ハートの瞳が止まらない

若目

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しかし、現実はそうはいかないだろう。
そもそも、五井にメモ用紙を渡したあの子は大学生の男の子だ。
女性とは考え方や恋愛観が違う。

そもそも、現時点で五井をどう思っているのかすら、詳しくはわからない。
ひょっとしたら、男の子は今ごろあの喫茶店のマスターや同じ年頃の友人と一緒になって、五井を嘲笑っているんじゃないか。
なんとなく疑わしくなった五井は、マスターとあの男の子が自分をダシに談笑する様子を、頭の中で思い浮かべてみた。

『ねえ、マスター。いつも来るメガネのオッサンいるでしょ?すみっこの席にずーっと座って何時間も居座ってるヤツ。ぼくね、アイツに「よかったら連絡ください」って連絡先渡したんですよ。そしたら見てくださいよコレ。ヤバくないですかあ?』
『うわ、キモっ!アイツのトシぜんぜん知らないけどざ、たぶん50くらいでしょ。50にもなってよくこんなもん大学生の子に送れるな。自分のことイケメン俳優だとでも思ってんかねー?ていうか、何であんなのに連絡先渡したの?』
『友達と賭けたんですよ。ぼくは「連絡してくる」で友達は「連絡してこない」で。だからぼくの勝ち!』
『マジ?オレも参加したかったなー』

マスターと男の子が五井を嘲笑う。
お世辞にも想像したくはない光景だけれど、自分でも驚くぐらいにハッキリとイメージできてしまって、五井はひとり苦笑した。
あの気さくで明るいマスターと、あの純朴だとか素直だとかを絵に描いたような男の子がそんなやりとりをするとは思えないが、人間は案外わからないものだ。
マスターの気さくな態度も、男の子の素直な様子も客の前だけで、実際はとんでもなく腹黒いのかも知れない。
そんなくだらない邪推に耽りながら、五井は返事を待った。

五井の邪推とは裏腹に、男の子からの返事は予想以上に早く来た。
おそらく、送信してから返事が来るまで、1分もかからなかったと思う。
『今から行きます。15分くらいで着くと思います』
スマートフォンに表示された男の子からの返事を見て、五井は驚いた。
どうせ返事など来ないだろうと思っていたし、来るにしても「都合が悪いから、また今度でお願いします」と返ってくるだろうと考えていた。
何せ、こんな急な呼び出しに応じることができる人間など、そうはいないだろうから。

学生なら仕事や家庭で忙殺されることはないだろうが、講義やアルバイトなんかもあるし、友人や先輩との付き合いだってあるだろうに。
まさかとは思うが、それらすべてを蹴って五井の呼び出しに応じたのだろうか。
だとしたら、男の子の心情がますます理解できない。

「とりあえず、迎えに行ってやるか…」
時間が迫ってきたので、五井はスマートフォンをその場に置くと、男の子を迎えに行くために玄関に向かった。
いつも土間に置きっぱなしにしている使い古しの健康サンダルに足を突っ込み、玄関ドアを押し開ける。
玄関ドアを施錠して、エレベーターに乗り込むと1階を押す。

5階から1階に降りるのなんて、そんなに時間はかからない。
エレベーターから降りて外に出れば、男の子の姿が視界に入り込んだ。
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