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三十九話「ラック・ヴィル②」
「この宿にしよう」
宿屋は通常街の入口か大通りに面した分かりやすい場所にある。
ノヴァさんに紹介された宿は街の中央、湖がよく見える場所にあった。
五階建ての石造りの壮麗な建物、これ貴族とか金持ちの商人専用の宿なんじゃ?
「この宿の壁は厚い、私が保証する」
高級感のある宿だから、確かに壁は厚そうだけど……。ノヴァさんが壁の厚さを知っているということは、ノヴァさんは以前この宿に泊まったことがある?
一人で、それとも誰かと?
もしかして……その当時の恋人と一緒に泊まった?
針で刺されたように、胸がチクチクと痛い。
いや推測で判断するのはよくない、一人で泊まったのかもしれないし。
「ノヴァさん、この宿に以前泊まったことがあるんですか?」
「ああ、何度かある」
一回じゃないんだ。
「そのとき、誰かと一緒でしたか?」
ノヴァさんの目をじっと見る。
「一人で泊まった、どうしてそんなことを?」
ノヴァさんの目を見てたけど、嘘ついてる感じじゃなかった。
良かった、一人で泊まったんだ。ホッと息をつく。
昔の恋人とセックスした部屋で、治療行為するのは……嫌だ。
ノヴァさんに過去に恋人がいて、その人と何をしていても、俺が口出しできることじゃないのに。
胸がズキズキして、心臓に手を当てシャツをギュッと掴む。なんでこんなにモヤモヤしてるんだろう。
「いえ、純粋に気になっただけです」
「そうか、この宿のスイートルームは見晴らしもいい、行こう」
ノヴァさんが俺の腰に手を回す。
ちょっと待った、今スイートルームって言いました?
「ノヴァさん、俺はこんな豪華な宿じゃなくても……」
一泊するのに金貨何枚かかるんだ? ノヴァさんは出世払いでいいと言ってくれたけど、冒険者登録しても最初はそんなに稼げないだろうし、宿代を支払うのにいくつの依頼をこなす必要があるんだ?? 今年中に返せるだろうか??
「私が嫌だ! 隣の部屋に音が漏れるのを気にしてシエルが声を抑えるのはつまらない! いや、最初は口に手を当て声を抑えるシエルの姿に萌えた! 興奮した! だが私はシエルの愛らしい求め声を聞きたい! 私の竿でめいっぱい喘ぐシエルが見たい! 隣の部屋の住人に声を聞かれた恥ずかしさで機嫌をそこねたシエルに、半日無視されるのは辛い!」
ノヴァさん俺に無視されたこと気にしてたんですね。というか外でそういう話をするのは止めてください。
道行く人がちらちらとこちらを見ている。俺は被っていたフードをさらに深く被った。耳まで赤いのを隠すためだ。
「それはあの、色々とすみませんでした」
と、言うべきなのかな? どうでもいいけど早くこの場を離れたい。
「金のことを心配しているなら気にしなくていい、私のわがままで泊まるのだから私が全額支払う! 返さなくて構わない!」
ノヴァさんのわがままになるのかな? 治療行為は俺のためにしてくれてる訳だし。
いや性行為はノヴァさんの性欲発散も兼ねている、そういう意味ではノヴァさんの為とも言える。…………もっともその場合、相手は俺じゃなくてもいい訳だが。
「行こう!」
俺が思案している間に、ノヴァさんにエスコートされ宿屋に連れ込まれていた。
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