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第五章
第四節
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もしかして──!
だが、華那には思い当たる理由が一つあった。
天崎先輩が彼女を作らないのって、先輩のお父さんとお母さんが関係してるんじゃないかな?
華那は颯斗の事情を少しだけ知っている(というより偶然知ってしまった)。
まず、颯斗の父親は颯斗の母親に暴力を振るっていたという事。だから颯斗は、今でも父親を憎んでいるという事。そして、颯斗の両親は既に不慮の交通事故で他界しているという事。
とは言うものの、颯斗本人は華那と雪弥の前でこれらを全否定した。しかしながら、華那は颯斗が嘘を吐いているだけで、これら全てが真実だと思っている。
それは、颯斗が否定したのにも関わらず、雪弥はとても険しい顔で黙り込んでいたからだ。
雪弥は天崎先輩が嘘を吐いてる事に気づいたからあんな怖い顔をしてたんだと思う……。それに、天崎先輩が否定したのだって事実だからこそ何とか誤魔化そうとしたのかもしれない。……あっ、でも。全然違ってたらごめんなさい! それから当たり前だけど……、私は先輩の事情を絶対に誰にも話しません!
「あーっ!」
と、突然声を上げたのは聖奈である。華那はビクッと肩を竦ませた。
「私、お菓子持ってきたんだった! ねぇ風花。さっき、『褒めても何もあげない』って言ったけどあげちゃおっかなぁ!」
「やった! ありがとうございまーす!」
子供のように無邪気に喜ぶ風花に聖奈は母親のように優しく微笑んだ。
「頑張ったご褒美にあげるから、後五分頑張りな!」
「はぁい」
風花は可愛い声で返事をした。
「よし、ガンバルンバ!!」
次に、自らを鼓舞するように言ってから筆を手に取った。
あれ……? 『ガンバルンバ』って──、
「私の口癖じゃん!」
華那が突っ込みを入れると風花は「ごめん」とあざとく笑った。
「華那の口癖真似しちゃった! てへぺろ❤︎」
しかし、不意に風花の表情がガラリと変わった。引き締まった表情でこちらに近寄ってきて耳元で囁く。
ねぇ。もしかして天崎先輩の話ってタブーだった……?
緊張した震えた声だ。
華那はすぐにかぶりを振った。
「ううん、別にタブーじゃないよ」
華那が微笑みつつそう言った途端、風花はほっと安堵の笑みを漏らした。
「なんだ、よかった! なんか、皆が天崎先輩の話題で盛り上がってるから私もつい喋りたくなっちゃってさー。そうだよね……。無事に仲直りしたんだし、喋っても大丈夫だよねぇ」
風花が言った『無事に仲直りした』のは、雪弥と颯斗の二人である。
言っとくけど、と風花が言った。
「私もすっごく心配してたんだからね!?」
華那は「うん」と頷く。
「大丈夫だよ。私はもう分かってるから。風花が、雪弥の事をちゃんと心配してくれてたんだって」
「そっか……!」
「うん!」
雪弥と颯斗の大まかな喧嘩内容や、雪弥が颯斗の友人の倉園侑聖から受けた嫌がらせ内容。これらを風花は陽翔から教えてもらっていた。しかし、華那にだけはずっと伏せていたのだ。
伏せていた理由を風花本人に尋ねてみると、
『華那って思い詰めた顔でボーッとしてる事多いじゃん? だから、私は大丈夫かなぁって凄く心配してたんだよね……』
このように答えた。
つまり、風花は既に何か悩みを抱えていそうな華那を、雪弥の事で更に悩ませたくないと思っていた。
だから風花は雪弥の事を心配していなかったから伏せていたのではない。雪弥以上に華那の事を心配していたから、伏せていたのだ。
「でもさぁ」
風花が苦々しい顔で口を開いた。
「清水は華那の事をあんまり考えてなかったよね」
華那は風花がそう言った理由がよく分からなかったので、首を傾げた。
「何でそう思うの?」
「だって!」
風花は不機嫌そうな声で説明し始めた。
