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第二章・リシェルとエカードの出会い
第2章・4話「ダンスの授業を始めよう」
しおりを挟む場所を移して、今度はダンスのレッスンをすることになった。
リシェル嬢の手を握り、彼女の腰に手を回す機会がこんなに早く訪れようとは!
かなり接近できるから、唇と唇が触れ合ってしまうなんて事故も……!
ステップを間違えてよろけたリシェル嬢を支えきれずに、押し倒してしまうなんてことも……!
『事故とはいえ、殿方に組み敷かれたのでは私はもうお嫁にいけません。ポッ』
『大丈夫だよリシェル嬢、俺が責任を持って君をお嫁にもらうから……!キリッ』
なんてことになったりして……! ぐふふっ!
「エカード様、人前で口を半開きにして鼻の下を伸ばして『ぐふふ』と下品に笑うのは止めたほうがいいですよ。
アホに見えます」
「……すまない」
リシェル嬢にツッコまれ俺は現実に戻った。
リシェル嬢とふたりきりになると、つい良からぬ妄想にふけってしまう。気をつけないと!
「えーと、じゃあまずはダンスのステップから……」
リシェル嬢と体を密着できるチャンス!
これはダンスのレッスン!
リシェル嬢の手も握り、腰に手も添えるのも授業の一貫! スケベな気持ちからではない!
うまく行けば華麗なステップを披露して、リシェル嬢をときめかせることも……!
俺はドキドキしながらリシェル嬢の前に立った。
「リ、リシェル嬢、手を出して……」
リシェル嬢の前に立ち彼女の手を握ろうとしたら、リシェル嬢に胸ぐらを掴まれふっとばされていた。
背中に痛みを感じて初めて、背中から壁に激突したんだと理解した。
「リシェル嬢、なにを……」
邪な気持ちがあることに気づかれた?
「ごめんなさい。
目の前に男性が立って、いやらしそうな目で見てきたら投げ飛ばしていいって、お父様に言われていたの。
だからつい」
いやらしそうな目……?!
俺のそんな不純な目でリシェル嬢を見ていたのか?
「だから私、自分より背丈の大きな者が目の前に立つと、投げ飛ばしてしまう癖がついてますの」
リシェル嬢は俺がこの領地に来る前は、辺境伯と一緒に魔の森のモンスターの間引きに行っていたようだ。
そういう身を護る癖がなかったら、モンスターがひしめく魔の森で生き抜くことはできなかったのだろう。
今まで、リシェル嬢に誰もダンスを教えなかった理由がわかった。
リシェル嬢の投げ技をくらったら、普通のダンス講師は裸足で逃げ出す。
「だから皇子様も諦めて、私にダンスなんて無理よ」
「俺は諦めないよ!」
「えっ?」
「今はダンスもテーブルマナーも窮屈に思えるかもしれない。
でも覚えておいて損はないと思うんだ。
ダンスだってテーブルマナーだって貴族社会を生き抜く、立派な武器だよ。
ダンスやテーブルマナーを身につければ、お茶会やパーティにも参加できる。
すこし退屈に感じることもあるけど、お茶会には色んな出会いがある。
俺はねリシェル嬢、君には広い世界を見てほしいんだ。
ゼーマン辺境伯領だけが世界の全てだと思って、終わってほしくないんだ」
「皇子様……」
リシェル嬢が真っ直ぐに俺を見ている。俺の言葉は少しは彼女の胸に響いただろうか?
「そんな格好でおっしゃったのでなければ、今のお言葉心にしみましたのに」
「うっ……」
壁に激突した俺は壁からずり落ちて、でんぐり返しに失敗した子供みたいなポーズでお尻を上にして床に転がっている。
皇太子である俺が、女の子の前でこんな恥ずかしい姿を晒すことになるとは……!
「私に投げ飛ばされて、ダンスのレッスンを途中で投げ出さなかった先生はあなたが初めてだわ。
皇子様は見かけによらず根性があるのね。
私、根性がある人は嫌いじゃないわ」
「えっ……?」
今のは「好き」って言われたと思っていいのかな?
いや「嫌いじゃない=好き」にはならないか。
荷馬車も、ブロッコリーも、アンティークの家具も、嫌いじゃないが好きかと言われたら微妙だし。
初対面のときリシェル嬢に「弱虫」と思われていた俺が、「根性がある」と認めてもらったんだ。
これは確実に進歩してるよね!
「いつか絶対パーティでリシェル嬢をエスコートしてみせるよ!」
「ふふっ、楽しみにしてるわ」
俺のこの夢は、二度砕かれることになる。
一度目は皇族と勇者の末裔は結婚できないと知ったとき。
二度目はリシェル嬢がニクラス王国のアルド王太子と婚約したと知ったとき。
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