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中等部編
再びっ
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一晩明け、辿り着いた巨大な体育館にて入学式を受ける。内容としてはまあ、よくある感じだ。学長挨拶、理事長挨拶、PTA代表挨拶……。どれも月並みな言葉を重ね淡々と過ぎていく。隣のパイプ椅子に座った蓮様の頭が船を漕ぎかけるので時節膝をペシペシと叩き意識を保たせる。大方昨晩黒海と夜更かしでもしたのだろう。黒海もうつらうつらすることはないにしても瞼が非常に重たそうである。流石に一日目の入学式から居眠りなど笑えないため二人とも耐えてほしい。切実に。つまらないのは分かるがそれは学生の宿命なのだから。
クラス順に並んだパイプに座り、不自然にならない程度に辺りを見渡す。少なくとも同じクラスには愉快な髪色の人はいないらしく、少し安心するが少し離れたところに青い頭を見つけ眼を瞠らせた。それは落ち着きなくソワソワと身体を動かしていて、髪色のせいでなくとも悪目立ちしている。間違いなく彼が例の『青』だろう。
遂に赤、白、緑、黄、青が揃った。落ち着き次第、青い彼のことも探ってみよう。先ずは敵を知らなくてはならない。
気合いを入れつつふと壇上に目を向けると黄色い彼が立っていた。
「うわぁ……。」
思わず声が漏れる。
どうやら黄は生徒会長のようだ。学業に力を入れる天原学園では、生徒会や委員会に三年生は参加しない。全て一年二年だけで構成されるのだ。つまり最高学年でないけれど、かの黄色い人も生徒会長になり得るのだ。可もなく不可もなく、新入生への歓迎を述べる。ちらりと蓮様の方を伺ってみると白けた眼をなさっていた。流石に覚えていたらしい。
想定外の生徒会長挨拶後は恙無く進行し、新入生は男女列を作り体育館から教室のある生徒棟まで移動する。
はい、視線が痛い。
不躾に投げられる怪訝そうな視線に心が若干折れそうになる。男女で二列に並んでいるため、たまたま蓮様や黒海と近いのが唯一の心の支えだ。若干一名肩を震わせているが。教師は男装の件は知っているので咎められることはないのだが、如何せん生徒からの目が……。まあそんなこと言ってもそんなに繊細でもないので気に病むこともないのだが。
「おいっ、」
小さくため息を吐きながら羊の群れのごとくノロノロと生徒棟の渡り廊下へと列をなし歩く。皆一様に浮き足立っている様はなかなかほほえましい。
「そこの赤髪の生徒っ!」
鋭い声が列の外からかけられる。聞き覚えのある声にげんなりとしつつも仕方なくそちらへ眼を向ける。赤髪なんてそうそういるもんじゃない。十中八九、僕を呼んでいるのだろう。
「……何かご用ですか?黄師原会長。」
気だるげで若干舐めたような態度になってしまったことに後悔する。しょうがないよ、事実面倒なんだから。ただでさえ集まっていた視線が更に増える。
「用も何も、何故男子が女子の列にいる。並ぶことすら出来ないのか?」
「ぶふっ……!」
「四ッ谷……。」
相も変わらず横柄な態度に辟易とする。そしていい加減黒海の笑い上戸を何とかしてもらいたい。正直無視して生徒棟まで行ってしまいたいのだが、無視したら無視したできっとかなり面倒臭いことになるだろう。仕方なく一旦列から抜け黄師原の前に立つ。それを見ていたらしい蓮様と黒海もひょいと列から抜けた。
「女子だから女子の列に並んでいるんですよ。」
「はあっ?お前自分の格好見てみろ。どう考えても男子だろう。」
「っ……!」
肩を震わせ笑いを殺す黒海と背中を擦る蓮様。あんたら何しに残ったんだ。
渋々胸ポケットに入っていた生徒手帳を取りだし会長に見せる。
「こちらの通り、少なくともこの学校では女子として登録されています。なお、このことは先生方もご存知であることです。」
「……なら何故女子の制服を着ない。それぞれの制服を着ることが規則だ。」
会長の言葉に苛立ちが募る。面倒だなコイツ。そんなことを聞く必要はないし、僕が答える必要もないというのに、納得いくまで解放しないという腹積もりが気にくわない。
