恋人以上、恋愛未満

右左山桃

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3章 恋の証明

39 雅の独白 懐かしい声・4

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『私はその人を好きになるまでは空っぽで、他人に……自分にさえも興味がありませんでした。私の価値を見いだしてくれた彼に、大好きだって伝えたいんです』


周りが盛り上がってきたのを良いことに、司会者は『もしかしたらこれ、彼が見てくれるかもしれないね。他に何か言っておきたいことある?』と更に美亜を焚きつける。
美亜が、え? という表情で躊躇って、『いいんですか?』と遠慮がちに尋ねれば、周りからの『いいぞ』『もっとやれ』コールに応えるように、司会者が『どうぞ、どうぞ』と促した。


『……えと、優しくしてくれてありがとう。あなたのお陰で私は愛情を知ることができました』


ふざけて煽られているのに、美亜は生真面目に丁寧に言葉を探す。


『あなたの大切な人に会った時に教えてもらったの。きっとどこかに、理屈じゃなく、優しくしたい、大切にしたいって思いあえる人がいるって。諦めたら一生出会えないんだって。私はそれを聞いた時、まるで運命の人みたいだなって思った。離れてしまっても、またどこかで道が繋がって巡り会えたら運命になれる? 私が、あなたの運命の人になりたい』


画面の向こうから、冷やかしと嘲笑が起こる。
美亜をバカにしてるとしか思えない心ない言葉も。
それでも、健気に必死に言葉を紡いでいる美亜の耳には全く入っていないようだった。
ぶれず、ひたすらにカメラに向かって、純粋な子供みたいに訴え続けた。


『これから先に、どんな辛いことが待っていたとしても、泣く時は、あなたのために泣きたいの。あなたが悲しい時は一番傍にいて一緒に泣きたい。傷つくことは恐くないから、荷物は私にも分けて。持たせて。どんなことでもいいよ、一緒に乗り越えていこうよ。傍にいたい……』


願うように祈るように紡ぐ声が、掠れて消えそうになる。
瞳が揺らめいて、美亜が泣くのを耐えているのがわかる。
それでもカメラから視線を逸らすまいと、強い気持ちで立っている。

背中が震えた。
まっすぐに前を見据える美亜は綺麗で、画面越しなのに強い視線に圧倒された。
息苦しさが限界になって、呼吸を忘れて動画に見入っていたことに気がつく。
息を深く吸って吐いてから、ずるずると椅子の背もたれから体を滑らせた。

誰に向けた言葉かなんて考えるまでもなかった。
考えもしなかった。
頭の中で独りやりとしていた会話を、別れて離れてしまっても、ずっと美亜が返してくれていたなんて。


『あなたは私をずっと支えてくれた。私もいつか……あなたを支えたい……』


もう、ずっと、支えてくれていたよ。
嬉しい時も悲しい時も、誰よりも強く美亜を想った。
もしも還ることができるなら、そう伝えるのに。
この日この場所で、誰の目も気にしないで美亜を抱きしめられたら良かった。

自信をつけて、これ言うためにミスキャンに出たの?
俺がこの動画に気づかなかったらどうしたの……。

まったく……美亜は。もう。


『あなたの選んだ道を突き進んで、あなたの信念を貫き続けて。大丈夫だよ。間違ってなんかいないから。あなたが輝ける場所でたくさん笑って』


美亜の背後で、実行委員らしき人達が腕時計を示している。
多分、持ち時間をオーバーしたんだろう。
面白半分で美亜を持ち上げといて、結局軌道修正できずに焦るのか……アホだなぁ……。
司会者のグダグダっぷりに苦笑してみるけど、鼻の奥は痛い。

もう……本当に……、美亜はいつもどこかずれてる。
真面目で一生懸命で、実直というか馬鹿正直というか……。


『ずっと、ずっと応援してる。だから、どうか自信を持って』


俺のことをお人好しとか言うけど、自分の方がよっぽどでしょ。
俺のせいで振り回されて、たくさん傷ついたのに。
お母さんの元へ帰るのは大変だったでしょ?
それでも……別れてからも俺のことばっか……。

俺のことばっかり、心配してる。

何で? 何を、あの時不安に思ったりしたんだろう。
疑う余地がないくらい、この子は俺のことが大好きだったのに……。


『私の気持ち、いつかちゃんと伝えに行くからね。今よりもっと強くなって、私が自分を誇れるようになったら』


こんなの他の誰にも見せたくなかったよ。
美亜のばか。
知ってるでしょ? 俺は独占欲強いんだから。
そんな可愛い顔で、声で、どうにかなりそうなぐらい嬉しい言葉、全世界に発信しないでよ。


『好きだよ』


美亜の声が震える。
イヤホン越しでも十分過ぎるくらいの破壊力で、高鳴る胸をワイシャツ越しに掴んで机に突っ伏した。

そんなの。


『大好き』


そんなの、俺の方が。


『好き。大好きだよ』


思わずガタン! と音を立てて席を立つ。
本郷さんが驚いて俺の方を向く。
片岡さんはいつの間にかいなくなっていた。


「雅さん……? どうなさいました?」

「俺……」


イヤホンを耳から引っこ抜いた。
限界だ、もう。

今すぐにでも逢いたい。
触れて、抱きしめて……。


「……たい……」

「はい?」

「……伝えたい……」

「何をです?」


「愛してるって」

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