恋人以上、恋愛未満

右左山桃

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その後のおはなし

それから・9

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枕を抱いてベッドの上で気が済むまでゴロゴロした後、ふと冷静になって体を起こした。
雅がシャワーを終える前に何かすべきことは無いか。 
今度こそはちゃんと、愛し合っている恋人みたいな普通のセックスがしたい。
そしてあわよくば、私とまたしたいって思わせて雅の気持ちをガッチリばっちり繋ぎ止めたい。
そのために、彼女として私が出来うる最大限の努力はしたい。
ちょっとは、ほら。
こう……可愛く喘いで……みたり……とか?


「あ……あん……?」


き、キモッ。
試しに呟いてみてから精神的に死んだ。

えぇ? みんな素で出すの? こんな声……。
キャラじゃない。
少なくとも自分がこんな声を出しているのは想像するだけで気持ち悪い。
いやでも例えぎこちない……可愛くない喘ぎ声が出たとしても、無反応よりは幾分かマシな気がする。
あと……雅の為にできること……女性が男性にしてあげられることと言えば……?


「…………」


両手をグーにしたまま、暫く思考が停止する。
突き詰めて考えてみると、自分がどんな風に行為に臨んだらいいか、わかってなさ過ぎて絶望した。
このままじゃ、勢いに任せただけで何にもできない、つまらない女になってしまう。

あ、そうだ。
閃いて、ポンと拳で手のひらをたたく。
ラブホテルのテレビって、いかがわしい番組もやっているよね?
そういうのを参考にするとよくない、とも聞くけど、やっぱり男性の夢と憧れが詰まっている筈なのだし、男性を惹きつけるコツとか何か……ヒントだけでもわかるかも……。
藁をもすがる思いで、テレビをつけてリモコンを適当にまわした。
全面に肌の色が押し出されているチャンネルを見つけて手を止める。

そして言葉を失った。

目に映ったのは、自分の望んでいたものとはほど遠い世界で、少なくとも私には幸せな光景に見えなかった。
掴まれた胸、荒々しく打ち付けられる腰は痛そうで、悩ましげな女優の表情でさえ苦痛に歪んでいるように感じられた。
ぞくり、と背中に氷を放り込まれたような冷たさを感じる。
ただ、ただ、恐ろしかった。

死にかけた夜の記憶が生々しく思い出され、鳥肌が立つ。

違う。

きっと雅とはこんなんじゃない。
だから、重ねちゃ、駄目。

違う。
違う。

違う、のに。
寒くもないのに歯がカチカチ鳴る。
目から涙が溢れた、体の震えが止まらなかった。
もうこれ以上見たくないのに、映像から目が離せず、体が硬直して動かない。


「美亜!」


雅の声でやっと我に返った。
リモコンの上に手が乗せられていて、テレビはもう消されていた。


「大丈夫?」


指先に力を入れて、震えを止めようとする。
無理やり笑おうとするよりも先に、雅にぎゅっと抱きしめられていた。
雅の髪も体もまだ濡れていて、身支度を疎かにしてでも私の元に来てくれたことに気づく。


「やめよう」


一番恐れていた言葉が雅の口から出た。


「や……」

「今日はやめよう」

「いやだ……」

「大丈夫、いつかできるから」

「いやだよ……」


ボタボタ涙が落ちる。


「なんで? 付き合っても、私、雅にそんなこともしてあげられないんだ!?」

「美亜」

「私って、なんでこうなの? どんなに頑張ったって、一番大事な時にこれじゃ……何の意味もないのに……」


情けない弱音が次々に口から出る。
犯人はあの後捕まった。
体の傷も癒えた。
辛いことはもう全部やり尽くして終わった筈だったのに。
やっと告白できて、奇跡的に両思いになれたのにどうして……?


「辛い思いをしたんだよ。美亜が生きているから怖いと感じるんだから。当たり前の反応なんだから、無理しないで」

「無理でもなんでも、できるものならしたい……。このままじゃ……雅に愛想尽かされちゃう……」

「それはないから」

「なんで? そんなのわかんないじゃない」

「美亜だって、俺の気持ちはわからないでしょ? 信じられないなら、信じてもらえるまで何度でも伝え続けるよ。美亜が、好きだよ」


そう言われて、やっと我に返った。
その言葉は、私が信条とすべきことだったから。


「あのね、本当はこんなとこで話すことじゃないんだけど」

「……え?」

「もっと場所を選んでちゃんと伝え直すから、美亜も今すぐ返事しなくていいんだけど」


雅はいったん言葉を区切って、本当に言うべきか逡巡したように見えた。それでも私をまっすぐに見据えた。


「俺、美亜と結婚したいんだ」

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