「その理由を貴方に言う必要が感じられません。」
きっぱりと言い切り下から見上げた。若干たじろぐがそれでもなお言葉を重ねようとする態度に去年の邂逅が思い出される。
「んなっ……!お前のそれは規則違反だ!俺は生徒会長としてそれを正す役目があるっ!」
どうだっ!と言わんばかりの様子に呆れてため息もでない。何これデジャビュ。本当に成長がないように思われる。蓮様は冷たい視線を会長に投げ掛けていた。
こういう奴の鼻っ柱は根本から叩き折りたくなるのは仕方のないことだと思うんだ、僕は。威圧するように間合いを詰める。
「一介の生徒如きにそのような権限が与えられているようには思いませんが?先程申し上げた通り、このことは先生方もご存知、つまり許可を頂いているということです。それにも関わらず執拗に絡むというのは如何なものでしょうか?しかも貴方が僕に話しかけ、列から外させた時点で列は乱れ、担任教師、延いてはクラス全体の迷惑となっているのです。それとも、円滑に進むはずの行事に難癖を付けるのが生徒会長様の役割なのでしょうか?」
心底呆れた、という侮蔑を載せた慇懃無礼な態度にバカにされたと感じたらしくみるみる顔が赤くなっていく。当然だ。多くの新入生の前で自分の面子が潰されているのだから。もっとも、迷惑を被っているのは事実なので正義感の先走りによる自業自得としか言えない。
「貴っ様……!」
「涼、もう行くぞ。飽きた。」
憤慨する黄師原に目もくれずつまらなそうに僕に言う蓮様に黒海はまた吹き出していた。そして黄師原といえば唐突に会話に入ってきてあまつさえ勝手に話を終わらせようとした蓮様をきっと睨み付ける。
「これは余興じゃありませんよ?」
「似たようなものだろ。」
「何なんだお前はっ、今俺はコイツと話を……、」
そこまで言って蓮様の顔を凝視し、ハッとしたように叫ぶ。
「あっ……お前、白樺蓮っ!!」
そこまでなら良かった。それだけならば良かったのだが、何を血迷ったのか突然蓮様の肩に掴みかかろうとした。唐突とはいえ反応できない訳ではない。条件反射的に黄師原の手を払いのけ、
スパーンッ!
る前に小気味いい音をたてて黄師原の黄色い頭が前のめりになる。彼が背後から何者かによって強かに叩かれたと気づくのに数秒要した。そして呆然とする僕達の前で黄師原は頭を掴まれ勢いよく下げられた。
「すいませんでしたーっ!!」
「……はい?」
訳もわからないまま大声で謝罪を述べられ頭を下げさせられている彼の横には背の高い男子生徒が黄師原共々頭を下げていた。そして黄師原の頭を押さえつけたまま顔を上げる。
第一印象は目に優しいフツメン。
きらきらしくはないが決して相手に不快感を与えることのない顔。薬にも毒にもならなさそうな人畜無害な草を食む羊を思わせる。その顔には非常に申し訳なさそうな表情が浮かび眉は困ったようにハの字になっていた。
「ほんっとスイマセン!生徒会長になったばかりで浮かれてしまって分別もなく喚き散らしてしまって……。本当に同じ生徒会として恥ずかしい限りです!」
「おっ、おい鉄司てつしっ離せ!!」
頭を押さえつけた左手はそのままにつらつらと述べられる陳謝にどうすることもできずただただ唖然とするだけだった。どうやら背の高い彼も生徒会の人らしい。
「会長はもう少し反省してください!いきなり入学式で騒いでると思ったら何の問題もない新入生を捕まえて怒鳴り散らすだなんて言語道断です!」
「問題ならあるっそっちの生徒が列に並んでなくて、挙げ句本来の制服を着ていないのに問題が無いわけないだろう!」
「問題ありませんよ!その子は生徒指導部に事前に異装許可証を提出しています。貴方が騒いでいる間に聞きに行ってきました。」
その言葉に苦く思う。聞く限りこっちの先輩もこの騒ぎのことは最初から見ていたらしい。それならさっさと止めてほしかった、面倒臭い。しかも指導部に確認に行っているところまで抜かりがない。そして今その説明を裏ではなく僕らを含めた生徒たちの前で懇切丁寧にしているところから今回の件で必要以上に双方及び生徒に遺恨と誤解を残さないためだろう。そこまで考えてやってるなら相等頭が回る人間だ。
茶番染みたそれを何を言うでもなく見ていたら横から腕を引かれた。
