5 / 10
5話「ブルーナを取り巻いていた環境」
しおりを挟む王太子の結婚式から三日が過ぎた。
結界の役目を果たしていた国境の壁が崩壊し、国外のモンスターが国内に侵入、王国にもともといたモンスターの凶暴化。
国内の井戸や川の水位が下がり、畑の作物は枯れ、食料を備蓄していた倉庫がモンスターの襲撃を受け、各地で食料や医療品が不足。
モンスターと戦う魔術師や剣士の弱体化。
炎魔術師は小さな火の玉しか出せなくなり、水魔術師は水鉄砲並の威力の水魔法しか使えなくなり、風魔術師はそよ風しか起こせなくなった。
剣士は長剣が重くてまともに振ることができず、やむを得ず食堂のナイフで戦っている。その上普段の十倍以上疲れやすく、すぐに息が上がってしまう。
伝書鳩によってもたらせる各地の被害報告に国王な苦慮していた。
「どうしてこうなった……?」
国王は眉間を押さえ深く息を吐いた。
だが国王にはどうしてこうなったのか心当たりがあった。
全ては三カ月前のブルーナの断罪劇から始まった。
いや根っこはもっと深い、国王が王太子時代に当時の聖女エッダとの婚約を一方的に破棄したとき、あの時からこの国の崩壊の序曲は始まっていたのだ。
それゆえ国王はカーラを【竜の愛し子】に仕立て上げた王妃も、ブルーナとの婚約を破棄し公の場でブルーナを断罪した王太子も、偽物の【竜の愛し子】であるカーラも、責めることができなかった。
国王は各地の被害状況の調査とは別に、ブルーナについても調べていた。
王妃とノルデン公爵夫人と偽物の【竜の愛し子】であるカーラが、本物の【竜の愛し子】であるブルーナに何をしてきたのか。なぜブルーナが本物の【竜の愛し子】だと、竜神ウィルペアトに告げられるまで誰も気づかなかったのかを。
「ノルデン公爵夫人は、前妻の子ブルーナ様が聖女に選ばれ、実子のカーラ様が聖女に選ばれなかったことに激しい怒りを覚え、友人である王妃殿下にブルーナ様の悪口を吹き込んでいたようです。
ブルーナ様の容姿が先々代の聖女エッダ様に似ているのが気に入らなかった王妃殿下は、ノルデン公爵夫人と一緒になってブルーナ様を虐待しておりました」
やはりなと思い国王は顔をしかめた。教会に推薦されてもブルーナを王太子の婚約者に指名するべきではなかっと、国王は深く後悔していた。
「王太子殿下とカーラ様は、ブルーナ様が王太子妃教育に明け暮れている間に仲を深めたようです。
カーラ様の背に偽物の竜の模様を施す謀の首謀者は、王妃殿下とノルデン公爵夫人でした。
カーラ様は王太子妃の座と聖女の地位が欲しさに、お二人のたくらみに協力したようです。
王太子殿下だけはカーラ様の背に現れた竜の模様が偽物だとは知らなかったようです」
「なぜブルーナの背に竜の模様があることに誰も気が付かなかったのだ?」
「それはブルーナ様には侍女がついておらず、湯浴みを一人でしていたためでしょう。
自分の背中は自分では見られませんから、ブルーナ様もご自分が【竜の愛し子】であることに気づいていなかったと思われます」
「そうかブルーナには侍女すらついていなかったのだな……」
国王はブルーナのことを思い出していた。
ブルーナはいつも悲しげな顔をしていた、だがブルーナは着るものやアクセサリーには困っているように見えなかったので、国王はブルーナがそこまで酷い扱いを受けているとは思っていなかった。
「北の牢獄にブルーナはいたか?」
「いえおりませんでした、ブルーナ様が一度は入った形跡はあったのですが……」
「詳しく話してみよ」
「牢番は確かに最下層の一番奥の牢屋にブルーナ様を入れ、外から鍵をかけたそうです。
王妃殿下からブルーナ様には水も食料も与えるなと命じられていたので、牢番はブルーナ様を牢獄に入れてから三カ月間、一度もブルーナ様を閉じ込めた牢を見にいかなかったそうです。
私が王命を持って北の牢獄に行き、急いでブルーナ様を閉じ込めていたという牢屋を調べたのですが、そこはもぬけの殻でした。
外からきちんと鍵はかかっているのに、中に入れたはずのブルーナ様だけが消えていました」
「消えただと?」
「はい、牢屋にはホコリがたまっており、ブルーナ様が身につけていたものと思われる血のついたヴァトー・プリーツの切れ端だけが落ちていました」
「牢番は間違いなくブルーナを牢屋にいれたのだな?」
「はい鍵を三つかけ、鍵は牢番が首にかけ肌見放さず持っていたそうなので、牢番はブルーナ様が牢屋から逃げ出せるはずがないと申しておりました。
ブルーナ様が牢屋にいたことは間違いなく、北の牢獄の監視は誰もブルーナ様を牢屋から出していないので、ブルーナ様は牢屋に入れられたあと、忽然と姿を消したとしか思えません」
「忽然と姿を消したか……神ならばそのようなこともいとも容易くやってのけるのかもしれぬな」
「陛下?」
「いや何でもない、もう下がってよい」
「はっ!」
報告を終え踵を返し部屋を出ていく配下を見送り、国王は深く息を吐いた。
「せめてブルーナを城から出す前に湯浴みをさせ着替えさせていれば……ブルーナの背に竜の模様があることに気づけたであろうに」
ブルーナが夜会で身につけていたドレスはローブ・ア・ラ・フランセーズ。
ローブ・ア・ラ・フランセーズは胸元は開いているが、背中は開いていない。
ドレスの上にヴァトー・プリーツを羽織っていたので絶対に背中は見えない。
