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2話「婚約解消の提案」
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夜、父が帰宅するのを待って、私は父の執務室を訪れました。
エドワード様との婚約を解除してほしいと伝える為です。
事は婚約の解消です簡単に言えることではありません。
婚約を解消した私は傷物になってしまいます。
それに貴族の婚約は、家と家の付き合いもあります。
ですがこの場合、私の代わりに妹がエドワード様と婚約するので問題はありません。
問題があるとすれば私です。
優秀な貴族の男性は、この年までにだいたい婚約者が決まっています。
残っているのは、女癖が悪かったり、暴力的だったり、お金のトラブルを抱えている方ばかり。
私は次の婚約者を見つけることが出来るのかしら?
でも……婚約者が妹と仲睦まじく過ごすのを見ながら、結婚なんてできません。
やはりエドワード様との婚約は解消するしかないのです。
私は意を決して、婚約解消の件を父に伝えました。
「エドワードとの婚約を解消する?
なぜだお前たちはうまくいっていたのではなかったのか?」
お父様は、困惑しているようでした。
ごめんなさい。お父様を悲しませるような真似をしてしまって。
でも、エドワード様とディアのことをはっきりと伝えなくては。
今の関係をずるずると続けた先に幸せわないわ!
「いいえ、お父様。
エドワード様が愛しているのは私ではなく妹のディアです。
ディアもエドワード様の事を慕っています。
だから私とエドワード様の婚約を一度解消し、新たにディアとの婚約を結んでほしいのです。
そうすればロンメル伯爵家とコルベ伯爵家の縁はそのままでしょう?」
「少し落ち着きなさい。
エドワードがディアを愛しているという確証はあるのか?
お前の勘違いではないのか?」
お父様がそうおっしゃる気持ちはわかります。
でも残念だけど、確証があるのです。
「ございます。
エドワード様が当家を訪れるとき、エドワード様は私に十五本の黄色い薔薇の花束を、妹のディアには七本のピンクの薔薇の花束を贈るのです。
お父様はこの意味をお分かりでしょう?」
貴族なら知らないはずがないもの。
「黄色い薔薇の花言葉は『友情』、十五本の薔薇の花束の花言葉は『ごめんなさい』。
ピンクの薔薇の花言葉は『可愛い人』、七本の薔薇の花束の花言葉は『密かな愛』『ずっと言えませんでしたがあなたが好きでした』だったな」
花の女神を信仰する我が国は花言葉を重んじています。
ですから、異性に贈る花の意味には気をつけないといけないのです。
この国の男子はABCを覚える前に、花言葉を覚えると言われるほどです。
「そうです、お父様。
それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。
ご自身の髪と瞳の色の花を贈るのは、エドワード様がディアを愛している証拠として十分ですわ」
自分の髪や瞳の色のアクセサリーや花束は、婚約者か恋人か伴侶にしか贈らないしきたりです。
これは貴族の常識ですわ。
「決定的なのはエドワード様がクラウディアを「ディア」と愛称で呼び、
ディアもエドワード様の事を「エド様」と愛称で呼んでいることです。
私はエドワード様を愛称でお呼びしたことも、エドワード様に愛称で呼ばれたこともありません」
エドワード様と婚約して三年、エドワード様に愛称で呼ばれたことは一度もありません。
彼が朗らかな笑顔で、妹を「ディア」と呼ぶとき、私の胸はいつもズキズキと音を立てていました。
私の胸には薔薇の棘がいくつも刺さり、血だらけなのです。
「どうやらエドワードとディアが思い合っているのは、間違いないようだな。
他に思う相手がいる男と結婚するのは辛かろう。
シアとエドワードの婚約を解消し、新たにエドワードとディアの婚約を結ぶことにしよう」
お父様は、切なさと苦しさの混じった表情でそうおっしゃいました。
私は、お父様が自分の提案を受け入れてくれたことに、ホッとしつつも、どこか言いようのない寂しさを覚えていました。
私はこれから、婚約者に愛されなかった女として、生きていかなくてはならないのです。
「ありがとうございます、お父様」
私はカーテシーをしました。
そして直ぐに執務室をでました。
きっと今の私は情けない顔をしています。
こんな姿を誰かに見られたくありませんでした。
ところが間の悪いことに、執務室から出たところで、ディアとばったり出くわしてしまいました。
よりによって、こんなところで妹に会うなんて……。
「あら、お姉様。
お父様の執務室にいらしていたのね」
「ええ、少し用がありましたの」
私はできるだけ感情が読み取られないように、淑女の笑みを浮かべ、穏やかにそう言いました。
「偶然ですね。
わたしもお父様に用事がありましたの」
にっこりと微笑んで、ディアが執務室に入って行きました。
私はあれこれと詮索されなくて、安堵していました。
清楚で可憐で無邪気なディア。
ディアが幸せになれるなら私は喜んで身を引きます。
エドワード様のことを思うと今はまだ少し胸が痛みます。
それでも彼女が幸せになるなら耐えられるはずです。
「ディア、どうかエドワード様と末永く幸せにね」
私は妹が消えた執務室のドアに向かって、そう呟きました。
エドワード様との婚約を解除してほしいと伝える為です。
事は婚約の解消です簡単に言えることではありません。
婚約を解消した私は傷物になってしまいます。
それに貴族の婚約は、家と家の付き合いもあります。
ですがこの場合、私の代わりに妹がエドワード様と婚約するので問題はありません。
問題があるとすれば私です。
優秀な貴族の男性は、この年までにだいたい婚約者が決まっています。
残っているのは、女癖が悪かったり、暴力的だったり、お金のトラブルを抱えている方ばかり。
私は次の婚約者を見つけることが出来るのかしら?
