38 / 50
第五章
第三節
しおりを挟む
唐突に答えにくい質問をされて華那は困った。
何て答えればいいんだろ。うーん……。多分、うまく説明できないだろうけど頑張って答えてみよう。
「えっと……、」
華那は緊張した面持ちで口を開いた。
「私は運動音痴だから……、体育祭練習や体育祭当日に役立たずなうえにきっと皆に沢山の迷惑かけるだろうし……。だから。この美術部の仕事だけは一生懸命頑張って……、少しでも役に立ちたいなぁって思ってて……」
大分ぎこちない話し方になってしまったが、華那が今話した事は全て紛れもない本音である。しかし、二人には言わなかった事実もある。二人には知られたくなくて言わなかったのだ。
それは、体育祭で使用されるピストルの発砲音が苦痛でたまらない事だ。だから体育祭が廃止される事を切に願っていた。その願いが叶わないならせめて、ほんの少しでもいいから誇らしい気持ちを味わいたいと思った。
つまり、体育祭当日に設置された立て看板や応援パネルを眺めながらこう思いたいのである。
ああ、よかった……。こんな私でもちょっとは役に立てたんだなぁ、と。
「まぁ!」
聖奈が近所のおばさんのような高い声を出した。
「なんていい子なの!?」
「めちゃめちゃ素晴らしい理由じゃん!」
風花は感心したような声で言ってから、一点の曇りもない笑顔で
「でも『役立たず』なんて自分の事を悪く言わないで欲しいなぁ……。華那は役立たずじゃないよ。運動が苦手でも華那なりに頑張ればそれでいいんだよ。少なくとも私は迷惑なんて思わない。だから一緒に楽しい思い出たくさん作って、サイコーな体育祭にしようよ!」
温かい言葉をかけてくれた。
華那は嬉しそうに微笑みつつ、
「聖奈先輩ありがとうございます! 私は全然いい子じゃないですけどそう言ってもらえて凄く嬉しいです。……風花もありがとね。サイコーな体育祭にしよう」
「ううん、めちゃんこいい子だと思うよ!」
聖奈はにこりと笑う。一方、風花は無邪気に笑って「どいたま&もちのろんのすけ!」と返した。華那はおかしくてクスリと笑う。
ややあって風花は華那から聖奈の方にそっと視線を移した。
「あのぉ、」
それから遠慮がちに手を挙げる。
「天崎《あまさき》先輩って本当にフリーなんですか? 教えてくれたらもうバリバリ頑張っちゃうんで!」
「うーん」
聖奈は少し考える素振りを見せたが、「分かった」と頷いた。
「颯斗は本当にフリーだよ。女の子からの告白は全部断ってるんだって。……それからなんと! 彼女いない歴十八年!!」
風花は一瞬真顔でフリーズしてから目を大きく見開いた。
「つまり今まで一度も彼女が出来た事ない!? 信じらんない!! それ天崎先輩から直接聞いたんですか!?」
風花の問いに聖奈はこくりと頷き、ばつの悪そうな顔で続けた。
「実は私も颯斗に告白したんだよねー……」
風花は目を丸くした。
「え、聖奈センパイも告ったんだ!?」
うん、と聖奈は苦笑いを浮かべつつ答えた。
「で、フラれてすぐに質問攻めした。『生まれてからずっとフリーだよ』って颯斗から聞いた時には、そりゃあたまげたよ! でも……。颯斗は嫌な顔せずに答えてくれたけど、あれこれ訊くとか悪い事しちゃったなぁ」
「うーん、嫌な顔せずに答えてくれるところは優しいと思うけど……。こんなに美人な聖奈センパイを振っちゃうなんて──」
ひどい、と風花は悲しげな表情でぽつりと呟いた。
「……美人ねぇ」
聖奈も呟いて、視線を床の上に置かれている看板に落とした。少し沈んだ声に聞こえたのは気のせいだろうか。
聖奈先輩……?