「しかし……ドレスは一人では着れぬはず、ブルーナの着付けは誰がしていたのだ? 本当にブルーナには侍女が一人もついていなかったのか? もし侍女がついていたとして、その者はなぜブルーナの背に竜の模様があることを国に報告しなかった?」
国王は先ほど帰したばかりの配下を呼び戻し、ブルーナについて今一度調べさせることにした。
☆☆☆☆☆
525
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました
あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。
そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。
平民出身のヒロインの「善意」、
王太子の「優しさ」、
そしてそれらが生み出す無数の歪み。
感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。
やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。
それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。
なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。
これは、
「断罪される側」が最後まで正しかった物語。
そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。
真実の愛を見つけた王太子殿下、婚約破棄の前に10年分の王家運営費1.5億枚を精算して頂けます?
ぱすた屋さん
恋愛
「エルゼ、婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」
建国記念祭の夜会、王太子アルフォンスに断罪された公爵令嬢エルゼ。
だが彼女は泣き崩れるどころか、事務的に一枚の書類を取り出した。
「承知いたしました。では、我が家が立て替えた10年分の王家運営費――金貨1億5800万枚の精算をお願いします」
宝石代、夜会費、そして城の維持費。
すべてを公爵家の「融資」で賄っていた王家に、返済能力などあるはずもない。
「支払えない? では担保として、王都の魔力供給と水道、食料搬入路の使用を差し止めます。あ、殿下が今履いている靴も我が家の備品ですので、今すぐ脱いでくださいね?」
暗闇に沈む王城で、靴下姿で這いつくばる元婚約者。
下着同然の姿で震える「自称・聖女」。
「ゴミの分別は、淑女の嗜みですわ」
沈みゆく泥舟(王国)を捨て、彼女を「財務卿」として熱望する隣国の帝国へと向かう、爽快な論理的ざまぁ短編!
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
『スキルなし』だからと婚約を破棄されましたので、あなたに差し上げたスキルは返してもらいます
七辻ゆゆ
恋愛
「アナエル! 君との婚約を破棄する。もともと我々の婚約には疑問があった。王太子でありスキル『完全結界』を持つこの私が、スキルを持たない君を妻にするなどあり得ないことだ」
「では、そのスキルはお返し頂きます」
殿下の持つスキル『完全結界』は、もともとわたくしが差し上げたものです。いつも、信じてくださいませんでしたね。
(※別の場所で公開していた話を手直ししています)
【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~
猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」
王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。
王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。
しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。
迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。
かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。
故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり──
“冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。
皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。
冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」
一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。
追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、
ようやく正当に愛され、報われる物語。
※「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる