家族に裏切られ全てを奪われた私は、辺境地に住む強くて心優しい彼に出逢い、沢山の愛と優しさに触れながら失ったモノを取り戻す

夏目萌

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プロローグ

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「ご購入ありがとうございました!」

 店主に助けてもらいながら買い物を済ませたギルバートはリュダの元へ足早に向かう。

「……あの、ギルバートさん」
「何だ?」
「すみませんでした、私の服を買って頂いたのに顔すら上げなくて……」
「そんな事は気にしてない。伏せていろと言ったのは俺の方だからな」
「……でも、」
「何でも無理にしようとする事は無い。ほら、リュダに乗れ。続きは家で話そう」
「はい」

 そしてリュダの前までやって来たギルバートはエリスに再度リュダへ乗るよう促して、早々に市場を後にした。

 それから更にリュダを走らせる事約一時間、辿り着いたのは町の外れにある、木々に覆われ緑豊かな場所に建つ小さな山小屋のような建物で、

「着いたぞ、ここが俺の住まいだ」

 ギルバートが一人で住んでいるという家だった。

「先に中へ入っていてくれ。俺はリュダに餌と水をやってくる」
「は、はい」

 リュダから荷物を降ろしたギルバートはエリスにその荷物を託して先に中へ入っているよう促すと、自身はその隣にある馬小屋へリュダを繋ぎに向かった。

「……お邪魔します……」

 誰も居ないと分かってはいても無言で入るのも憚られたエリスは一言断りながら扉を開けて中へ入って行く。

 小屋の中にはテーブルやイスとキッチンスペース、奥の方にシャワールームとお手洗い、そして別に一部屋、ベッドや洋服ダンスが置かれた寝室がある。

 全体的には狭めだけど、一人暮らしならば何ら問題も無い至って普通の家だった。

「エリス、どうした? そんなところで立ち止まって」
「あ、いえ……」
「まあいい」

 リュダに水と餌をやって来たギルバートは家の中へ入ってくると、エリスに持たせていた荷物を受け取り、先程買った服や肌着類をテーブルの上に出して行く。

「あっちの洗面所で好きなのに着替えて来い。そうしたら傷の手当てをするから」

 そして、好きなものに着替えるようエリスに伝えると、自身も着替えをするのか寝室へ入り、纏っていた肩鎧や、両腕に付けていた籠手こてを外して床に置き、着ていた服を脱ぎ始めた。

 エリスがチラリとギルバートの方へ視線を移すと、彼の背中や脇腹、肩付近にも大きいものから小さい刀傷ようなものが付けられているのを目の当たりにして、思わず手にしていた服や靴を足元に落としてしまう。

 そして、それに気付いたギルバートと目が合った。

「あ、す、すみません! 覗き見るつもりは無くて!!」

 見ていた事を咎められると思ったのか、エリスは慌てて落とした物を拾いながら謝った。

「別に構わない。寧ろ、こんな物を見せて悪かったな」
「いえ、そんな……」
「顔もそうだが、この傷が気になるか?」
「いえ……」
「構わねぇよ。顔の傷も身体の傷も、昔、殺されかけた時に付けられたものだ。もうだいぶ昔だからな、痛みも無い」
「殺され、かけた……?」
「ああ。お前のその腕の傷も、そうなんだろう?」
「え?」
「その腕の刀傷は、咄嗟に身体を守ろうとして出来た傷じゃないのか?」

 エリスは驚いた。

 腕の傷を見ただけで殺されそうになったところを守ろうとして出来た傷だと見破られた事に。

「まあ見たところ、お前の傷はそこまで深くは無いから、きちんと手当すればそこまで痕は残らないだろう」
「…………」
「どうした?」
「あの、私……」
「とにかく今は着替えて来い。話はそれからだ」
「は、はい」

 ギルバートならば信頼出来る、それを確信したエリスは溢れそうになる涙を拭うと、手にしていた服と共に洗面所へ向かって着替え始めた。

 エリスが袖を通したのは薄いピンク色のワンピースに白地のエプロンが付いたエプロンワンピース。

「あの、お待たせしました」
「結構似合うな。まあ、姫様には少し簡素過ぎたか?」
「いえ、そんな事は無いです。普段もそんなに豪華な服なんて、着ていませんでしたから」

 エリスは普段から飾りのない簡素なドレスしか与えられず、寧ろ今着ているエプロンワンピースの方が余程お洒落に見える。

「……そうか。それじゃあそこに座ってくれ。傷の手当てをするから」
「はい」

 服装についての話を早々に切り上げたギルバートはエリスに椅子に座るよう言って、自身は手当てをする為の準備を始めた。

 手当てをする前に、汚れていた部分を拭き取る為、水を張った洗面器に布を濡らすと、優しく拭き取るよう肌の汚れを落としていく。

「……っ」
「悪い、痛むか?」
「いえ、大丈夫です、すみません……」

 途中、エリスが小さく声を上げかけたのは、痛みからでは無い。

 優しく労るように汚れを拭ってくれていたギルバートとの距離が近く、恥ずかしさから思わず声が出そうになったのだ。

「こんなものだろう。腕の方はまだ痛みがあるようだから無理はするな。分かったな?」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、そろそろ本題に入るとするか」

 手当てを終えたギルバートは使った物を手早く片付けると、エリスと向かい合う形で椅子に座り直して話を始めた。

「――単刀直入に聞く。お前は誰に命を狙われているんだ?」
「……それは……」

 ギルバートは回りくどい事が嫌いだった。

 だから、知りたい事だけを正確に聞いたのだが、エリスはその答えを口にするのを渋っていた。

 それはギルバートを信頼していない訳じゃ無い。

 自分の命を狙っているのがシューベルトとリリナである事はほぼ見当がついているのだが、寝ていたところを襲ってきた男が果たして二人が差し向けた者なのかが分からず、ハッキリしていない事を口にするのを戸惑っていた。

 そんなエリスを前にしたギルバートは彼女が何を躊躇っているのか何となく察した上で、質問を変えた。

「――よし、それでは質問を変える。お前は何をどこまで知っているんだ?」
「どこ、まで……?」
「何か話を聞いたとか、見たものがあるんじゃないのか?」
「それ、は……」

 ギルバートの質問に、エリスは戸惑う。

 何故この人は自分の置かれている状況が分かるのかと。
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