華那は聖奈の事が心配になった。聖奈は風花に視線を戻すと、
「もう褒めても何もあげないよー?」
おどけるような口調でそう言って声を立てて笑う。
「聖奈センパイ」
風花は聖奈に優しく微笑みかけた。
「私は本当に美人だと思ってるから美人って言ったんですよ?」
聖奈はかぶりを振る。
「私は美人じゃない。それにね、颯斗は酷くないし何にも悪くないよ」
「でもセンパイは傷ついたんじゃ……、」
「そうだ!」
風花の不服げな言葉を聖奈が遮った。
「大事な事言い忘れてたわ! そもそも颯斗は彼女を作らない主義らしいのよ!」
「何で!?」
間髪入れずにぎょっとしたような顔で風花が訊く。だが、聖奈は「さぁね」と首を傾げた。
「そこまでは聞いてないから私も分かんない」
「そうですか……」
聖奈と風花の二人は考え込むように黙り込んだ。なぜ颯斗が彼女を作らないのか、二人は分からない様子だ。
何て答えればいいんだろ。うーん……。多分、うまく説明できないだろうけど頑張って答えてみよう。
「えっと……、」
華那は緊張した面持ちで口を開いた。
「私は運動音痴だから……、体育祭練習や体育祭当日に役立たずなうえにきっと皆に沢山の迷惑かけるだろうし……。だから。この美術部の仕事だけは一生懸命頑張って……、少しでも役に立ちたいなぁって思ってて……」
大分ぎこちない話し方になってしまったが、華那が今話した事は全て紛れもない本音である。しかし、二人には言わなかった事実もある。二人には知られたくなくて言わなかったのだ。
それは、体育祭で使用されるピストルの発砲音が苦痛でたまらない事だ。だから体育祭が廃止される事を切に願っていた。その願いが叶わないならせめて、ほんの少しでもいいから誇らしい気持ちを味わいたいと思った。
つまり、体育祭当日に設置された立て看板や応援パネルを眺めながらこう思いたいのである。
ああ、よかった……。こんな私でもちょっとは役に立てたんだなぁ、と。
「まぁ!」
聖奈が近所のおばさんのような高い声を出した。
「なんていい子なの!?」
「めちゃめちゃ素晴らしい理由じゃん!」
風花は感心したような声で言ってから、一点の曇りもない笑顔で
「でも『役立たず』なんて自分の事を悪く言わないで欲しいなぁ……。華那は役立たずじゃないよ。運動が苦手でも華那なりに頑張ればそれでいいんだよ。少なくとも私は迷惑なんて思わない。だから一緒に楽しい思い出たくさん作って、サイコーな体育祭にしようよ!」
温かい言葉をかけてくれた。
華那は嬉しそうに微笑みつつ、
「聖奈先輩ありがとうございます! 私は全然いい子じゃないですけどそう言ってもらえて凄く嬉しいです。……風花もありがとね。サイコーな体育祭にしよう」
「ううん、めちゃんこいい子だと思うよ!」
聖奈はにこりと笑う。一方、風花は無邪気に笑って「どいたま&もちのろんのすけ!」と返した。華那はおかしくてクスリと笑う。
ややあって風花は華那から聖奈の方にそっと視線を移した。
「あのぉ、」
それから遠慮がちに手を挙げる。
「天崎《あまさき》先輩って本当にフリーなんですか? 教えてくれたらもうバリバリ頑張っちゃうんで!」
「うーん」
聖奈は少し考える素振りを見せたが、「分かった」と頷いた。
「颯斗は本当にフリーだよ。女の子からの告白は全部断ってるんだって。……それからなんと! 彼女いない歴十八年!!」
風花は一瞬真顔でフリーズしてから目を大きく見開いた。
「つまり今まで一度も彼女が出来た事ない!? 信じらんない!! それ天崎先輩から直接聞いたんですか!?」
風花の問いに聖奈はこくりと頷き、ばつの悪そうな顔で続けた。
「実は私も颯斗に告白したんだよねー……」
風花は目を丸くした。
「え、聖奈センパイも告ったんだ!?」
うん、と聖奈は苦笑いを浮かべつつ答えた。
「で、フラれてすぐに質問攻めした。『生まれてからずっとフリーだよ』って颯斗から聞いた時には、そりゃあたまげたよ! でも……。颯斗は嫌な顔せずに答えてくれたけど、あれこれ訊くとか悪い事しちゃったなぁ」
「うーん、嫌な顔せずに答えてくれるところは優しいと思うけど……。こんなに美人な聖奈センパイを振っちゃうなんて──」
ひどい、と風花は悲しげな表情でぽつりと呟いた。
「……美人ねぇ」
聖奈も呟いて、視線を床の上に置かれている看板に落とした。少し沈んだ声に聞こえたのは気のせいだろうか。
聖奈先輩……?
華那は聖奈の事が心配になった。聖奈は風花に視線を戻すと、
「もう褒めても何もあげないよー?」
おどけるような口調でそう言って声を立てて笑う。
「聖奈センパイ」
風花は聖奈に優しく微笑みかけた。
「私は本当に美人だと思ってるから美人って言ったんですよ?」
聖奈はかぶりを振る。
「私は美人じゃない。それにね、颯斗は酷くないし何にも悪くないよ」
「でもセンパイは傷ついたんじゃ……、」
「そうだ!」
風花の不服げな言葉を聖奈が遮った。
「大事な事言い忘れてたわ! そもそも颯斗は彼女を作らない主義らしいのよ!」
「何で!?」
間髪入れずにぎょっとしたような顔で風花が訊く。だが、聖奈は「さぁね」と首を傾げた。
「そこまでは聞いてないから私も分かんない」
「そうですか……」
聖奈と風花の二人は考え込むように黙り込んだ。なぜ颯斗が彼女を作らないのか、二人は分からない様子だ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾書籍発売中
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
神楽囃子の夜
紫音みけ🐾書籍発売中
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。
年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。
四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる