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第五章
第二節
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華那と風花の会話に口を挟んできたのは、
「聖奈センパイ!」
美術部の部長を務めている平川聖奈である。
聖奈は日本人とフィリピン人のハーフだ。目鼻立ちがはっきりしており、褐色の肌、そして前髪なしのポニーテールがよく似合っている。
聖奈はベニヤ板を挟んで華那たちの向かい側に座っている。
ベニヤ板の上には、ゴシック体で書かれた「体育祭」という文字。ベニヤ板の中央には、両拳を握りしめて大声で叫んでいる赤ハチマキ、学ラン姿の男子生徒の絵。男子生徒の背後には鋭い牙を見せて吠える雄ライオンの絵が、男子生徒の正面には放射状の「ひび割れ」が描かれていた。このひび割れはなかなか迫力がある。
それは、男子生徒の叫びでこちらとあちらの世界を隔てる壁まで壊されてしまったように見えるからだ。
「いやいや! あのルックスで彼女いないとか嘘ですよね!?」
風花は信じられないという顔で訊き返したが、聖奈はすぐに返事をしなかった。見ると、看板の左下から『獅子奮迅~感情をぶちまけろッ!!~』と達筆に書いている。
「嘘じゃないよ」
静かに書き終えた聖奈は短くそう返した。
「マジ!? 詳しく聞きたい!」
風花は興味津々に身を乗り出した。
だが、聖奈は「後でね」とそっけなく言う。
「えーっ!? 今すぐがいい! そもそも『彼女いない』とかいうパワーワードぶっ込んできたの、聖奈センパイの方じゃん!」
「確かにそうだね。ごめん。でも風花……。キリのいいところまで塗り終わってから喋ろう?」
「じゃなくて、そろそろ休憩しませんかー?」
風花は軽い口調でそう提案した。次の瞬間、聖奈は目を三角にして、
「あんたは充分休憩してたでしょーが、この爆睡ムスメ! 起きたと思ったらペチャクチャ喋って! ちょっとは手を動かしなさい、手を!」
ハスキーな声で風花を叱りつけた。
怖いなぁ、と華那は慄く。
「ごめんなさいっ」
だが、風花は動じずに笑いながら謝った。
「私たちは遊びに来たんじゃないんだよ?」
聖奈の一言で風花は一瞬で笑顔から真顔になる。
うん、と華那も内心頷く。聖奈先輩の言う通りだ。
華那たちが美術室にいるのは、体育祭で設置する看板と応援パネルを制作する為だ。体育祭は九月頭に開催されるので夏休み期間中に完成させなければいけない。
「すみませんでした……」
風花は今度はちゃんと謝罪した。
「もう、多少のお喋りは許すけど作業しながらにしてよねー?」
あっ、私も謝んなきゃ!
「あのっ! 私もすみませんでした! 風花に注意せずに一緒に喋っちゃって……」
華那も謝ったが、聖奈は笑って首を横に振った。
「ああ、華那ちゃんはいいよ!」
「何で! 華那だけ狡いっ!」
抗議する風花に聖奈は呆れ顔で言った。
「何言ってんの? 華那ちゃんはあんたのお喋りに付き合いながらも真面目に作業してたから。見習いなさい」
……えっ!? 聖奈先輩。私が頑張ってる事に気づいてたんだ? 嬉しい!
聖奈が言った通り、華那は風花と喋りながらも体育祭看板の背景の色を真剣に塗っていた。その証拠に、華那の手はペンキで青く汚れている。
「あっ、そういえば!」
風花がハッとした顔を華那に向けた。
「丁寧に色塗ってたね! 私なんか、塗り始めて五分で集中力切れたのに……。華那は凄いね! 何でそんなに頑張れるの?」
唐突に答えにくい質問をされて華那は困った。
「聖奈センパイ!」
美術部の部長を務めている平川聖奈である。
聖奈は日本人とフィリピン人のハーフだ。目鼻立ちがはっきりしており、褐色の肌、そして前髪なしのポニーテールがよく似合っている。
聖奈はベニヤ板を挟んで華那たちの向かい側に座っている。
ベニヤ板の上には、ゴシック体で書かれた「体育祭」という文字。ベニヤ板の中央には、両拳を握りしめて大声で叫んでいる赤ハチマキ、学ラン姿の男子生徒の絵。男子生徒の背後には鋭い牙を見せて吠える雄ライオンの絵が、男子生徒の正面には放射状の「ひび割れ」が描かれていた。このひび割れはなかなか迫力がある。
それは、男子生徒の叫びでこちらとあちらの世界を隔てる壁まで壊されてしまったように見えるからだ。
「いやいや! あのルックスで彼女いないとか嘘ですよね!?」
風花は信じられないという顔で訊き返したが、聖奈はすぐに返事をしなかった。見ると、看板の左下から『獅子奮迅~感情をぶちまけろッ!!~』と達筆に書いている。
「嘘じゃないよ」
静かに書き終えた聖奈は短くそう返した。
「マジ!? 詳しく聞きたい!」
風花は興味津々に身を乗り出した。
だが、聖奈は「後でね」とそっけなく言う。
「えーっ!? 今すぐがいい! そもそも『彼女いない』とかいうパワーワードぶっ込んできたの、聖奈センパイの方じゃん!」
「確かにそうだね。ごめん。でも風花……。キリのいいところまで塗り終わってから喋ろう?」
「じゃなくて、そろそろ休憩しませんかー?」
風花は軽い口調でそう提案した。次の瞬間、聖奈は目を三角にして、
「あんたは充分休憩してたでしょーが、この爆睡ムスメ! 起きたと思ったらペチャクチャ喋って! ちょっとは手を動かしなさい、手を!」
ハスキーな声で風花を叱りつけた。
怖いなぁ、と華那は慄く。
「ごめんなさいっ」
だが、風花は動じずに笑いながら謝った。
「私たちは遊びに来たんじゃないんだよ?」
聖奈の一言で風花は一瞬で笑顔から真顔になる。
うん、と華那も内心頷く。聖奈先輩の言う通りだ。
華那たちが美術室にいるのは、体育祭で設置する看板と応援パネルを制作する為だ。体育祭は九月頭に開催されるので夏休み期間中に完成させなければいけない。
「すみませんでした……」
風花は今度はちゃんと謝罪した。
「もう、多少のお喋りは許すけど作業しながらにしてよねー?」
あっ、私も謝んなきゃ!
「あのっ! 私もすみませんでした! 風花に注意せずに一緒に喋っちゃって……」
華那も謝ったが、聖奈は笑って首を横に振った。
「ああ、華那ちゃんはいいよ!」
「何で! 華那だけ狡いっ!」
抗議する風花に聖奈は呆れ顔で言った。
「何言ってんの? 華那ちゃんはあんたのお喋りに付き合いながらも真面目に作業してたから。見習いなさい」
……えっ!? 聖奈先輩。私が頑張ってる事に気づいてたんだ? 嬉しい!
聖奈が言った通り、華那は風花と喋りながらも体育祭看板の背景の色を真剣に塗っていた。その証拠に、華那の手はペンキで青く汚れている。
「あっ、そういえば!」
風花がハッとした顔を華那に向けた。
「丁寧に色塗ってたね! 私なんか、塗り始めて五分で集中力切れたのに……。華那は凄いね! 何でそんなに頑張れるの?」
唐突に答えにくい質問をされて華那は困った。
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