「……蓮様?」
「もう良いんだろ?教室に行こう。」
返事も待たずに他の生徒たちに紛れて体育館の外へ出る。黒海もどこか機嫌良さげだ。後ろから何やら呼び止める声が聞こえたが、用はすんだようなので立ち止まることもない。僕らは平然と、随分と先まで行ってしまったクラスの列に紛れ込んだ。
クラス順に並んだパイプに座り、不自然にならない程度に辺りを見渡す。少なくとも同じクラスには愉快な髪色の人はいないらしく、少し安心するが少し離れたところに青い頭を見つけ眼を瞠らせた。それは落ち着きなくソワソワと身体を動かしていて、髪色のせいでなくとも悪目立ちしている。間違いなく彼が例の『青』だろう。
遂に赤、白、緑、黄、青が揃った。落ち着き次第、青い彼のことも探ってみよう。先ずは敵を知らなくてはならない。
気合いを入れつつふと壇上に目を向けると黄色い彼が立っていた。
「うわぁ……。」
思わず声が漏れる。
どうやら黄は生徒会長のようだ。学業に力を入れる天原学園では、生徒会や委員会に三年生は参加しない。全て一年二年だけで構成されるのだ。つまり最高学年でないけれど、かの黄色い人も生徒会長になり得るのだ。可もなく不可もなく、新入生への歓迎を述べる。ちらりと蓮様の方を伺ってみると白けた眼をなさっていた。流石に覚えていたらしい。
想定外の生徒会長挨拶後は恙無く進行し、新入生は男女列を作り体育館から教室のある生徒棟まで移動する。
はい、視線が痛い。
不躾に投げられる怪訝そうな視線に心が若干折れそうになる。男女で二列に並んでいるため、たまたま蓮様や黒海と近いのが唯一の心の支えだ。若干一名肩を震わせているが。教師は男装の件は知っているので咎められることはないのだが、如何せん生徒からの目が……。まあそんなこと言ってもそんなに繊細でもないので気に病むこともないのだが。
「おいっ、」
小さくため息を吐きながら羊の群れのごとくノロノロと生徒棟の渡り廊下へと列をなし歩く。皆一様に浮き足立っている様はなかなかほほえましい。
「そこの赤髪の生徒っ!」
鋭い声が列の外からかけられる。聞き覚えのある声にげんなりとしつつも仕方なくそちらへ眼を向ける。赤髪なんてそうそういるもんじゃない。十中八九、僕を呼んでいるのだろう。
「……何かご用ですか?黄師原会長。」
気だるげで若干舐めたような態度になってしまったことに後悔する。しょうがないよ、事実面倒なんだから。ただでさえ集まっていた視線が更に増える。
「用も何も、何故男子が女子の列にいる。並ぶことすら出来ないのか?」
「ぶふっ……!」
「四ッ谷……。」
相も変わらず横柄な態度に辟易とする。そしていい加減黒海の笑い上戸を何とかしてもらいたい。正直無視して生徒棟まで行ってしまいたいのだが、無視したら無視したできっとかなり面倒臭いことになるだろう。仕方なく一旦列から抜け黄師原の前に立つ。それを見ていたらしい蓮様と黒海もひょいと列から抜けた。
「女子だから女子の列に並んでいるんですよ。」
「はあっ?お前自分の格好見てみろ。どう考えても男子だろう。」
「っ……!」
肩を震わせ笑いを殺す黒海と背中を擦る蓮様。あんたら何しに残ったんだ。
渋々胸ポケットに入っていた生徒手帳を取りだし会長に見せる。
「こちらの通り、少なくともこの学校では女子として登録されています。なお、このことは先生方もご存知であることです。」
「……なら何故女子の制服を着ない。それぞれの制服を着ることが規則だ。」
会長の言葉に苛立ちが募る。面倒だなコイツ。そんなことを聞く必要はないし、僕が答える必要もないというのに、納得いくまで解放しないという腹積もりが気にくわない。
「その理由を貴方に言う必要が感じられません。」
きっぱりと言い切り下から見上げた。若干たじろぐがそれでもなお言葉を重ねようとする態度に去年の邂逅が思い出される。
「んなっ……!お前のそれは規則違反だ!俺は生徒会長としてそれを正す役目があるっ!」
どうだっ!と言わんばかりの様子に呆れてため息もでない。何これデジャビュ。本当に成長がないように思われる。蓮様は冷たい視線を会長に投げ掛けていた。
