して聞かせた。
あまりのできごとに、3人の子どもたちは絶句するばかりだった。
重苦しい沈黙が部屋を埋め尽くしたところで、ようやくアヴァールが口を開いた。
「とんでもないわ、そんなところに行くなんて!」
「そうよそうよ!ひょっとしてお父さま、そんな恐ろしいことをわたしたちにさせたりはしないわよね?」
アヴァールに続いて、リュゼが責めるような目つきでシャルルを見つめた。
「でも……」
今度はジャンティーが口を開いた。
「でも、何よ。お兄さま、何か言いたいことがあるの?」
アヴァールが、睨むようにジャンティーを見た。
「ぼくたちの誰がひとりが行かないと、お父さまの命はないって、野獣は言ったんでしょう?お前たちはそれでいいのかい?ぼくは嫌だよ」
ジャンティーの言葉に、アヴァールとリュゼは黙りこくってしまった。
「ぼくが行くよ。その野獣は、3人のうちの誰かひとりを連れて来いって言ったけど、それは言い換えればこの中の誰でもいいってことだよね?」
ジャンティーはシャルルのほうへくるりと向き直ると、はっきりとそう述べた。
すでにその顔には、ある決意を持っていることが、シャルルには簡単に理解できた。
「でも、ジャンティー。そんなこと….」
とんでもないとばかりに、シャルルは首を振った。
よりにもよって、自分にとっていちばん愛しい我が息子が、この心優しい長男坊が。
この子がいなくなった後の人生など、まるで考えられない。
「お父さま、落ち着いてよ。野獣はただ、だれかひとりを連れてこいとしか言わなかったんでしょう?何をされるかはわからないよ。でも、殺されると決まったわけじゃない」
「それでも、あんな恐ろしい野獣のことだ。お前が無事で済むはずがない!2度と帰ってこられないかもしれないんだぞ!!」
シャルルがジャンティーの両手を握る。
その目には、うっすら涙が滲んでいた。
「それは行ってみないとわからないよ。いずれにしても、お父さまが殺されるなんてそんなこと、ぼくは黙って見過ごすことはできないよ。だったら、ぼくが行く!」
「そんな…」
シャルルが、ジャンティーの手をより強くギュッと握る。
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