愛を教えて、キミ色に染めて【完】

夏目萌

文字の大きさ
8 / 62

4

しおりを挟む
「ふ、伏見さん、待って……」
「何だよ?」
「私、こんな事……」
「おいおい、ここまで来て嫌だとか言うなよ?」
「で、でも、私……」
「大体、男の部屋で無防備な姿晒してる方がいけないんじゃねぇの?」
「だ、だってこれは……」
「もう何でも良いって。興醒めするから黙ってろよ」

 円香の訴えは伊織に届かず、ついにはブラジャーをも外されて胸が露わになってしまう。

「い、嫌っ……」

 流石に恥ずかしさを抑えきれなくなった円香の瞳から涙が零れ落ちていく。

「や、やめて……」
「何だよ、泣く程の事かよ…………はぁ、興醒めだ」

 流石の伊織も泣いてる女を犯す趣味は無いようで、溜め息を吐いて円香から離れた。

「ご、ごめん……なさい……」

 何も泣く事は無かったと頭では分かっている円香だけど、意思に反して涙は次から次へと溢れてくるようで、謝りながら必死に拭う。

(何なんだよ、この女。このくらいで泣くとか、うぜぇ……。つーかコイツ、絶対スパイじゃねぇな。あー面倒なのに当たっちまったな、こりゃ……失態だ……)

 女の泣き顔を見慣れている伊織は、円香が泣いていても慰めたりはしない。

 面倒だと円香から目を背け、頭を搔いて立ち上がると、リビングに戻ってソファーに座り煙草に火を点ける。

「アンタもういいわ。服、乾燥機にかけてある。もう終わるはずだから、それ着てとっとと帰れよ。聞いた事、絶対話すなよ。話したらどうなるか分かるだろ?  危険な目に遭いたくなけりゃここでの事は全部忘れちまえ」

 寝室に居る円香に聞こえるように言った伊織はリモコンを手に取りテレビを付け、「あー、夜中じゃ大したのやってねぇな……」なんて煙草をふかしながらつまらなそうにテレビに視線を向け続ける。

 涙が止まり、乱れた髪を整え、外されたブラジャーを付けた円香は再び羽織っていた伊織のニットカーディガンを羽織り直すと、ベッドから降りてゆっくり歩いて行く。

 帰れと言われた円香が向かったのは、

「……伏見、さん」
「あ?」

 伊織が座るソファーの前だった。

「何だよ?  まだ何かあんのか?」
「……あの、私……」

 帰れと言ったのに帰らないどころか、声を掛けて人の前までやって来たかと思えば、何かと問うも答えない。

 そんな円香に苛立った伊織は灰皿に煙草を押し付けて吸殻を捨てると、わざとらしく溜め息を吐きながら再び問いかけた。

「何かあるなら言えよ。俺は帰れと言ったはずだぜ?」
「その…………私、帰りません」
「は?」
「お付き合い……させてください」

 伊織は思う、開いた口が塞がらないとはこういう事ではないのかと。

「……アンタさ、自分が何言ってるのか分かってんの?」
「わ、分かってます」
「そーかよ。だったらアンタは頭がイカれてるな。いいぜ、こっちに来いよ」

 伊織の言葉に頷いて返した円香は彼の目の前に立つ。

「服を脱げ、自分でだ」
「…………」

 そんな伊織の要求に一瞬躊躇った円香は再び小さく頷くと、カーディガンのボタンに手を掛け、一つ、また一つとゆっくりボタンを外していく。

 ボタンを全て外し終わったカーディガンを恥じらいながらも脱ぎ捨て、自ら下着姿になった。

 何故円香は帰る事なく、自らこのような行動に出たのかというと、

 ――それは、円香が既に伊織に惹かれてしまっていたから。

「俺の上に跨がれよ」
「…………」

 更なる伊織の要求に戸惑いながらも、伊織に跨りソファーに膝を立てた円香は、彼を見下ろすような形になる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。 俺と結婚、しよ?」 兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。 昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。 それから猪狩の猛追撃が!? 相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。 でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。 そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。 愛川雛乃 あいかわひなの 26 ごく普通の地方銀行員 某着せ替え人形のような見た目で可愛い おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み 真面目で努力家なのに、 なぜかよくない噂を立てられる苦労人 × 岡藤猪狩 おかふじいかり 36 警察官でSIT所属のエリート 泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長 でも、雛乃には……?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

処理中です...