「あんな中途半端な内容を陽翔くんから私たちに伝えようとしてたんだよ!? 清水が全ての事情を隠し通してたら、華那に余計な心配かけずに済んだのに!」
華那は風花の発言がどうしても納得できなくて、うーんと唸った。
「私は隠し通される方が嫌だ」
「どうして!?」
風花に訊かれて、華那は言葉を選びながらゆっくりとした口調で話し始めた。
「雪弥だって……、最初は全てを隠し通すつもりだったんだよ。でも、私と風花が異変に気づいているならアバウトな内容でもちゃんと伝えた方が心配かけずに済むって考え直したらしい。……私もそうだと思う。雪弥に何かがあった事に気づいてるのに隠された方が却って心配する。
それに辛い時はね……。隠して一人で抱え込まないで欲しい。心配だって迷惑だってかけてもいいから、愚痴とか不安とか何でも吐き出して欲しい」
多分、雪弥は……。天崎先輩と喧嘩した去年の十一月十六日から仲直りした今年の六月末までずっと辛かったと思うから……。だから。雪弥が吐き出したくなったらいつでも存分に吐き出して欲しい。
だがしかし、華那は雪弥が誤って踏んでしまった颯斗の地雷の内容を知らない。
だが、それを雪弥本人の口から聞くのだけは絶対に駄目だと思った。雪弥の癒えていない心の傷を抉る可能性が高い。
だから華那はずっと自分一人で考えていた。それでも分からなかった。
だが、まさに今、唐突に思い出した。
『別に父親の話は地雷じゃない』
先月末に颯斗が雪弥に言った自分の地雷についての直接的なこの台詞を。
もしこの言葉も嘘だとしたら。つまり、本当は颯斗にとって父親の話が地雷だったとしたらどうだろうか。
えっと……、雪弥は颯斗先輩の地雷を踏んだのが原因で傷つけてしまったんだから……。
「……華那……?」
右隣から自分の名前を呼ぶ風花の声すらぼやけて聞こえる。
──って事は……。
信じたくない可能性が出てきて華那は愕然とした。
雪弥は自分のお父さんの話をしてしまった? 今もお父さんを憎んでる天崎先輩に。
華那は一重タレ目を大きく見開いて口の中で呟くように言った。
まさか、という三文字の言葉をだ。
だが、華那には思い当たる理由が一つあった。
天崎先輩が彼女を作らないのって、先輩のお父さんとお母さんが関係してるんじゃないかな?
華那は颯斗の事情を少しだけ知っている(というより偶然知ってしまった)。
まず、颯斗の父親は颯斗の母親に暴力を振るっていたという事。だから颯斗は、今でも父親を憎んでいるという事。そして、颯斗の両親は既に不慮の交通事故で他界しているという事。
とは言うものの、颯斗本人は華那と雪弥の前でこれらを全否定した。しかしながら、華那は颯斗が嘘を吐いているだけで、これら全てが真実だと思っている。
それは、颯斗が否定したのにも関わらず、雪弥はとても険しい顔で黙り込んでいたからだ。
雪弥は天崎先輩が嘘を吐いてる事に気づいたからあんな怖い顔をしてたんだと思う……。それに、天崎先輩が否定したのだって事実だからこそ何とか誤魔化そうとしたのかもしれない。……あっ、でも。全然違ってたらごめんなさい! それから当たり前だけど……、私は先輩の事情を絶対に誰にも話しません!
「あーっ!」
と、突然声を上げたのは聖奈である。華那はビクッと肩を竦ませた。
「私、お菓子持ってきたんだった! ねぇ風花。さっき、『褒めても何もあげない』って言ったけどあげちゃおっかなぁ!」
「やった! ありがとうございまーす!」
子供のように無邪気に喜ぶ風花に聖奈は母親のように優しく微笑んだ。
「頑張ったご褒美にあげるから、後五分頑張りな!」
「はぁい」
風花は可愛い声で返事をした。
「よし、ガンバルンバ!!」
次に、自らを鼓舞するように言ってから筆を手に取った。
あれ……? 『ガンバルンバ』って──、
「私の口癖じゃん!」
華那が突っ込みを入れると風花は「ごめん」とあざとく笑った。
「華那の口癖真似しちゃった! てへぺろ❤︎」
しかし、不意に風花の表情がガラリと変わった。引き締まった表情でこちらに近寄ってきて耳元で囁く。
ねぇ。もしかして天崎先輩の話ってタブーだった……?
