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 翌日、案の定竜之介くんは仕事終わりに寄るところがあると伝えて来た。

 それに伴って、私と凜の事は田所さんに頼むと言っていた。


「亜子様、凜様、お帰りなさいませ」
「あ、田所さん……すみません、わざわざ迎えに来ていただいて……」

 竜之介くんに頼まれた田所さんは凜の保育園まで車で迎えに来てくれたので、その車の後部座席に乗り込んだ。

 昨日の事もあって、田所さんと顔を合わせるのも気まずい私は何だか視線を合わせられなくてついつい伏し目がちになってしまう。

「ねー、おにーちゃんは?」
「竜之介様は予定がございますので、お戻りは夜になりますよ」
「きょうもいっしょにあそぶっていったのに……」

 竜之介くんの事が大好きな凜は、彼が迎えに来てくれない事を不満に思って不貞腐れてしまう。

 そんな凜を見ていると、余計辛くなる。

 だって、もしかしたら、この先竜之介くんとは離れなければいけないかもしれないのだから。


 マンションへ帰ってきた私が夕食の支度をしようとすると、これも竜之介くんに頼まれたのか田所さんが準備をすると言うので、お任せして凜とお風呂に入る事にした。

 お風呂を済ませ、出来上がった夕食をいただいてから暫く、お腹いっぱいになった事と、なかなか竜之介くんが帰って来ない事に待ちくたびれた凜が眠ってしまったので部屋に寝かせてリビングへと戻る。

 田所さんはソファーに座ってひたすらノートパソコンに向かい、仕事をこなしている。

 テレビの音だけが流れる室内。

 手持ち無沙汰な私に突然、田所さんが声を掛けてきた。

「――亜子様」
「は、はい!?」
「少し、お話をしても宜しいでしょうか?」
「あ、はい、どうぞ……」

 そう断りを入れた田所さんはパソコンを閉じると、私が座っているダイニングテーブルの方へ移動してきて向かい側に腰を下ろした。

 田所さんは、苦手だ。

 真面目で何をしても常に完璧で、それでいて、感情を表に出さず、いつも無表情。まるでロボットのよう。

 それに彼は私の事を良く思っていないから、どうしても萎縮してしまう。

 向かい合い視線がぶつかると、田所さんに見つめられた私は視線を逸らす事が出来なくなる。

「――亜子様、昨夜の話、聞いていらっしゃいましたよね?」
「……は、はい……」

 やっぱり、田所さんは気付いていた。気付いた上で、あの話をしたのだ。

 そんな彼が、こうして二人になった今話をする内容なんて、一つに決まってる。

 そして、私の予想は的中した。

 真っ直ぐ私を見据えた田所さんは、こう口にしたのだ。


「――単刀直入に言わせて頂きますが、亜子様、竜之介様と、別れていただけませんか?」と。
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