こういう奴の鼻っ柱は根本から叩き折りたくなるのは仕方のないことだと思うんだ、僕は。威圧するように間合いを詰める。
「一介の生徒如きにそのような権限が与えられているようには思いませんが?先程申し上げた通り、このことは先生方もご存知、つまり許可を頂いているということです。それにも関わらず執拗に絡むというのは如何なものでしょうか?しかも貴方が僕に話しかけ、列から外させた時点で列は乱れ、担任教師、延いてはクラス全体の迷惑となっているのです。それとも、円滑に進むはずの行事に難癖を付けるのが生徒会長様の役割なのでしょうか?」
心底呆れた、という侮蔑を載せた慇懃無礼な態度にバカにされたと感じたらしくみるみる顔が赤くなっていく。当然だ。多くの新入生の前で自分の面子が潰されているのだから。もっとも、迷惑を被っているのは事実なので正義感の先走りによる自業自得としか言えない。
「貴っ様……!」
「涼、もう行くぞ。飽きた。」
憤慨する黄師原に目もくれずつまらなそうに僕に言う蓮様に黒海はまた吹き出していた。そして黄師原といえば唐突に会話に入ってきてあまつさえ勝手に話を終わらせようとした蓮様をきっと睨み付ける。
「これは余興じゃありませんよ?」
「似たようなものだろ。」
「何なんだお前はっ、今俺はコイツと話を……、」
そこまで言って蓮様の顔を凝視し、ハッとしたように叫ぶ。
「あっ……お前、白樺蓮っ!!」
そこまでなら良かった。それだけならば良かったのだが、何を血迷ったのか突然蓮様の肩に掴みかかろうとした。唐突とはいえ反応できない訳ではない。条件反射的に黄師原の手を払いのけ、
スパーンッ!
る前に小気味いい音をたてて黄師原の黄色い頭が前のめりになる。彼が背後から何者かによって強かに叩かれたと気づくのに数秒要した。そして呆然とする僕達の前で黄師原は頭を掴まれ勢いよく下げられた。
「すいませんでしたーっ!!」
「……はい?」
訳もわからないまま大声で謝罪を述べられ頭を下げさせられている彼の横には背の高い男子生徒が黄師原共々頭を下げていた。そして黄師原の頭を押さえつけたまま顔を上げる。
第一印象は目に優しいフツメン。
きらきらしくはないが決して相手に不快感を与えることのない顔。薬にも毒にもならなさそうな人畜無害な草を食む羊を思わせる。その顔には非常に申し訳なさそうな表情が浮かび眉は困ったようにハの字になっていた。
「ほんっとスイマセン!生徒会長になったばかりで浮かれてしまって分別もなく喚き散らしてしまって……。本当に同じ生徒会として恥ずかしい限りです!」
「おっ、おい鉄司てつしっ離せ!!」
頭を押さえつけた左手はそのままにつらつらと述べられる陳謝にどうすることもできずただただ唖然とするだけだった。どうやら背の高い彼も生徒会の人らしい。
「会長はもう少し反省してください!いきなり入学式で騒いでると思ったら何の問題もない新入生を捕まえて怒鳴り散らすだなんて言語道断です!」
「問題ならあるっそっちの生徒が列に並んでなくて、挙げ句本来の制服を着ていないのに問題が無いわけないだろう!」
「問題ありませんよ!その子は生徒指導部に事前に異装許可証を提出しています。貴方が騒いでいる間に聞きに行ってきました。」
その言葉に苦く思う。聞く限りこっちの先輩もこの騒ぎのことは最初から見ていたらしい。それならさっさと止めてほしかった、面倒臭い。しかも指導部に確認に行っているところまで抜かりがない。そして今その説明を裏ではなく僕らを含めた生徒たちの前で懇切丁寧にしているところから今回の件で必要以上に双方及び生徒に遺恨と誤解を残さないためだろう。そこまで考えてやってるなら相等頭が回る人間だ。
茶番染みたそれを何を言うでもなく見ていたら横から腕を引かれた。
「……蓮様?」
「もう良いんだろ?教室に行こう。」
返事も待たずに他の生徒たちに紛れて体育館の外へ出る。黒海もどこか機嫌良さげだ。後ろから何やら呼び止める声が聞こえたが、用はすんだようなので立ち止まることもない。僕らは平然と、随分と先まで行ってしまったクラスの列に紛れ込んだ。
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