幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで・BL・完結・第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品

まほりろ

文字の大きさ
63 / 131

六十三話「風《ヴィント》」

しおりを挟む


俺がノヴァさんに背負われてモンターニュ村に帰って来たとき、空はまだ暗かった。というより真っ暗、多分真夜中。

下山する途中で遭遇したコボルトと戦ったり、毒消し草を食べさせ合ったりしながらゆっくり下りて来た。

それでも登るときの1/3の時間で帰ってこれたのは、ノヴァさんが俺を背負って歩いてくれたおかげだろう。

ノヴァさんの背中から下り、ノヴァさんにお礼を伝え、村の中心にある広場へと向かう。

どの家にも明かりが灯っていない。みんな寝てるのかな?

ノヴァさん曰く民家から人の気配はしないそうだ。

ということは村の人たちはノヴァさんの指示通り、風の通りの良い場所に避難しているのだろう。

春とはいえ夜は冷える、病み上がりの身にこの寒さはこたえるだろう。このままだとキメラの毒が解毒できても、村人が風邪を引いてしまう。

村に溜まったキメラの毒をなんとかできないかな?

「お姉さん! お兄さん!」

聞き覚えのある声がして振り返るとトマの姿が見えた、広場の向こうからこちらに向かってかけてくる。

「トマ、どうしてここに? 村の人たちは?」

「明かりが見えたからお姉さんたちが帰って来たのかと思って、オレ一人で様子を見に来たんです。お兄さんに言われた通り、村の人たちは村の外れ風通しの良い場所に避難させました。お兄さんに貰った毒消し草を飲んで毒が抜けたので、少しずつ回復してます。軽症の人は動けるようになるまで回復しました」

「そっか、よかった」

キメラを倒しても、村の人たちが毒で全滅したんじゃ意味がない。

「お姉さんとお兄さんは怪我してませんか? キメラはどうなりましたか?」

トマが不安そうに訪ねてくる。

「大丈夫、俺もノヴァさんも無傷だよ、ばっちりキメラを倒してきたぜ!」

俺は親指を立ててトマに向ける。

「本当! すごい! たった二人でしかもこんな短時間にキメラを倒すなんて!! 村の人たちに知らせなくちゃ!」

トマが飛び跳ねて喜ぶ。真夜中なのに子供は元気だな。

「待て、私たちが村に来たときから、半日たったが村に溜まった毒はさほど抜けていない。村人を呼び戻すのは早い」

「そうなんですか?」

妖精の歌フェー・リートのワンピの効果で、毒を八割カットしてくれるから気づかなかった。

「この村が鍋の底のような形をしているせいだな」

「それじゃあ、村の人はしばらく家に戻れないのですか?」

トマが悲しそうに顔を歪め、肩を落とす。

「方法がない訳ではない。毒が自然に抜けるのを待っていたのでは時間がかかりすぎる、だが魔法を使えば短時間で毒を吹き飛ばせる。キメラを倒したので派手な魔法を使っても問題ないだろう。広場を使う、トマとシエルは離れていてくれ」

「はい、ノヴァさん」

「分かりました」

「着ていろ、少しだが毒に耐性がある」

ノヴァさんが羽織っていたマントを脱ぎ、トマの肩にかけた。

「ありがとう、お兄さん!」

トマが笑顔でノヴァさんにお礼を言う。

トマの手を握ろうとしたら、ノヴァさんがトマを鋭い目で睨んだので、トマには触れずに広場の隅に移動した。

子供に嫉妬するなんてノヴァさんは可愛いな、愛されてるな俺。

吹雪シュネーシュトゥルム!!」

ノヴァさんが呪文を唱えると、広場が雪と氷で覆われた。

フランメ! フランメ! フランメ!!」

ノヴァさんの手から炎の玉が飛び出し、雪にぶつかる。

炎は雪とぶつかった衝撃で消え、炎によって熱せられた雪は個体から液体に、液体から気体に変化した。ぶわりと強い風が起こりスカートがはためく。俺はとっさに髪とスカートを抑えた。

そうか雪を炎で溶かして上昇気流を起こしてるんだ。

地面の雪を全て溶かすと、ノヴァさんは空に手をかざした。

ヴィント! ヴィント! ヴィント!!」

上空に向かってさらに、強い風が起る。

「広場の空気が澄んでる! こんな清々しい空気を吸ったの久し振りかもしれません!」

トマが嬉しそうにほほ笑み、大きく深呼吸している。

「そうなのか?」

毒耐性のある服のせいでよく分からないが、この村空気は浄化されたらしい。

これで避難している村の人たちが家に帰れる。



◇◇◇◇◇
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

処理中です...