緊張した震えた声だ。
華那はすぐにかぶりを振った。
「ううん、別にタブーじゃないよ」
華那が微笑みつつそう言った途端、風花はほっと安堵の笑みを漏らした。
「なんだ、よかった! なんか、皆が天崎先輩の話題で盛り上がってるから私もつい喋りたくなっちゃってさー。そうだよね……。無事に仲直りしたんだし、喋っても大丈夫だよねぇ」
風花が言った『無事に仲直りした』のは、雪弥と颯斗の二人である。
言っとくけど、と風花が言った。
「私もすっごく心配してたんだからね!?」
華那は「うん」と頷く。
「大丈夫だよ。私はもう分かってるから。風花が、雪弥の事をちゃんと心配してくれてたんだって」
「そっか……!」
「うん!」
雪弥と颯斗の大まかな喧嘩内容や、雪弥が颯斗の友人の倉園侑聖から受けた嫌がらせ内容。これらを風花は陽翔から教えてもらっていた。しかし、華那にだけはずっと伏せていたのだ。
伏せていた理由を風花本人に尋ねてみると、
『華那って思い詰めた顔でボーッとしてる事多いじゃん? だから、私は大丈夫かなぁって凄く心配してたんだよね……』
このように答えた。
つまり、風花は既に何か悩みを抱えていそうな華那を、雪弥の事で更に悩ませたくないと思っていた。
だから風花は雪弥の事を心配していなかったから伏せていたのではない。雪弥以上に華那の事を心配していたから、伏せていたのだ。
「でもさぁ」
風花が苦々しい顔で口を開いた。
「清水は華那の事をあんまり考えてなかったよね」
華那は風花がそう言った理由がよく分からなかったので、首を傾げた。
「何でそう思うの?」
「だって!」
風花は不機嫌そうな声で説明し始めた。
「あんな中途半端な内容を陽翔くんから私たちに伝えようとしてたんだよ!? 清水が全ての事情を隠し通してたら、華那に余計な心配かけずに済んだのに!」
華那は風花の発言がどうしても納得できなくて、うーんと唸った。
「私は隠し通される方が嫌だ」
「どうして!?」
風花に訊かれて、華那は言葉を選びながらゆっくりとした口調で話し始めた。
「雪弥だって……、最初は全てを隠し通すつもりだったんだよ。でも、私と風花が異変に気づいているならアバウトな内容でもちゃんと伝えた方が心配かけずに済むって考え直したらしい。……私もそうだと思う。雪弥に何かがあった事に気づいてるのに隠された方が却って心配する。
それに辛い時はね……。隠して一人で抱え込まないで欲しい。心配だって迷惑だってかけてもいいから、愚痴とか不安とか何でも吐き出して欲しい」
多分、雪弥は……。天崎先輩と喧嘩した去年の十一月十六日から仲直りした今年の六月末までずっと辛かったと思うから……。だから。雪弥が吐き出したくなったらいつでも存分に吐き出して欲しい。
だがしかし、華那は雪弥が誤って踏んでしまった颯斗の地雷の内容を知らない。
だが、それを雪弥本人の口から聞くのだけは絶対に駄目だと思った。雪弥の癒えていない心の傷を抉る可能性が高い。
だから華那はずっと自分一人で考えていた。それでも分からなかった。
だが、まさに今、唐突に思い出した。
『別に父親の話は地雷じゃない』
先月末に颯斗が雪弥に言った自分の地雷についての直接的なこの台詞を。
もしこの言葉も嘘だとしたら。つまり、本当は颯斗にとって父親の話が地雷だったとしたらどうだろうか。
えっと……、雪弥は颯斗先輩の地雷を踏んだのが原因で傷つけてしまったんだから……。
「……華那……?」
右隣から自分の名前を呼ぶ風花の声すらぼやけて聞こえる。
──って事は……。
信じたくない可能性が出てきて華那は愕然とした。
雪弥は自分のお父さんの話をしてしまった? 今もお父さんを憎んでる天崎先輩に。
華那は一重タレ目を大きく見開いて口の中で呟くように言った。
まさか、という三文字の言葉をだ。
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