愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌

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常に危険と隣り合わせだけど怖くない

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 一方の真彩は、

「あの、一体何なんですか?」

 買い忘れた物を買い終えて店内を出た瞬間、ガラの悪い二人組の男に半ば無理矢理スーパーのすぐ横の小道へ連れて行かれ、男たちと対峙していた。

「お前、鬼龍組の小僧と一緒に居たよな?」
「組長の女か?」
「あなた方に答える義理はありません!」

 突然の事に驚き、一瞬何が何だか状況が理解出来ていなかった真彩だけど、『鬼龍組』に良くない印象を持っている事を感じ取り、相手は敵対している人間だと察する。

(どうしよう、早く朔太郎くんの所に戻らないと)

 本当は怖くてたまらないはずなのに、真彩は毅然とした態度で相手を見据えて恐怖心を悟られないようにするも、

「コイツ、震えてやがるぜ」
「とりあえず連れて帰りますか」
「そうだな。鬼龍組にとって大切な女かもしれねぇから、使い道もあるだろうし」

 この状況下で平然としていられる女性などそうそう居るはずもなく、身体が小刻みに震えている事を見抜かれた真彩は最大のピンチを迎えていた。

(ここで捕まったら、理仁さんたちに迷惑がかかっちゃう。何とかしなきゃ……)

 覚悟を決めた真彩は男たちが油断している一瞬の隙をついて逃げ出した。

「おいコラ待てや!!」

 しかし相手もそこまで馬鹿ではないようで間髪入れずに真彩を追いかけると、恐怖で足が震えて上手く走れない真彩の足はもつれてその場に倒れ込んでしまった。

(もう、駄目……)

 捕まる事を覚悟していた真彩だったのだけど、

「テメェら、女相手に何やってんだよ!」

 すんでのところで朔太郎が現れ、真彩を背に庇って相手の男たちを睨みつけた。

「朔太郎……くん」
「姉さん、怪我はないっスか?」
「う、うん……」
「間に合って良かった」
「ごめんね……」
「いいッスよ」

 真彩が連れて行かれた際、数人の目撃者がいた事、その客たちが店員に伝えていた事で店長が警察を呼ぼうとしていた所に朔太郎が通りがかり、話を聞いてすぐに駆けつけ今に至る。

 朔太郎は真彩の無事を確認して安堵の息を漏らすと再び相手の男たちに向き直る。

「おめェら猿渡さわたり組の奴らだな?  この前の事、全然懲りてねぇみてぇだなぁ?  この事は組長に報告させてもらう。覚えておけよ」

 どうやら相手の猿渡組というのは鬼龍組より格下で以前にも何か問題があったようで、朔太郎の言葉に相手の男たちは焦りの色を浮かべていた。

「うっせェんだよ!  小僧が調子に乗りやがって!!」

 けれど、ここまで来たら後には引けないのか、二人の内の一人がズボンの右ポケットから折りたたみ式のナイフを取り出すと、朔太郎と真彩目掛けて襲いかかっていく。

「姉さん、離れろっ!!」
「きゃあっ!!」

 咄嗟に朔太郎は背に庇っていた真彩を後ろに押し出し、すぐ側にあった鉄パイプような物を手に取ってナイフの刃を受け止めた。

「姉さんは早く店に逃げて!」
「で、でも……」
「俺は平気だから早く!!」
「わ、分かった!」

 これ以上自分がこの場に留まっていては朔太郎の足でまといになると察した真彩は、後ろ髪引かれる思いで人の多い店の入口へと駆けて行く。

(朔太郎くん……無事でいて!!)

 それから数分後、店側が呼んだらしい警察官がやって来て相手の男たちは連れて行かれ、真彩と朔太郎も軽く聴取を受ける事になった。


「朔太郎くん、本当にごめんね」
「いや、大した事ないんで、謝らないでください」

 聴取を終えて帰宅途中の車内で、真彩は自分のせいで大きな騒ぎになってしまった事を悔いて朔太郎に謝り続けた。

「だって、私が一人で行動しなければこんな事にはならなかったのに……」
「……まぁ確かに、それはそうッスね」

 いつもの朔太郎なら真彩を責めるような言葉は絶対に言わないのだけど、何か思う事があるのか少々素っ気ない。

「本当に……ごめんなさい」

 真彩もそれを感じ取っているのだろう。もう一度謝罪の言葉を口にした後は黙り込んでしまい、車内には居心地の悪い空気が流れていく。

 しかし、それを破ったのは朔太郎だった。

「姉さん、どうしていつも買い出しに俺らが同行してるか、分かりますか?」
「それは、荷物も多いし、危険な事があるかもしれないから?」
「そうッス。これは姉さんに余計な心配をかけないよう理仁さんに言うなって言われてた事なんですけど、俺ら鬼龍組は姉さんが思ってる以上に色んな組の人間から恨まれたりしてるんで、危険は日常茶飯事なんスよ」
「そう、なの……?」
「理仁さんは頭が良くてとにかく経営向きで、気付けば国内の企業を大きくして、今じゃ世間に知らない人がいないくらいの大企業の経営者になった。けど、理仁さんは表に立てる人間じゃないからって経営者としての名は伏せて他の人に任せてるけど界隈で知らない人はいない。そして鬼龍組としては金の取り立てとか大きい声じゃ言えないような取り引きをやってるから、妬み恨み様々、多方面から目を付けられて狙われる事は日常的なんだ」
「…………」
「勿論、組員である俺たちも何時どこで狙われるか分からねぇから気が抜けない。俺や兄貴はその事を姉さんにも話すべきだって言ったけど、理仁さんは頑なにそれを拒んだんだ」
「……どうして……」
「聞いたら姉さんや悠真がのびのびと生活出来ないだろうし、屋敷から出る事を躊躇わせても可哀想だからって。それなんで姉さんや悠真が外へ出る時は、例え敷地内でも必ず誰かが同行するように言い付けられてるんっス」
「そう……だったの……」

 話を聞いた真彩は、考えている以上に危険な世界なんだと改めて知った。

「これからは、気を付けるよ」
「はい。絶対、一人で行動するのだけは控えてください。一人になる際は俺ら同行者の目の届く範囲でお願いするッス」
「うん、そうするね」

 先程より重い空気は無くなったものの、いつもの様に楽しく会話が出来る状態でもない車内に会話は無く、ラジオから流れる曲だけが響いていた。
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