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決行
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決行の日がきた。
1月某日の18時半、肌を劈くような寒さの中、貞はいつも獲物が通る土手道近くにミニバンを止めて、獲物が来るのを待った。
辺りがすっかり暗くなったことで黒い車体はうまく闇に溶け込み、いい目くらましになった。
これなら通行人が何人かいても、目撃されるのを幾分か防げるかもしれない。
獲物からも見つかりにくくなり、より拐いやすくなる。
獲物をスムーズに車内に入れられるように、後部座席には何も置かずに広い空間を作っておいた。
トレンチコートのポケットには果物ナイフ、グローブボックスには獲物の手足を拘束するための粘着テープ、助手席には獲物の体にかぶせるための毛布。
今すぐにでも発進できるように車のエンジンはかけっぱなしにしてある。
全て整った。
あとは、獲物が来るのを待つのみだ。
獲物が現れないはずはない。
あの女に目星をつけてから毎日のように観察を続けたところ、18時半から19時までの間に土手道を通らなかった日は土日祝だけであった。
スマートフォンのロック画面を見て時間を確認すると、18時50分になっていた。
あと10分、獲物が現れないなら別の日にしよう。
貞が諦めかけた頃合いに、見覚えのある小さな人影が見えた。
──あの女だ!
貞はミニバンのアクセルを軽く踏んで徐行し、ゆっくりゆっくり女に近づいていく。
あと30メートル。
獲物が1度立ち止まって、はるか向こうにある何かを見上げたかと思うと、また歩き出した。
あと15メートル。
獲物が歩きながらニット帽とスヌードの位置を直した。
獲物とすれ違った。
獲物が何か叫んだ気がしたが、今はそれどころではない。
──今だ!
果物ナイフの柄を握りしめて、運転席から降りた。
獲物は一瞬、何事かと驚いて立ち止まったが、すぐに異変に気づいて逃げようとした。
素早く獲物に走り寄り、片手で襟首を掴むと、もう片方の手に握ったナイフを眼前にチラつかせた。
「動くな!」
貞に怒鳴られた獲物がぴくりと体を震わせる。
襟首を掴んでいた手を離し、獲物の背中に腕を回すと、恐怖でこわばった体をそのままミニバンの後部座席に引きずり込んだ。
ナイフを畳んでポケットにしまうと、急いで運転席に移り、グローブボックスから粘着テープを取り出す。
「両手を出せ!抵抗したら刺すからな!!」
獲物は貞に言われるまま両手を差し出した。
寒さからか恐怖からか、はたまたその両方か、手はブルブルと小刻みに震えている。
運転席から身を乗り出して、粘着テープを獲物の両手首に何重にも巻いて固定し、両足首も同じようにした。
大声を出さないよう口にもテープを貼り付ける。
続いて助手席に置いてあった毛布で、ノミのように縮こまった獲物の体を覆い隠す。
ハンドルを握ってアクセルを踏み、ミニバンを走らせる。
この間、約1分。
もっと短いかもしれない。
頭の中で何度も思い描いた計画を見事に実行できた喜びに浸っていたかったが、まだ油断はできない。
自室に連れていくまで、何かの拍子で獲物が逃げ出したり誰かに気づかれたりしたら、一巻の終りだ。
気をつけなくては。
しばらくミニバンを走らせていると、自宅マンションが見えてきた。
この間、何台かの乗用車や自転車とすれ違ったが、獲物に気づかれることもなく、まっすぐに家に戻ることができた。
1月某日の18時半、肌を劈くような寒さの中、貞はいつも獲物が通る土手道近くにミニバンを止めて、獲物が来るのを待った。
辺りがすっかり暗くなったことで黒い車体はうまく闇に溶け込み、いい目くらましになった。
これなら通行人が何人かいても、目撃されるのを幾分か防げるかもしれない。
獲物からも見つかりにくくなり、より拐いやすくなる。
獲物をスムーズに車内に入れられるように、後部座席には何も置かずに広い空間を作っておいた。
トレンチコートのポケットには果物ナイフ、グローブボックスには獲物の手足を拘束するための粘着テープ、助手席には獲物の体にかぶせるための毛布。
今すぐにでも発進できるように車のエンジンはかけっぱなしにしてある。
全て整った。
あとは、獲物が来るのを待つのみだ。
獲物が現れないはずはない。
あの女に目星をつけてから毎日のように観察を続けたところ、18時半から19時までの間に土手道を通らなかった日は土日祝だけであった。
スマートフォンのロック画面を見て時間を確認すると、18時50分になっていた。
あと10分、獲物が現れないなら別の日にしよう。
貞が諦めかけた頃合いに、見覚えのある小さな人影が見えた。
──あの女だ!
貞はミニバンのアクセルを軽く踏んで徐行し、ゆっくりゆっくり女に近づいていく。
あと30メートル。
獲物が1度立ち止まって、はるか向こうにある何かを見上げたかと思うと、また歩き出した。
あと15メートル。
獲物が歩きながらニット帽とスヌードの位置を直した。
獲物とすれ違った。
獲物が何か叫んだ気がしたが、今はそれどころではない。
──今だ!
果物ナイフの柄を握りしめて、運転席から降りた。
獲物は一瞬、何事かと驚いて立ち止まったが、すぐに異変に気づいて逃げようとした。
素早く獲物に走り寄り、片手で襟首を掴むと、もう片方の手に握ったナイフを眼前にチラつかせた。
「動くな!」
貞に怒鳴られた獲物がぴくりと体を震わせる。
襟首を掴んでいた手を離し、獲物の背中に腕を回すと、恐怖でこわばった体をそのままミニバンの後部座席に引きずり込んだ。
ナイフを畳んでポケットにしまうと、急いで運転席に移り、グローブボックスから粘着テープを取り出す。
「両手を出せ!抵抗したら刺すからな!!」
獲物は貞に言われるまま両手を差し出した。
寒さからか恐怖からか、はたまたその両方か、手はブルブルと小刻みに震えている。
運転席から身を乗り出して、粘着テープを獲物の両手首に何重にも巻いて固定し、両足首も同じようにした。
大声を出さないよう口にもテープを貼り付ける。
続いて助手席に置いてあった毛布で、ノミのように縮こまった獲物の体を覆い隠す。
ハンドルを握ってアクセルを踏み、ミニバンを走らせる。
この間、約1分。
もっと短いかもしれない。
頭の中で何度も思い描いた計画を見事に実行できた喜びに浸っていたかったが、まだ油断はできない。
自室に連れていくまで、何かの拍子で獲物が逃げ出したり誰かに気づかれたりしたら、一巻の終りだ。
気をつけなくては。
しばらくミニバンを走らせていると、自宅マンションが見えてきた。
この間、何台かの乗用車や自転車とすれ違ったが、獲物に気づかれることもなく、まっすぐに家に戻ることができた。
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