8 / 82
お見合い
しおりを挟む
そうして迎えたお見合いの日。
日時だとか場所だとか、手間のかかるセッティングは全て間中が行い、送迎と同行まで引き受けてくれた。
場所は花比良家が運営している料亭で、時間は午後13時ごろ。
総治郎はこの日のために髪を染め直し、いつも着ているスリーピースのスーツもクリーニングに出して整えてきた。
間中の顔を立てるため、不恰好なマネはできないからだ。
「成上さん、こちらです」
料亭から2、30メートル離れた場所にあるコインパーキングに車を停めて、間中は料亭までの道のりを教えてくれた。
「すごいな…」
間中についていくと、見事な装飾を施された赤塗りの門が、総治郎を出迎えてくれた。
「江戸時代から続く老舗中の老舗ですからね」
もはや勝手知ったるといった様子の間中が、慣れた手つきで門を開け、中に入っていく。
それについていくと、奥ゆかしくも華やかな日本庭園が視界いっぱいに広がっていた。
少し向こうでは鹿おどしが鳴り響き、太鼓橋がかかった池があり、その中では何匹ものまるまる肥えた錦鯉が優雅に泳いでいるような、風情のある料亭だった。
「ああ、間中さん!」
男の声がした。
声のする方へ目を向けると、その声の主がどんどんこちらへ近づいてくる。
「こんにちは、花比良さん。こちら、成上総治郎さんです」
「はじめまして、花比良さん」
名前を呼ばれて、総治郎は礼をした。
「はじめまして、成上さん。花比良康陽と申します」
花比良氏も総治郎に応えるようにして礼をした。
礼の言葉ひとつお辞儀ひとつ取ってみても伝わるその穏健さに、総治郎は感心した。
江戸時代から代々続く大きな家の主人である彼と、成金の自分との違いを感じたのだ。
総治郎とさほど違わない歳の花比良氏は、背丈も総治郎とさほど違わない180センチぐらい。
肩も胸も厚くて恰幅がよく、顔の輪郭は四角い。
太い眉に垂れた目尻、唇は薄くも厚くもなく、笑うと小鼻が横に広がる様は、人が良さそうに見える。
花比良氏の背後には、花比良氏と同じくらいの年頃の女性と、若い男が立っている。
女性はおそらく花比良氏の妻であろう。
色白でほっそりしていて、並行な眉に、夫と同じように垂れた目尻、白い肌には歳相当にシワがあるが、シミやくすみは見当たらない。
いかにも上流階級のご夫人といったような、上品な女性だ。
「はじめまして、妻の京子と申します」
花比良夫人がにっこり優雅に微笑みかける。
「はじめまして、成上です」
「ほら、挨拶なさい」
総治郎が挨拶すると、花比良夫人が息子に促した。
「…はじめまして、直生です」
母親に言われた通りに、息子が挨拶する。
──この子、本当に25歳か?
初めて顔を合わせたときの、直生の第一印象はそれだった。
身長は160センチ前後しかなく、着物に包まれてはいても、体がほっそりしているのが嫌でもわかる。
この体格は花比良夫人から受け継いだものであろう。
大きな瞳に平行な眉、ふっくらした唇、丸い頬は愛らしい反面、子供っぽさが際立つ。
幼顔が過ぎて、見ようによっては高校生くらいにも見える。
とてもじゃないが、結婚相手として見られる感じがまったくしない。
「初めて会った親戚の子ども」といったような、あまりにも遠い存在のように感じられる。
これが、直生と総治郎の出会いであった。
日時だとか場所だとか、手間のかかるセッティングは全て間中が行い、送迎と同行まで引き受けてくれた。
場所は花比良家が運営している料亭で、時間は午後13時ごろ。
総治郎はこの日のために髪を染め直し、いつも着ているスリーピースのスーツもクリーニングに出して整えてきた。
間中の顔を立てるため、不恰好なマネはできないからだ。
「成上さん、こちらです」
料亭から2、30メートル離れた場所にあるコインパーキングに車を停めて、間中は料亭までの道のりを教えてくれた。
「すごいな…」
間中についていくと、見事な装飾を施された赤塗りの門が、総治郎を出迎えてくれた。
「江戸時代から続く老舗中の老舗ですからね」
もはや勝手知ったるといった様子の間中が、慣れた手つきで門を開け、中に入っていく。
それについていくと、奥ゆかしくも華やかな日本庭園が視界いっぱいに広がっていた。
少し向こうでは鹿おどしが鳴り響き、太鼓橋がかかった池があり、その中では何匹ものまるまる肥えた錦鯉が優雅に泳いでいるような、風情のある料亭だった。
「ああ、間中さん!」
男の声がした。
声のする方へ目を向けると、その声の主がどんどんこちらへ近づいてくる。
「こんにちは、花比良さん。こちら、成上総治郎さんです」
「はじめまして、花比良さん」
名前を呼ばれて、総治郎は礼をした。
「はじめまして、成上さん。花比良康陽と申します」
花比良氏も総治郎に応えるようにして礼をした。
礼の言葉ひとつお辞儀ひとつ取ってみても伝わるその穏健さに、総治郎は感心した。
江戸時代から代々続く大きな家の主人である彼と、成金の自分との違いを感じたのだ。
総治郎とさほど違わない歳の花比良氏は、背丈も総治郎とさほど違わない180センチぐらい。
肩も胸も厚くて恰幅がよく、顔の輪郭は四角い。
太い眉に垂れた目尻、唇は薄くも厚くもなく、笑うと小鼻が横に広がる様は、人が良さそうに見える。
花比良氏の背後には、花比良氏と同じくらいの年頃の女性と、若い男が立っている。
女性はおそらく花比良氏の妻であろう。
色白でほっそりしていて、並行な眉に、夫と同じように垂れた目尻、白い肌には歳相当にシワがあるが、シミやくすみは見当たらない。
いかにも上流階級のご夫人といったような、上品な女性だ。
「はじめまして、妻の京子と申します」
花比良夫人がにっこり優雅に微笑みかける。
「はじめまして、成上です」
「ほら、挨拶なさい」
総治郎が挨拶すると、花比良夫人が息子に促した。
「…はじめまして、直生です」
母親に言われた通りに、息子が挨拶する。
──この子、本当に25歳か?
初めて顔を合わせたときの、直生の第一印象はそれだった。
身長は160センチ前後しかなく、着物に包まれてはいても、体がほっそりしているのが嫌でもわかる。
この体格は花比良夫人から受け継いだものであろう。
大きな瞳に平行な眉、ふっくらした唇、丸い頬は愛らしい反面、子供っぽさが際立つ。
幼顔が過ぎて、見ようによっては高校生くらいにも見える。
とてもじゃないが、結婚相手として見られる感じがまったくしない。
「初めて会った親戚の子ども」といったような、あまりにも遠い存在のように感じられる。
これが、直生と総治郎の出会いであった。
0
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~
ひなた翠
BL
小野寺真弥31歳。
転職して三か月。恋人と同じ職場で中途採用の新人枠で働くことに……。
朝から晩まで必死に働く自分と、真逆に事務所のトップ2として悠々自適に仕事をこなす恋人の小林豊28歳。
生活のリズムも合わず……年下ワンコ攻め小林に毎晩のように求められてーー。
どうしたらいいのかと迷走する真弥をよそに、熱すぎる想いをぶつけてくる小林を拒めなくて……。
忙しい大人の甘いオフィスラブ。
フジョッシーさんの、オフィスラブのコンテスト参加作品です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる