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3章 恋の証明
09 今の私にできること
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今の自分にできることって何だろう。
自分に付加価値って、どうやったら付けられるんだろう。
歩いている時や食事をしている時。
頭の中が少しでも暇になることがあれば、そんなことばかり考えていた。
勉強には今まで以上に熱が入っていた。
何かしていないと気持ちが焦ってどうにかなりそうだった。
今までも奨学金欲しさに勉強を頑張っていたけれど、その頃とは比にならない熱意と集中力で授業を受けていたと思う。
授業で納得できないことがあれば、教授に食らいついて、納得いくまで議論させてもらった。
多分、答えの出ない苛立ちがそういう方向に出たんだと思う。
私のストレス発散は健全で建設的だなと我ながら感心する。
授業が終わり私の存在を確認するなり、サッと視線を外して講堂を後にする教授を見て、良くも悪くも顔を覚えてくれたんだな……と複雑な気持ちになった。
今まで頭になかった進学も、就職と平行して考え始めていた。
――美亜は成績割といいじゃない。ロースクール行って司法試験目指すとか……。
千夏にそう言われた時は、進学をしようなんて微塵も思っていなかった。
だけど、司法試験に合格したら、孝幸さんに一目置かれる存在になれるのかもしれない……なんて。
そう考え出したらいてもたってもいられなくなって、気がつけばロースクールの合同説明会に足を運んでいた。
事前予約や申し込みがいらなかったのも大きかったのかもしれない。
ポスターで見た合同説明会の日時と場所が頭の中に焼きついて離れなくて、当日の朝になったら、話を聞くだけなら行ってみても良いかもしれない、という気になっていた。
母校に付属するロースクールの他にも、有名大学のロースクール3校が説明に来ていた。
代表者の挨拶に続き、カリキュラムや教員の紹介、入試についての案内が続く。
学生が定員割れをしている学校が多いこのご時勢、受験するのなら、少しでも司法試験の合格率が高いところに行きたい。
自分の今の成績で挑戦できるとしたら、どこまでが限界だろう。
予備校も視野に入れた方が良いのだろうか。
軽い気持ちで来ていた筈なのに、いつの間にか自分が進学をしている状況を思い描いて、質疑応答では率先して手を上げていた。
渡されたパンフレットをパラパラと捲って、他に何を聞こうか考えていたけれど、学費のページにきて手が止まった。
それでやっと現実に返った。
給付される分もあるようだけど、奨学金という名の貸与――借金は避けられそうにない。
将来への約束もないのに、こんな大金をどうやって返していくんだろう。
ロースクールを出た後で司法試験に受からなかったら?
5回落ちたら受験資格も無くなって借金だけが残る。
例え受かったとしても、その後は?
それで就職できるとは限らない厳しい世界なのに……。
こんな狭き門を、リスクヘッジもできない自分が、どんな覚悟で通ろうとしているの?
わかっていた筈だったのに。
何を夢見ていたんだろう。
我に返った途端、空間がぐらりと揺らいだ気がして、どうして自分がここにいるのかわからなくなった。
上がってくる質問も、説明者の回答も、みんな現実味が無くて、どこか別の世界の話を聞いているみたいだった。
自分にどこまで出来るのか試してみたい気持ちが疼いていたけど、結局、ずっと堅実に生きていくことばかりを考えていた私に、そんな大きな勝負に出るほどの度胸は無かった。
だから駄目なのかもしれない。
この狭い枠組みの中で生きていくことしか考えられないから……私は『然るべき人』になれないのかもしれない。
くしゃりと髪を掻きあげる。
就職活動の時期が迫っている。
インターンシップの申し込みをしなければ。
自分に付加価値って、どうやったら付けられるんだろう。
歩いている時や食事をしている時。
頭の中が少しでも暇になることがあれば、そんなことばかり考えていた。
勉強には今まで以上に熱が入っていた。
何かしていないと気持ちが焦ってどうにかなりそうだった。
今までも奨学金欲しさに勉強を頑張っていたけれど、その頃とは比にならない熱意と集中力で授業を受けていたと思う。
授業で納得できないことがあれば、教授に食らいついて、納得いくまで議論させてもらった。
多分、答えの出ない苛立ちがそういう方向に出たんだと思う。
私のストレス発散は健全で建設的だなと我ながら感心する。
授業が終わり私の存在を確認するなり、サッと視線を外して講堂を後にする教授を見て、良くも悪くも顔を覚えてくれたんだな……と複雑な気持ちになった。
今まで頭になかった進学も、就職と平行して考え始めていた。
――美亜は成績割といいじゃない。ロースクール行って司法試験目指すとか……。
千夏にそう言われた時は、進学をしようなんて微塵も思っていなかった。
だけど、司法試験に合格したら、孝幸さんに一目置かれる存在になれるのかもしれない……なんて。
そう考え出したらいてもたってもいられなくなって、気がつけばロースクールの合同説明会に足を運んでいた。
事前予約や申し込みがいらなかったのも大きかったのかもしれない。
ポスターで見た合同説明会の日時と場所が頭の中に焼きついて離れなくて、当日の朝になったら、話を聞くだけなら行ってみても良いかもしれない、という気になっていた。
母校に付属するロースクールの他にも、有名大学のロースクール3校が説明に来ていた。
代表者の挨拶に続き、カリキュラムや教員の紹介、入試についての案内が続く。
学生が定員割れをしている学校が多いこのご時勢、受験するのなら、少しでも司法試験の合格率が高いところに行きたい。
自分の今の成績で挑戦できるとしたら、どこまでが限界だろう。
予備校も視野に入れた方が良いのだろうか。
軽い気持ちで来ていた筈なのに、いつの間にか自分が進学をしている状況を思い描いて、質疑応答では率先して手を上げていた。
渡されたパンフレットをパラパラと捲って、他に何を聞こうか考えていたけれど、学費のページにきて手が止まった。
それでやっと現実に返った。
給付される分もあるようだけど、奨学金という名の貸与――借金は避けられそうにない。
将来への約束もないのに、こんな大金をどうやって返していくんだろう。
ロースクールを出た後で司法試験に受からなかったら?
5回落ちたら受験資格も無くなって借金だけが残る。
例え受かったとしても、その後は?
それで就職できるとは限らない厳しい世界なのに……。
こんな狭き門を、リスクヘッジもできない自分が、どんな覚悟で通ろうとしているの?
わかっていた筈だったのに。
何を夢見ていたんだろう。
我に返った途端、空間がぐらりと揺らいだ気がして、どうして自分がここにいるのかわからなくなった。
上がってくる質問も、説明者の回答も、みんな現実味が無くて、どこか別の世界の話を聞いているみたいだった。
自分にどこまで出来るのか試してみたい気持ちが疼いていたけど、結局、ずっと堅実に生きていくことばかりを考えていた私に、そんな大きな勝負に出るほどの度胸は無かった。
だから駄目なのかもしれない。
この狭い枠組みの中で生きていくことしか考えられないから……私は『然るべき人』になれないのかもしれない。
くしゃりと髪を掻きあげる。
就職活動の時期が迫っている。
インターンシップの申し込みをしなければ。
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