願って祈って結ばれて

mimi__222

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「瀬川ー!!」

「っ!桜河…」

あれから、あたしはほぼ毎日と言っていいほどに放課後、瀬川が演奏するこの音楽室に入り浸っている。

瀬川とは、学校のことやヴァイオリンのこと、他愛も無い会話をして一頻り演奏を聴いたら、お互い昇降口で別れるといった調子だ。

「どうしたの?瀬川、何見て…」


あたしに気づいた君は、夕日のさす窓からグラウンドのとある一点を見つめていた。

あたしが同じものをみようとすると、彼はそれを制止しようと私の前に立ちはだかったが、あたしはそれをひょいと避けて窓から首を出した。

「っ。」

君が息を呑む音がした。

部活だろうか。グラウンドには、制服のままタオルを片手に何人かの男子がサッカーをしていた。

その中でも一際目立っていたのが、輪の中止にいる男だ。3階であるこの場所からみてもわかる。180
cm以上はありそうな高身長に、夕日にあたったワインレッドの髪が風でなびいている。


きっと、瀬川はその彼を見ていたんだろう。

「瀬川、あの子がどうか…っ」

君は見たこともないくらい、真っ赤な顔をして俯いていた。あたしにその顔を見せたくないのだろう。顔を覆おうとした君の腕は、微かに震えている。

あたしはあまり勘が良い方ではないし、空気を読むのも正直苦手だ。が、そんなあたしでもわかってしまった。あぁ、そうか。だから君は、君の音色は、いつもあんなに苦しそうなんだね。


君はきっと、ワインレッドの彼に恋しているんだ。
君の演奏を聴いたあの日から、あたしが君に恋するように。


なんだ、そっか。あたしの恋はもう終わってたってことね。なるほど。


けれど、不思議と辛くはなかった。
全く辛くないかと言われれば、そうではない。

それよりも、一瞬でもみた君の顔が、心の底から彼に恋をしている顔だったから。心の底から、彼が好きだという顔をしていたから。

君に幸せになって欲しい。


「瀬川…あの子のこと好きなんだ。そんなに、慌てて恥ずかしがらなくてもいいのに~!好きな人は見ていたいよね。ね?」

あたしは下から、君の顔を覗き込んだ。
その瞬間、私はギョッとした。

なんと。泣いていたのだ。瀬川が。

いつもはクールで、でもあたしが冗談を言えば、柔らかく笑っていた瀬川が。泣いていた。


「えっ!ちょ、ごめん!見られたくなかったよね…?瀬川、隠そうとしたのにあたしってば勝手に覗き込んじゃって。ごめんね、本当に悪いと思ってるから…瀬川泣かないで~!!」


「い、いや。桜河のせいじゃ、」

嗚咽を堪えて、あたしのせいではないと必死に伝えようとする君。本当にやってしまったと心の底から反省している。瀬川にとっては誰にも知られたくないことだったのだろう。そりゃそうだ。好きな人がバレてしまったなんて、あたしですら同じ反応をするかもしれない。ましてや瀬川の場合は……


「引かないの…?」



同性だなんて。


君の声は震えている。一頻り涙を拭った君の顔は、唇を噛み締めて俯いている。

あたしは彼に幸せになって欲しいだけなんだ。前は好きだったけれど、今は君の幸せを願っている。我ながら、適応能力が高いと思う。けれど、根本的なところは変わらない。

「なんで?」

語気を強めていった私に、瀬川は少しムッとしたようにあたしを見据えている。


「だって、見たでしょ桜河も。俺が好きなのは、同じ男なんだよ…?びっくりしたでしょ、気持ち悪いでしょ。素直に言っていいよ。」


気持ち悪いでしょ、なんて君はあたしの返答をわかった口ぶりで言うくせに。その顔は、辛そうだ。君は今まで、そう言われたことがあるのだろうか。好きな人を言っただけなのに。気持ち悪いだなんて。言われたことがあるのだろうか。

それはきっとさぞ辛かったんだろう。苦しかったんだろう。あたしにその痛みはわからないけれど、でも。




「思ってない。言わない。だから、私は瀬川の恋を応援したいよ」


やっぱり、あたしは君に幸せになって欲しい。

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