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Wセンター 編
生配信の夜
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「さくちゃん、まだ、大丈夫…?」
「うん、大丈夫だよ。もう一回、一緒に…」
かっきーの額や鎖骨のあたりが汗ばんでいるのが見えて、妙に色っぽさを感じてしまう。
そういう私も、11月の夜に暖房も付けていない部屋だというのに、たっぷりと汗をかいていた…
~~~~~~~~~~
熊本でのヒット祈願を終え、東京へ戻ってきて1週間くらい経って。
今日は、34thシングルの楽曲とパフォーマンスが初解禁される日だった。
渋谷から生配信での新曲公開で、今日はリハーサルの段階から緊張感があった。それでも本番の配信を大きなトラブルもなくやり遂げて、メンバーもスタッフさんも一安心している。
SNSの反響では、新曲の評判も上々らしい。
初めてWセンターに選ばれた曲を気に入ってもらえそうで、私もホッとしていた。
ただ、かっきーはどこか浮かない表情。
生配信の緊張で、ダンスの振りを間違えちゃったみたい。
隣で踊っていた私は気付いたけど、視聴者の皆さんはどうだろう。
気付かれたとは思えないけど、そんな憶測で励ましてもかっきーの気持ちは晴れないのかもしれない。
それでも、私はかっきーの力になりたかった。励ましたかった。大丈夫だよって伝えたかった。
いつも、かっきーが私にそうしてくれるみたいに。
ヒット祈願でも、かっきーが励まし続けてくれたみたいに。
「過ぎたことだから、大丈夫」。
後悔と自己嫌悪に落ち込みそうだったかっきーの手を握って、どうにか励まそうとして自然と口から出た言葉だった。深く考えたわけじゃない。
それでも、かっきーは少し落ち着いてくれたみたい。
よかった。こんな私でもかっきーの力になれるなら、なんだってしたい。
「かっきー、もしよかったらこの後、一緒に…」
だから、私からかっきーをダンスの練習に誘ったのも自然な流れだった。自分のダンスに自信なんてないけど、さくちゃんのダンスが好きだってかっきーがよく褒めてくれるから。もしかしたら、力になれるかもしれない。
部屋に物が少ないからという理由で場所は私の部屋に決まり、渋谷からタクシーで直行する。
私がメンバーを部屋に誘うという事態があまりに異例だったのか、他のメンバーはざわついていたけど。
かっきーが落ち込んでいたのは、みんなも察していたみたいだから。
「二人でちょっと練習する」とだけ伝えると事情を察してくれて、茶化さずに見送ってくれた。
~~~~~~~~~~
「ふぅ……さくちゃん、私の練習に付き合ってくれてありがとね。あ、もうこんな時間」
「ううん、いいの。私も、かっきーと合わせて練習したいところあったし。こっちこそありがとう」
「ほんとに?ふふ、優しいな~、さくちゃんは。あ~、それにしてもちょっと頑張り過ぎたかな。あっつ……」
ベッドの淵に座って休むかっきーは、Tシャツの胸元あたりをつまんでパタパタと風を送り込んでいる。
よほど暑いのか、ごくごくと喉を鳴らしながら水分補給をしながら。
踊っていて邪魔にならないよう髪をアップにしているから、一粒の汗がうなじをツーっと垂れていくのが見えた。
練習に集中していた間はさほど気にならなかったけど、かっきーの汗ばんだ身体を急に意識してしまう。
しかも、誰にも見られていない自宅でのダンス練習ということもあって。
かっきーと私はかなりの薄着だった。
かっきーは、上はTシャツ一枚、下は夏用のパジャマ代わりに置いてあったショートパンツ。あらわになっている健康的な太ももがまぶしい。
って、私も似たような格好だけど。
「ん……さくちゃんも飲む?」
「あ…う、うん。ありがと」
喉が乾いていると思われてしまったのか、かっきーがペットボトルを差し出してくれる。
女の子同士だけど恋人同士として、付き合ってからちょっと時間はかかったけどそういう行為を経て、結ばれた私たち。
いまさら間接キスなんて気にするような間柄でもないはず。
それなのに、さっきまでかっきーの唇が触れていた飲み口にドキドキしてしまう。
それに。
さっきから私の鼻をかすかにくすぐってくる、この香り。
爽やかで甘くて、私の身体の奥の深いところが反応してしまいそうになる香り。
なんだろう。
目を閉じて少し集中すると、すぐに分かってしまった。
ああ、そっか。
私の身体が反応してしまうはずだ。
だって、この香りは…
かっきーと愛し合ってるあいだに感じる香りと同じだから。
ボフッ…
???
何が起きたのか、すぐには分からなかった。
目を開けるとかっきーの顔があって、その瞳はまっすぐとこちらを見ている。
いや、正確には私の顔を見上げていた。
(え…?私、かっきーのこと、、押し倒しちゃったの…?)
