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親友に相談
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結婚が決まってすぐ、総治郎はこの旨を約30年来の親友竹馬大成に話すことにした。
場所は大衆向けの安い定食屋。
結婚式まであと10日というときに、焼き魚や漬物なんかつまみながら、2人は向かい合わせに座って話し込んでいた。
「家の経済状況を理由に、25のオメガの息子を金持ってる50のアルファのオッサンに嫁がせるって、それってよお…」
湯呑みを片手に、大成は口の端をヒクつかせた。
「わかってる、皆まで言ってくれるな」
総治郎は額を押さえた。
「完全にオヤジものAVの世界だよなあ」
言って大成は、ずずずと煎茶をすすった。
「言うなっつっただろう!」
大成のあまりにも明け透けな言い様に、総治郎は思わず大きな声を出してしまった。
店内にいる何人かの客が、こちらに視線を移す。
それが恥ずかしくなった総治郎は、誤魔化すように一度ごほんと咳払いした。
「せめて、向こうがあと10歳くらい歳上だったり、お前が10歳若かったらなあ…」
「俺が一番思ってるよ、それは」
総治郎はアジの開きを箸でつまんで口に入れた。
「25歳差と15歳差ではなあ…この隔たりはデカイぞ」
──まだ言うのかコイツ…
いい加減にして欲しいと総治郎は思ったが、大成の要らんこと言いは今に始まったことではない。
こんなことでいちいち怒っていたらキリがないから、大成の言葉を半ば無視するような形で、総治郎は話を続けた。
「それは向こうだって百も承知だ」
「それはそうだとしても、お前はどうなんだよ?」
使い古されたテーブルの向こうから、大成が総治郎を指差した。
「俺?」
「お前はそれでいいのか?押し付けられたようなもんだろうに」
大成が訝しげに総治郎を見つめてくる。
「乗りかかった船だ。最低限の面倒は見るし、要望があれば、できうる限り応えるつもりだよ」
総治郎は味噌汁をすすって飲んだ。
麹の香りが鼻腔をくすぐり、食欲をそそってくる。
歳を取って食欲は減退したが、ここで食べるものは何かもが美味しいと感じる。
この店には、総治郎がまだ会社員だった頃によく世話になったし、今でも懐かしくなって、こうしてときどき来ている。
「全財産よこせよー、とか言われてもか?」
大成が茶碗に盛られた白米をかき込むように口に入れていく。
この親友は若い頃から、食べ方が豪快だ。
「あの子がそんなことを言うタマだとは思えないがなあ…」
お見合い中の直生の様子を思い出そうとするものの、そのときの記憶がなかなか出てこない。
「ナオキくん、だっけ?そもそも、その子はどうなんだ?親が自分のいないところで、自分の結婚相手を勝手に決めたことに対して、どう思ってんだろうな?」
「そのへんも聞いたよ。直生くんは、もうどこに嫁いでも何も言う気はないって話してるそうだ」
数週間前、結婚式の日取りや式場について、話し合いの場が設けられた。
そこにも直生はいたが、総治郎や花比良夫妻が何を言っても、自分の希望や反論の言葉を述べることはなかった。
そもそも、ほとんど言葉を発していなかった気がする。
花比良家の経済状況を鑑みて、費用はこちらが出すと言ったときに両親と一緒に放った「本当に、ありがとうございます」と、話し合いが終わった際の「これから、よろしくお願いしますね」のこの二言くらいだ。
──本当に、あの子は本心が見えないな…
我が儘のひとつも言ってくれれば、こちらだって動きやすいのだけど。
総治郎の煩悶は尽きない。
場所は大衆向けの安い定食屋。
結婚式まであと10日というときに、焼き魚や漬物なんかつまみながら、2人は向かい合わせに座って話し込んでいた。
「家の経済状況を理由に、25のオメガの息子を金持ってる50のアルファのオッサンに嫁がせるって、それってよお…」
湯呑みを片手に、大成は口の端をヒクつかせた。
「わかってる、皆まで言ってくれるな」
総治郎は額を押さえた。
「完全にオヤジものAVの世界だよなあ」
言って大成は、ずずずと煎茶をすすった。
「言うなっつっただろう!」
大成のあまりにも明け透けな言い様に、総治郎は思わず大きな声を出してしまった。
店内にいる何人かの客が、こちらに視線を移す。
それが恥ずかしくなった総治郎は、誤魔化すように一度ごほんと咳払いした。
「せめて、向こうがあと10歳くらい歳上だったり、お前が10歳若かったらなあ…」
「俺が一番思ってるよ、それは」
総治郎はアジの開きを箸でつまんで口に入れた。
「25歳差と15歳差ではなあ…この隔たりはデカイぞ」
──まだ言うのかコイツ…
いい加減にして欲しいと総治郎は思ったが、大成の要らんこと言いは今に始まったことではない。
こんなことでいちいち怒っていたらキリがないから、大成の言葉を半ば無視するような形で、総治郎は話を続けた。
「それは向こうだって百も承知だ」
「それはそうだとしても、お前はどうなんだよ?」
使い古されたテーブルの向こうから、大成が総治郎を指差した。
「俺?」
「お前はそれでいいのか?押し付けられたようなもんだろうに」
大成が訝しげに総治郎を見つめてくる。
「乗りかかった船だ。最低限の面倒は見るし、要望があれば、できうる限り応えるつもりだよ」
総治郎は味噌汁をすすって飲んだ。
麹の香りが鼻腔をくすぐり、食欲をそそってくる。
歳を取って食欲は減退したが、ここで食べるものは何かもが美味しいと感じる。
この店には、総治郎がまだ会社員だった頃によく世話になったし、今でも懐かしくなって、こうしてときどき来ている。
「全財産よこせよー、とか言われてもか?」
大成が茶碗に盛られた白米をかき込むように口に入れていく。
この親友は若い頃から、食べ方が豪快だ。
「あの子がそんなことを言うタマだとは思えないがなあ…」
お見合い中の直生の様子を思い出そうとするものの、そのときの記憶がなかなか出てこない。
「ナオキくん、だっけ?そもそも、その子はどうなんだ?親が自分のいないところで、自分の結婚相手を勝手に決めたことに対して、どう思ってんだろうな?」
「そのへんも聞いたよ。直生くんは、もうどこに嫁いでも何も言う気はないって話してるそうだ」
数週間前、結婚式の日取りや式場について、話し合いの場が設けられた。
そこにも直生はいたが、総治郎や花比良夫妻が何を言っても、自分の希望や反論の言葉を述べることはなかった。
そもそも、ほとんど言葉を発していなかった気がする。
花比良家の経済状況を鑑みて、費用はこちらが出すと言ったときに両親と一緒に放った「本当に、ありがとうございます」と、話し合いが終わった際の「これから、よろしくお願いしますね」のこの二言くらいだ。
──本当に、あの子は本心が見えないな…
我が儘のひとつも言ってくれれば、こちらだって動きやすいのだけど。
総治郎の煩悶は尽きない。
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