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8話「お久しぶりですねハンナ様」
しおりを挟む食堂から隠し通路を通り目的地を目指す。途中メイドの部屋に出たので、メイドの服一着と靴を一足頂いた。塔にいたときのボロボロのワンピースでは目立ってしまうので着替えた。
メイドの部屋から隠し通路に入りしばらく歩くと別の部屋に着いた。壁の一部が回転する仕組みになっている、壁を押し慎重に中を覗く。ピンクのカーテンがかかった豪華な部屋……ここは確か王太子妃の私室だったはず。
本来私にあてがわれるはずだった部屋に私が足を踏み入れたのは、隠し通路の説明を受けたとき一回きり。
「この部屋に入るのは今日で二度目ね」
当時かけられていたロイヤルブルーの品の良いカーテンは外され、パッションピンクの派手なカーテンに変えられていた。
王太子妃になった男爵令嬢の趣味だろう。
荒い息遣いに気づきベッドを見る。
「好きだよ……ハンナ!」
「私もよ、ビクトル……!」
王太子妃が王太子以外の男とベッドでキスしていた。
はからずも王太子妃の浮気現場を目撃してしまった。
ビクトル・レイザーは王太子の側近の一人だった男だ。
主を裏切りその妻と浮気していたとは恐れ入った。
王太子はハンナが懐妊したと言っていたが、王太子の子であるか怪しいものだ。
男爵令嬢のハンナ・ノークトには散々煮え湯を飲まされた。
学園で私の悪い噂を流され、王太子を誑かし卒業パーティーで私を断罪し恥をかかされ、その上王太子と結婚するために無理くり私を王太子の側室にされ、公爵家から拉致し塔に閉じ込め、仕事だけ押し付られけた。
もちろんハンナの行動を許可した国王も王妃も王太子も父親も継母も妹もクソだが、元凶はこの女だ。
私を塔に閉じ込め仕事をおしつけておいて、自分は側近と浮気とはいいご身分だこと。
眠らせて全身にイボを作るくらいでは生ぬるい。
二人はキスに夢中で私に気が付かないようなので、そっと背後から近づき二人の手に触れる。
ハンナの全身が真っ赤になり服が触れているだけで痛みに苦しむようにした、ビクトルの体も同じように変化させる。ついでに痒みも感じるようにしてやった。
これで二人は一生服を着れないだろう。
「痒い、痒いわ! ビクトル!」
「僕もだよハンナ! なんで急にこんな……! 痒くて痒くてたまらない!」
二人は慌てた様子で服を脱ぎはじめた。よほど急いでいたのかビリビリと服を破いている。
「混乱! 幻覚!」
二人が全裸になったところで混乱と幻覚の魔法をかける。二人には噴水の水が万能薬に見えるだろう。
水に触れると痛みが増し、針のむしろに巻かれて転がされているような激痛を感じるのだが、混乱し幻覚を見ている二人は迷わず噴水に飛び込むだろう。火に近づきすぎて焼け死んでしまう愚かな虫のように。
「水!! 水が欲しいわ! 噴水に入らなきゃ! どきなさいよビクトル! 邪魔よ!」
「うるさいお前こそどけ! 俺が先だ!!」
二人は罵り合い、突き飛ばし合いしながら全裸のまま部屋から出ていった。
「きゃーー!!」
「王太子妃様! なぜそのような格好を!」
「ビクトル様なんて破廉恥な!」
廊下からメイドのものと思われる悲鳴が聞こえる。
王太子妃が全裸で城中を走り回るだけでも醜聞。あろうことか王太子妃の部屋から全裸の男と一緒で出てきたのをメイドに見られている、醜聞では済まないだろう。
ハンナは大恥をかいた上に公然と浮気をした罪で王太子妃の地位を追われ、王太子妃と浮気したビクトル・レイザーは廃嫡され、極刑に処されるだろう。
窓から外を見ると「私が先に噴水に入るのよ!」「うるせぇ! 俺が先だ!」ハンナとビクトルが醜く争っていた。
二人は同時に噴水に飛び込み「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!」この世のものとは思えぬ悲鳴を上げた。
「さようならハンナ、自業自得ね」
私を陥れても手に入れたかった王太子妃の座から転がり落ちたハンナが、国王に処分されるところが見れなくて残念だわ。
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