これまでかっきーから同じようにされたことはあった。
何度も、あった。かっきーは、いちど火が付くとすごく情熱的に私を求めてくれるから。
でも、逆はたぶん初めて。
「さ、さくちゃん…?」
「あっ…これは…ちがうの……そういうつもりじゃなくて…」
かっきーだけじゃなくて、私自身も驚いていた。
恥ずかしさから慌てて身体を起こそうと、腕に力を込める。
すると、二の腕のあたりをかっきーにそっと掴まれた。
「そういうって、どういうの?」
汗が光る額、
うっすらと赤らんだ頬、
熱を伝えてくる指先、
何かを期待するように潤んだ瞳。
汗の香りだけじゃない。
かっきーのぜんぶが、私から理性を奪っていく。
抗う気もなくなった私はそのまま覆いかぶさり、唇を重ねる。
まだ完全に息が整っていないせいか、息が荒くなってしまうのが恥ずかしい。
「かっきー…あのね…今日誘ったのは、こういうことするためじゃなかったんだけど…でも、したくなっちゃったの…こういうこと」
「うん…すっごく嬉しいよ、さくちゃんからしてくれるの。でも私いま、汗すごいけど…いいの?」
「いい……私、かっきーのその香りで、ドキドキしちゃうみたいだから…」
「ふふ……私も、さくちゃんの汗の香り、大好きだよ」
「やだ…恥ずかしい」
そこからは、気持ちを言葉にすることすらもどかしくなって。
私は、身体の底からこみ上げてくる欲求だけに従ってかっきーを求めた。
~~~~~~~~~~
私なりに精一杯かっきーを愛し、五感ぜんぶで堪能したあと。
「はぁ…はぁ………ねぇ、さくちゃん?」
「ん……なぁに?」
「私、ダンスの練習よりも汗かいちゃった」
「ふふ…そうかもね。あっ、汗冷えないうちにお風呂入ろっか」
「うん。さくちゃん、ありがとね。配信の後のことも、一緒に練習してくれたことも、今たくさん愛してくれたことも…今日はさくちゃんの優しさをいっぱい感じた」
「ううん。私だって、かっきーからいつも優しさをもらってるもん。そのお返しだよ」
「お返し、か。じゃあ、さ……」
顔を近付けてきたかっきーの瞳が、熱を宿しているように輝いたように見えた。
「お風呂では、私がお返ししちゃうからね?」
「え……」
やっぱりかっきーは、いちど火が付くと情熱的だった。
そのあと、お風呂でたっぷりお返しされてしまった私は、ダンス練習の疲れも相まって夢も見ないほどぐっすり眠った。
~続く~
「うん、大丈夫だよ。もう一回、一緒に…」
かっきーの額や鎖骨のあたりが汗ばんでいるのが見えて、妙に色っぽさを感じてしまう。
そういう私も、11月の夜に暖房も付けていない部屋だというのに、たっぷりと汗をかいていた…
~~~~~~~~~~
熊本でのヒット祈願を終え、東京へ戻ってきて1週間くらい経って。
今日は、34thシングルの楽曲とパフォーマンスが初解禁される日だった。
渋谷から生配信での新曲公開で、今日はリハーサルの段階から緊張感があった。それでも本番の配信を大きなトラブルもなくやり遂げて、メンバーもスタッフさんも一安心している。
SNSの反響では、新曲の評判も上々らしい。
初めてWセンターに選ばれた曲を気に入ってもらえそうで、私もホッとしていた。
ただ、かっきーはどこか浮かない表情。
生配信の緊張で、ダンスの振りを間違えちゃったみたい。
隣で踊っていた私は気付いたけど、視聴者の皆さんはどうだろう。
気付かれたとは思えないけど、そんな憶測で励ましてもかっきーの気持ちは晴れないのかもしれない。
それでも、私はかっきーの力になりたかった。励ましたかった。大丈夫だよって伝えたかった。
いつも、かっきーが私にそうしてくれるみたいに。
ヒット祈願でも、かっきーが励まし続けてくれたみたいに。
「過ぎたことだから、大丈夫」。
後悔と自己嫌悪に落ち込みそうだったかっきーの手を握って、どうにか励まそうとして自然と口から出た言葉だった。深く考えたわけじゃない。
それでも、かっきーは少し落ち着いてくれたみたい。
よかった。こんな私でもかっきーの力になれるなら、なんだってしたい。
「かっきー、もしよかったらこの後、一緒に…」
だから、私からかっきーをダンスの練習に誘ったのも自然な流れだった。自分のダンスに自信なんてないけど、さくちゃんのダンスが好きだってかっきーがよく褒めてくれるから。もしかしたら、力になれるかもしれない。
部屋に物が少ないからという理由で場所は私の部屋に決まり、渋谷からタクシーで直行する。
私がメンバーを部屋に誘うという事態があまりに異例だったのか、他のメンバーはざわついていたけど。
かっきーが落ち込んでいたのは、みんなも察していたみたいだから。
「二人でちょっと練習する」とだけ伝えると事情を察してくれて、茶化さずに見送ってくれた。
