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STORY5
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「……ん……」
その頃、詩歌は市街地から離れた周りが雑木林に囲まれ、昼間でもあまり人気のない寂しい場所に建つボロアパートの一室で拘束され床に寝かせられていた。
連れて来られる際、背後から薬のようなものを嗅がされて意識を失った彼女がようやく目を覚ますと、すぐ目の前に座る迅の姿が目に入る。
「ようやく目が覚めたか」
「……貴方、は?」
「俺は郁斗の知り合いだ」
「郁斗……さんの?」
未だ寝惚けているのか、状況が掴めていない詩歌は郁斗の知り合いだという迅を起き上がって見上げようとするも、自身の身体が後ろ手に縛られて拘束されている事に気付く。
「これは? あの……私……」
何が何だか分からない詩歌は恐怖を感じて身体をばたつかせるも、
「暴れるな。大人しくしてた方が身の為だぜ?」
煙草を吹かしながら空いている手で拳銃を握った迅は、慌てふためく詩歌に銃口を向けながら静かに言った。
「あ……いや…………っ」
拘束され、状況すら分からないまま恐怖を感じている詩歌に追い打ちをかけた迅のその行動は、彼女を黙らせるには充分過ぎる。
拳銃を向けられた詩歌は恐怖から言葉を発する事すら出来なくなってしまう。
何故このような事態になっているのか、震える身体を落ち着けようと小さく深呼吸を繰り返しながら考える。
(……確か、美澄さんと郁斗さんや小竹さんの居る所へ向かって…………小竹さんが待機しているところに合流した時…………)
気を失う前の記憶を必死に辿っていくと、美澄や小竹と居る際、突然複数の男たちが現れたと思った刹那、自分を守ろうとしてくれた美澄や小竹が鉄パイプで殴られ、大声を上げようとしていたところを背後から鼻と口を覆われて薬を嗅がされた事を思い出した。
(美澄さんと小竹さんは……どうしたのかな……殴られて、血が出てた……もしかしたら……っ)
二人がどうなったのか、それすら分からない詩歌はつい最悪の事態を想像してしまう。
そんな時、
「……そろそろ時間だ。お前はもうすぐ黛のトコに行くんだ。せいぜい可愛がってもらえよ」
「え……? 黛……?」
スマホを確認した迅がそう口にすると、聞き覚えのある名前に思わず声を上げる。
「知ってるだろ? 黛組。お前の居場所を探してる組織だ。俺は頼まれてお前を攫った。取引材料の為にな」
黛組――それは郁斗たちが話していた組織の名前。
売春斡旋をし、更に黛組の組長はその中から自身の好みの女を囲っているという最低な男で、詩歌自身が捕まれば……行方を探している義父や婚約者の四条は殺されてしまうかもしれないくらい、人とは思えない、悪魔のような危険な組織だという事を思い出して身体は拒否反応を示す。
「い……いや……っ郁斗さん……」
恐怖で郁斗の名前を呼ぶも、その声は小さ過ぎて外へ届く事はないだろう。
「無駄だ。アイツは今頃あの『樹奈』とかいう女を助けるのに忙しいと思うぜ?」
「樹奈……さん?」
「ああ、そうだ。だからアンタを助けに来る余裕はねぇんだよ。残念だったな」
樹奈の名前を出され、やはり彼女は自分のせいで巻き込まれていた事を知ると同時に、郁斗は自分じゃなくて樹奈を助けに向かったのだと知って落胆する。
(……郁斗さん……怖い……怖いよ……助けて……っ)
来ないと分かっていても助けを願わずにはいられず、心の中で何度となく郁斗に助けを求めた、その時、
ドンドンッという外からドアを叩く音が聞こえたのと共に、
「迅!! 居るんだろ? ここを開けろ!!」
詩歌が今、一番会いたかった郁斗の声が聞こえてきたのだ。
その頃、詩歌は市街地から離れた周りが雑木林に囲まれ、昼間でもあまり人気のない寂しい場所に建つボロアパートの一室で拘束され床に寝かせられていた。
連れて来られる際、背後から薬のようなものを嗅がされて意識を失った彼女がようやく目を覚ますと、すぐ目の前に座る迅の姿が目に入る。
「ようやく目が覚めたか」
「……貴方、は?」
「俺は郁斗の知り合いだ」
「郁斗……さんの?」
未だ寝惚けているのか、状況が掴めていない詩歌は郁斗の知り合いだという迅を起き上がって見上げようとするも、自身の身体が後ろ手に縛られて拘束されている事に気付く。
「これは? あの……私……」
何が何だか分からない詩歌は恐怖を感じて身体をばたつかせるも、
「暴れるな。大人しくしてた方が身の為だぜ?」
煙草を吹かしながら空いている手で拳銃を握った迅は、慌てふためく詩歌に銃口を向けながら静かに言った。
「あ……いや…………っ」
拘束され、状況すら分からないまま恐怖を感じている詩歌に追い打ちをかけた迅のその行動は、彼女を黙らせるには充分過ぎる。
拳銃を向けられた詩歌は恐怖から言葉を発する事すら出来なくなってしまう。
何故このような事態になっているのか、震える身体を落ち着けようと小さく深呼吸を繰り返しながら考える。
(……確か、美澄さんと郁斗さんや小竹さんの居る所へ向かって…………小竹さんが待機しているところに合流した時…………)
気を失う前の記憶を必死に辿っていくと、美澄や小竹と居る際、突然複数の男たちが現れたと思った刹那、自分を守ろうとしてくれた美澄や小竹が鉄パイプで殴られ、大声を上げようとしていたところを背後から鼻と口を覆われて薬を嗅がされた事を思い出した。
(美澄さんと小竹さんは……どうしたのかな……殴られて、血が出てた……もしかしたら……っ)
二人がどうなったのか、それすら分からない詩歌はつい最悪の事態を想像してしまう。
そんな時、
「……そろそろ時間だ。お前はもうすぐ黛のトコに行くんだ。せいぜい可愛がってもらえよ」
「え……? 黛……?」
スマホを確認した迅がそう口にすると、聞き覚えのある名前に思わず声を上げる。
「知ってるだろ? 黛組。お前の居場所を探してる組織だ。俺は頼まれてお前を攫った。取引材料の為にな」
黛組――それは郁斗たちが話していた組織の名前。
売春斡旋をし、更に黛組の組長はその中から自身の好みの女を囲っているという最低な男で、詩歌自身が捕まれば……行方を探している義父や婚約者の四条は殺されてしまうかもしれないくらい、人とは思えない、悪魔のような危険な組織だという事を思い出して身体は拒否反応を示す。
「い……いや……っ郁斗さん……」
恐怖で郁斗の名前を呼ぶも、その声は小さ過ぎて外へ届く事はないだろう。
「無駄だ。アイツは今頃あの『樹奈』とかいう女を助けるのに忙しいと思うぜ?」
「樹奈……さん?」
「ああ、そうだ。だからアンタを助けに来る余裕はねぇんだよ。残念だったな」
樹奈の名前を出され、やはり彼女は自分のせいで巻き込まれていた事を知ると同時に、郁斗は自分じゃなくて樹奈を助けに向かったのだと知って落胆する。
(……郁斗さん……怖い……怖いよ……助けて……っ)
来ないと分かっていても助けを願わずにはいられず、心の中で何度となく郁斗に助けを求めた、その時、
ドンドンッという外からドアを叩く音が聞こえたのと共に、
「迅!! 居るんだろ? ここを開けろ!!」
詩歌が今、一番会いたかった郁斗の声が聞こえてきたのだ。
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