でも……婚約者が妹と仲睦まじく過ごすのを見ながら、結婚なんてできません。
やはりエドワード様との婚約は解消するしかないのです。
私は意を決して、婚約解消の件を父に伝えました。
「エドワードとの婚約を解消する?
なぜだお前たちはうまくいっていたのではなかったのか?」
お父様は、困惑しているようでした。
ごめんなさい。お父様を悲しませるような真似をしてしまって。
でも、エドワード様とディアのことをはっきりと伝えなくては。
今の関係をずるずると続けた先に幸せわないわ!
「いいえ、お父様。
エドワード様が愛しているのは私ではなく妹のディアです。
ディアもエドワード様の事を慕っています。
だから私とエドワード様の婚約を一度解消し、新たにディアとの婚約を結んでほしいのです。
そうすればロンメル伯爵家とコルベ伯爵家の縁はそのままでしょう?」
「少し落ち着きなさい。
エドワードがディアを愛しているという確証はあるのか?
お前の勘違いではないのか?」
お父様がそうおっしゃる気持ちはわかります。
でも残念だけど、確証があるのです。
「ございます。
エドワード様が当家を訪れるとき、エドワード様は私に十五本の黄色い薔薇の花束を、妹のディアには七本のピンクの薔薇の花束を贈るのです。
お父様はこの意味をお分かりでしょう?」
貴族なら知らないはずがないもの。
「黄色い薔薇の花言葉は『友情』、十五本の薔薇の花束の花言葉は『ごめんなさい』。
ピンクの薔薇の花言葉は『可愛い人』、七本の薔薇の花束の花言葉は『密かな愛』『ずっと言えませんでしたがあなたが好きでした』だったな」
花の女神を信仰する我が国は花言葉を重んじています。
ですから、異性に贈る花の意味には気をつけないといけないのです。
この国の男子はABCを覚える前に、花言葉を覚えると言われるほどです。
「そうです、お父様。
それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。
ご自身の髪と瞳の色の花を贈るのは、エドワード様がディアを愛している証拠として十分ですわ」
自分の髪や瞳の色のアクセサリーや花束は、婚約者か恋人か伴侶にしか贈らないしきたりです。
これは貴族の常識ですわ。
「決定的なのはエドワード様がクラウディアを「ディア」と愛称で呼び、
ディアもエドワード様の事を「エド様」と愛称で呼んでいることです。
私はエドワード様を愛称でお呼びしたことも、エドワード様に愛称で呼ばれたこともありません」
エドワード様と婚約して三年、エドワード様に愛称で呼ばれたことは一度もありません。
彼が朗らかな笑顔で、妹を「ディア」と呼ぶとき、私の胸はいつもズキズキと音を立てていました。
私の胸には薔薇の棘がいくつも刺さり、血だらけなのです。
「どうやらエドワードとディアが思い合っているのは、間違いないようだな。
他に思う相手がいる男と結婚するのは辛かろう。
シアとエドワードの婚約を解消し、新たにエドワードとディアの婚約を結ぶことにしよう」
お父様は、切なさと苦しさの混じった表情でそうおっしゃいました。
私は、お父様が自分の提案を受け入れてくれたことに、ホッとしつつも、どこか言いようのない寂しさを覚えていました。
私はこれから、婚約者に愛されなかった女として、生きていかなくてはならないのです。
「ありがとうございます、お父様」
私はカーテシーをしました。
そして直ぐに執務室をでました。
きっと今の私は情けない顔をしています。
こんな姿を誰かに見られたくありませんでした。
ところが間の悪いことに、執務室から出たところで、ディアとばったり出くわしてしまいました。
よりによって、こんなところで妹に会うなんて……。
「あら、お姉様。
お父様の執務室にいらしていたのね」
「ええ、少し用がありましたの」
私はできるだけ感情が読み取られないように、淑女の笑みを浮かべ、穏やかにそう言いました。
「偶然ですね。
わたしもお父様に用事がありましたの」
にっこりと微笑んで、ディアが執務室に入って行きました。
私はあれこれと詮索されなくて、安堵していました。
清楚で可憐で無邪気なディア。
ディアが幸せになれるなら私は喜んで身を引きます。
エドワード様のことを思うと今はまだ少し胸が痛みます。
それでも彼女が幸せになるなら耐えられるはずです。
「ディア、どうかエドワード様と末永く幸せにね」
私は妹が消えた執務室のドアに向かって、そう呟きました。
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