天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

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003 盗賊さん、盗賊スキルを試す。

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 馬車を取り囲んでいた野盗が、ふたりを残してボクの方へと突撃してくる。ぱっと見たところ飛び道具の類は携行している様子はなく、彼らの武器は比較的新しいショートソードで統一されているようだった。
 いくら相手の実力が低くとも数で押し切られれば、ボクにはどうにも出来ない。魔術で一掃出来れば楽なんだろうけど、手持ちの魔石で広範囲魔術の発動は難しい。仮に発動出来たとしても魔術師ではないボクの劣化魔術では、威力の低下がひどく、目眩し程度の効果しか期待出来ない。
 迫る野盗を前に悩んでもいられない。左手の中に残る火の魔石をまとめて握り込み、粘性のある可燃性液体に着火して放つ魔術『ブレイズリキッド』を固まって走り寄って来ていた野盗数人にぶち撒けた。
 衣服に付着した『ブレイズリキッド』は、瞬く間に燃え広がった。
「クソッなんだってんだ。消えねぇぞ」
 簡単には消えない炎に毒突く野盗数人は、消火行動に余儀なくされ、中には地面に転がって消火を試みる者も出ていた。
 その様子を目にしていた他の野盗達は怯む様子もなく、ボクに向かって来る。どうもボクの魔術が大した威力はなく、死ぬほどじゃないと判断されてしまっているらしい。
 ボクは魔石が消滅して空になった手でウエストポーチからナイフを逆手に引き抜き、手近な集団に斬り込む。
 ひとり目の力任せな袈裟斬りを、相手の間合いの内側に踏み込むように体勢を低くして躱し、振り抜かれた腕の脇下を撫でるようにナイフの刃を奔らせ、重要な動脈を斬り裂いた。その確かな手応えだけを感じながら走り抜け、次の相手に狙いを定めようとしたボクの眼前に突き出されるショートソードの切っ先を、逆手に持った左手のナイフの腹を滑らせるようにして下からすくい上げて逸らす。そのままの相手の懐に突っ込んで、右手のナイフを鳩尾に深々と突き込むと同時に捻り、体当たりするようにして張り飛ばした。
 張り飛ばした男のすぐ後ろに控えていた野盗は、たたらを踏み。攻撃のタイミングを逸していた。その隙を逃さず投擲したナイフで、野盗の左大腿部に深い傷を負わせた。野盗は自身の身体に突き立った異物を取り去ろうと何も考えずにナイフを引き抜いた。すると男の足は出血で瞬く間に赤く染まっていった。
 足を引き摺る野盗を放置して距離を取り、次の行動に移るべく素早く周囲に視線を走らせた。
 なんだかんだで約半数を行動不能にしたにも関わらず、野盗の士気は下がる様子もなく、逆に躍起になってボクを殺そうとしているようだった。
 ただひとりだけ逃げ腰になった野盗がいたが、仲間のはずの男に斬り殺されていた。
「ガキひとりにいいようにされて今更引き下がれるか」
 などと野盗は激昂していた。
 『ブレイズリキッド』で衣服焼け焦がされ、かなりの火傷を負っていた野盗達の一部も戦線復帰しつつある。もう一度、魔術で牽制するのもありだけど、ボクでは魔術だけで相手を戦闘不能にまでは追い込むのは難しく、無駄に魔石と魔力を消費することになりそう。
 ウエストポーチに入ってる鋳造量産品のナイフも残り少ないし、魔力循環で強化した肉体での近接格闘で片付けるしかないかな。
 などと考える程度の余裕が生じていた。というのも野盗達がやたらとボクを警戒してか、遠巻きにじりじりと取り囲むように時間をかけて展開していく。
 無手のボクを必要以上に警戒して行動が鈍っているのは有り難いけど、このまま相手するのもしんどいね。
 何かないかと考えたとき、ボクはまだ盗賊としてのスキルを一度も使用していないな、と考え至った。

 ナイフの扱いや投擲にも、多少は盗賊としての技能補正はあったのだろうけれど、基本的にはレッドグレイヴ家で幼い頃からやっていた戦闘訓練の範疇だったので、盗賊としての実感は薄かった。
 加えて廃嫡が決定してからバタバタとしていてスキルの検証をする暇さえなかったこともあり、まだまともに盗賊として能力を行使したことがなかった。
 スキルの使い方自体は、天職を与えられたときに直感的に理解してるので問題ない。
 ということでボクは一番頭に血が上ってそうな野盗に対して最も盗賊らしいスキル【奪取】を、彼の持つショートソードを対象として感覚的に使用した。
 するとボクの額中央付近から視認するのも難しい程に極細の魔力の糸が野盗の持つショートソードに伸び、その表面に薄く魔力を這わせる。その後すぐに魔力の糸は折り返すようにしてボクの手元にまで届くと、奪取対象と同じ形状に魔力が形を変じた。
 直後、ボクの手元には野盗が手にしていたのと同じショートソードが出現した。対して野盗の手元からはショートソードは消失していた。
 対象を引き寄せるだけの簡易転送魔術だと考えるとかなり使い勝手のいいスキルだった。魔力操作に失敗したり、対象が魔力を帯びていなければ、ほぼ失敗することはないんじゃないかな。
 スキルの使用から完了まで1秒にも満たない時間で、この結果を出せるのなら充分に使えると確信したボクは、野盗を挑発するように腕を伸ばして奪ったショートソードの切っ先を向け、声を張った。
「武器はちゃんと装備しなきゃ、意味ないよ」
 その言葉にショートソードを奪われた野盗は顔を真っ赤にして、自身で斬り捨てて既に事切れていた元仲間の武器をひったくるように拾い上げ、ボク目掛けて策も何もなく突撃を敢行した。
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