~~~~~~~~~~
「ふぅ……さくちゃん、私の練習に付き合ってくれてありがとね。あ、もうこんな時間」
「ううん、いいの。私も、かっきーと合わせて練習したいところあったし。こっちこそありがとう」
「ほんとに?ふふ、優しいな~、さくちゃんは。あ~、それにしてもちょっと頑張り過ぎたかな。あっつ……」
ベッドの淵に座って休むかっきーは、Tシャツの胸元あたりをつまんでパタパタと風を送り込んでいる。
よほど暑いのか、ごくごくと喉を鳴らしながら水分補給をしながら。
踊っていて邪魔にならないよう髪をアップにしているから、一粒の汗がうなじをツーっと垂れていくのが見えた。
練習に集中していた間はさほど気にならなかったけど、かっきーの汗ばんだ身体を急に意識してしまう。
しかも、誰にも見られていない自宅でのダンス練習ということもあって。
かっきーと私はかなりの薄着だった。
かっきーは、上はTシャツ一枚、下は夏用のパジャマ代わりに置いてあったショートパンツ。あらわになっている健康的な太ももがまぶしい。
って、私も似たような格好だけど。
「ん……さくちゃんも飲む?」
「あ…う、うん。ありがと」
喉が乾いていると思われてしまったのか、かっきーがペットボトルを差し出してくれる。
女の子同士だけど恋人同士として、付き合ってからちょっと時間はかかったけどそういう行為を経て、結ばれた私たち。
いまさら間接キスなんて気にするような間柄でもないはず。
それなのに、さっきまでかっきーの唇が触れていた飲み口にドキドキしてしまう。
それに。
さっきから私の鼻をかすかにくすぐってくる、この香り。
爽やかで甘くて、私の身体の奥の深いところが反応してしまいそうになる香り。
なんだろう。
目を閉じて少し集中すると、すぐに分かってしまった。
ああ、そっか。
私の身体が反応してしまうはずだ。
だって、この香りは…
かっきーと愛し合ってるあいだに感じる香りと同じだから。
ボフッ…
???
何が起きたのか、すぐには分からなかった。
目を開けるとかっきーの顔があって、その瞳はまっすぐとこちらを見ている。
いや、正確には私の顔を見上げていた。
(え…?私、かっきーのこと、、押し倒しちゃったの…?)
これまでかっきーから同じようにされたことはあった。
何度も、あった。かっきーは、いちど火が付くとすごく情熱的に私を求めてくれるから。
でも、逆はたぶん初めて。
「さ、さくちゃん…?」
「あっ…これは…ちがうの……そういうつもりじゃなくて…」
かっきーだけじゃなくて、私自身も驚いていた。
恥ずかしさから慌てて身体を起こそうと、腕に力を込める。
すると、二の腕のあたりをかっきーにそっと掴まれた。
「そういうって、どういうの?」
汗が光る額、
うっすらと赤らんだ頬、
熱を伝えてくる指先、
何かを期待するように潤んだ瞳。
汗の香りだけじゃない。
かっきーのぜんぶが、私から理性を奪っていく。
抗う気もなくなった私はそのまま覆いかぶさり、唇を重ねる。
まだ完全に息が整っていないせいか、息が荒くなってしまうのが恥ずかしい。
「かっきー…あのね…今日誘ったのは、こういうことするためじゃなかったんだけど…でも、したくなっちゃったの…こういうこと」
「うん…すっごく嬉しいよ、さくちゃんからしてくれるの。でも私いま、汗すごいけど…いいの?」
「いい……私、かっきーのその香りで、ドキドキしちゃうみたいだから…」
「ふふ……私も、さくちゃんの汗の香り、大好きだよ」
「やだ…恥ずかしい」
そこからは、気持ちを言葉にすることすらもどかしくなって。
私は、身体の底からこみ上げてくる欲求だけに従ってかっきーを求めた。
~~~~~~~~~~
私なりに精一杯かっきーを愛し、五感ぜんぶで堪能したあと。
「はぁ…はぁ………ねぇ、さくちゃん?」
「ん……なぁに?」
「私、ダンスの練習よりも汗かいちゃった」
「ふふ…そうかもね。あっ、汗冷えないうちにお風呂入ろっか」
「うん。さくちゃん、ありがとね。配信の後のことも、一緒に練習してくれたことも、今たくさん愛してくれたことも…今日はさくちゃんの優しさをいっぱい感じた」
「ううん。私だって、かっきーからいつも優しさをもらってるもん。そのお返しだよ」
「お返し、か。じゃあ、さ……」
顔を近付けてきたかっきーの瞳が、熱を宿しているように輝いたように見えた。
「お風呂では、私がお返ししちゃうからね?」
「え……」
やっぱりかっきーは、いちど火が付くと情熱的だった。
そのあと、お風呂でたっぷりお返しされてしまった私は、ダンス練習の疲れも相まって夢も見ないほどぐっすり眠った。
~続く~
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