【完結】人妻オメガの密かな願望

若目

文字の大きさ
71 / 82

気づいたこと

しおりを挟む
改めて思うのだけど、こんなに若くてキレイな顔をした直生が、なぜこんな金があるだけの中年に嫁いだのだろう。

さらには、こんな中年との子どもまで生みたいと言い出す。
ここまできても、やはり直生の考えていることは理解できなかった。

──まあ、もういいか…

番になった以上、いまさらそんなことを考えてもどうしようもない。
それに、何も言われないよりは、わがままのひとつでも言ってくれた方が、こちらとしてはありがたい。

「決まりました。とんかつ定食にします!」
「おお、そうか。すみません。注文をお願いします」

「はい、ご注文をどうぞ」
若い男性従業員が、注文表を片手に駆け寄ってくる。
「サバの味噌煮定食をお願いします」
総治郎はお冷やが入ったグラスをテーブルに置いた。
「息子さんのほうは?」
男性従業員が、直生に注文を聞いた。

「私、息子じゃなくて、この人の妻ですう」
直生が、にこやかに従業員の言葉を訂正した。
ラブホテルから出てきたときの職務質問じゃあるまいし、こんなところでまで、自分たちの関係性を明かすことはないだろう。

「え…」
男性従業員は心底驚いた顔をした。
それはほかの人たちも同じことで、先ほどの女性従業員と店主はもちろんのこと、店内にいる数人の客が一斉にこちらを見た。

地元のサラリーマンと思わしき客は、直生の言葉に驚いて、食事する手を止めてこちらを凝視している。

「直生!」
総治郎は目立たないように小声で、直生をたしなめた。
「し、失礼しました。奥さま、ご注文をどうぞ」
困惑していた男性従業員は、冷静さを取り戻すと、自分の仕事にかかった。
というより、冷静さを取り戻すために仕事に集中しようとしたのかもしれない。

どちらにせよ、総治郎はいたたまれなくなった。
直生は妙に嬉しそうにしているし、別に何ら悪いことをしているわけではないので、怒るに怒れない。

「とんかつ定食をお願いします」
直生は注文を述べると、メニューをパタンと閉じた。
「はい、ほかにご注文ございませんか?」
男性従業員は、総治郎と直生の顔を交互に見た。

「ありません」
総治郎は震える手でお冷やを掴んだ。
手のひらが湿る。
それが自分の汗なのか、グラスについた水滴なのかもわからない。

「それでお願いしまあす」
「あ…かしこまりました」
直生が上機嫌で答えると、男性従業員はパタパタと急ぎ足で店の奥に引っ込んでいった。

「直生、あんなところで「息子じゃなくて妻です」なんて言うことないだろう」
総治郎はなるだけ声を小さくして直生を注意した。
「どうして?」
直生がキョトンした様子で首を傾げた。

──かわいいな…











──…ってそんな問題じゃない!なんだ「かわいい」って!!

総治郎はまたしても自分の心情が理解できなくて、戸惑った。

「どうしてって…それはだな……」
それよりも、直生の疑問に対して、どう説明したらいいものか。
総治郎は口ごもってしまった。
商談なら、すらすらと言葉を紡ぐことができるのに、直生が相手だと、なぜかしどろもどろになってしまう。
これはいったい、どういうことなのだろう。

「あの、ひょっとして、迷惑でした?私とごはん行くの…」
直生の表情が、一気にくもりはじめる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~

ひなた翠
BL
小野寺真弥31歳。 転職して三か月。恋人と同じ職場で中途採用の新人枠で働くことに……。 朝から晩まで必死に働く自分と、真逆に事務所のトップ2として悠々自適に仕事をこなす恋人の小林豊28歳。 生活のリズムも合わず……年下ワンコ攻め小林に毎晩のように求められてーー。 どうしたらいいのかと迷走する真弥をよそに、熱すぎる想いをぶつけてくる小林を拒めなくて……。 忙しい大人の甘いオフィスラブ。 フジョッシーさんの、オフィスラブのコンテスト参加作品です。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...