幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで・BL・完結・第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品

まほりろ

文字の大きさ
121 / 131

121話「⑭」

しおりを挟む

バルコニーに出ると国王のいた場所だけ悪竜オードラッへの牙でえぐり取られていた、国王の血などは飛び散っていなくてホッとする。

異世界人に効くかどうか分からないけど、心の中で念仏を唱えておいた。

「大丈夫か?」

ノヴァさんが俺のメンタルを気遣ってくれた。

「気遣ってくれてありがとうございます、でも大丈夫です、耐えられます」

ノヴァさんにそう答え俺は前を向く。このぐらい耐えられないと、ヴェルテュ様に認めてもらえない。

城の庭には、俺たちがいたときより多くの人が集まっていた。

アインス公爵の部下や衛兵が戻ってきていた、街にいた人たちも庭に集まってきたようだ。

おそらくバルコニーでの出来事は、千里眼スゴンド・ヴューを通じて、レーゲンケーニクライヒ国中に流れている。

「ヴュルデ・アインスだ! ボワアンピール帝国の女神ヌーヴェル・リュンヌ様と、ヴェルテュ・ボワアンピール皇太子殿下とカルム・ボワアンピール第二皇子殿下の助力を得て、長年この国に巣食っていた悪竜オードラッへを倒すことが出来た!」

観衆から「わあっ!」と声が上がる。

「ボワアンピール帝国の皇太子ヴェルテュ・ボワアンピールだ。アインス公爵家の嫡男ザフィーア・アインス公子の力を借り、悪竜オードラッへを退けられたことに礼を言う」

民衆から「ザフィーア様ーー!」「カルム殿下ーー!」という声が上がる。

気恥ずかしい、取り敢えずノヴァさんと一緒に笑顔で手を振っておく。

「レーゲンケーニクライヒ国の国王は民を悪竜オードラッへの生贄に捧げようとし、図らずも自らが悪竜オードラッへの生贄となり命を落とした。王太子エルガー・レーゲンケーニクライヒは水の神子立花葵たちばなあおいとともに、国民を見捨て城にある金品を集め逃げ出そうとしていた、二人は悪竜オードラッへの攻撃により城の天井が崩れその下敷きになり死んだ」

ヴェルテュ様の言葉に民衆からどよめきが起こる。

さっきは水の神子と王太子は捕らえただけだって言ってたのに……。

ヴェルテュ様はエルガーを国の有事に国民を見捨てて金目の物を持って神子と一緒に逃げようとして死んだダメダメ王太子ってイメージを国民に植え付け、王家に失望させたいんだろう。

「悪竜オードラッへには、レーゲンケーニクライヒ国の民だけではなく、ボワアンピール帝国の民も生贄として捧げられてきた。ある者はレーゲンケーニクライヒ国を旅行中に行方不明になり、ある者は村ごとさらわれた」

民衆がざわついている。

「ボワアンピール帝国はレーゲンケーニクライヒ国に損害賠償を請求したい」

民衆がどよめく。

「しかしボワアンピール帝国の民をさらっていたのは、レーゲンケーニクライヒ国の王族の一存だと聞く。故にレーゲンケーニクライヒ国を滅し、新たにヴュルデ・アインス殿を王としたアインス公国を建国するなら、損害賠償金の請求を免除しよう。ボワアンピール帝国の傘下に加わるのならヌーヴェル・リュンヌの加護も与えると約束しよう」

レーゲンケーニクライヒ国中の民が動揺しているのが伝わってくる。

「レーゲンケーニクライヒ国の民には二つの選択肢が用意されている、一つは王族を敬い、神の加護を失ったこの地で、痩せた大地を耕し、ボワアンピール帝国に損害賠償金を支払う未来――。

もう一つはアインス公爵を新たな王とし、アインス公国を作り、ボワアンピール帝国の傘下に入り、ヌーヴェル・リュンヌの加護を得た豊かな土地を耕し、穏やかに暮らす未来――。

好きな方を選択するといい、いい忘れていたけどレーゲンケーニクライヒ国を存続させるというのなら、今後ボワアンピール帝国はレーゲンケーニクライヒ国と一切交易を行わない」

ヴェルテュ様の言葉に庭に集まった人々は顔を見合わせ、どうするべきか話し合っていた、ざわめきは徐々に大きくなっていく。

ヴェルテュ様が飴と鞭を使い分けてきた、絶望的な選択肢と、ハッピーな選択肢を用意し、相手な選ばせる方法を取る気だ、性格が悪いな。

神の加護を失った枯れた大地で痩せた土地を耕し、毎年多額の損害賠償金をボワアンピール帝国に支払う苦難の道を選ぶ国民など、はたしているのだろうか?

やがてざわめきはおさまり、庭に集まった民衆から「アインス王万歳!」「アインス公国万歳!」「新たなる国と新王の誕生だぁ!」という歓声が上がった。

「庭に集まった民衆はアインス殿を王とするアインス公国の誕生に賛成のようだね、正式な返事は後日各領主に尋ねるとしよう、今日はもう一つ重大な発表がある」

ヴェルテュ様が俺とノヴァさんに視線を向けた。

「ボワアンピール帝国の第二皇子カルム・ボワアンピールと、アインス公爵の第一子ザフィーア・アインス公子が婚約したことを発表する」

ここでヴェルテュ様から、ノヴァさんとの婚約を発表されるとは思わなかった。

ヴェルテュ様は色々と難癖をつけて、俺とノヴァさんの婚約に反対すると思ってた……。

「カルムとザフィーア公子にはボワアンピール帝国に住んでもらい、二国の架け橋になってもらう」

俺に向かってにっこりとほほ笑むヴェルテュ様。

ノヴァさんと結婚するにはボワアンピール帝国の宮殿での同居が条件ってことですね、分かりました。

できれば一年ぐらいはノヴァさんと二人きりで暮らしたかったけど、それは難しそうだ。

次点でアインス公爵家で暮らしたいけど、それは絶対に無理だろうな。ノヴァさんが他国で暮らすことをヴェルテュ様が許すはずがない。

俺はいま婚約という飴と、小舅との同居という鞭を突きつけられている。

ノヴァさんと結婚できるなら、義兄ヴェルテュ様のお小言ぐらい耐えてみせる!

「ほらカルムもザフィーアくんも手を振って、国民が見てるよ、スマイル、スマイル」

ヴェルテュ様に促され、俺はノヴァさんとともに国民に手を振った。









この後、レーゲンケーニクライヒ国はアインス公爵を王としアインス公国を建国し、ボワアンピール帝国の傘下に入った派閥と、旧王族を支持しレーゲンケーニクライヒ国を立て直そうとする派閥に別れた。

アインス公国の領地はヌーヴェル・リュンヌ様の加護を受け、大地は潤い、水は浄化され、農作物は豊作、ボワアンピール帝国との商売も順調、国は大いに栄えた。

対してレーゲンケーニクライヒ国は、神の加護を失い、大地は荒れ、水は枯れ、空気は淀み、毎年凶作。ボワアンピール帝国と国交も断絶されているので、商いも上手くいかず、レーゲンケーニクライヒ国はどんどん貧しくなっていった。

その上ボワアンピール帝国への多額の賠償金を支払わなければならず、民はその日食べるものにも困り、レーゲンケーニクライヒ国を捨てアインス公国に亡命する者が相次いだ。

悪竜オードラッへが倒された3年後、レーゲンケーニクライヒ国は滅び、旧レーゲンケーニクライヒ国の領土はアインス公国の支配下に置かれた。

レーゲンケーニクライヒ国の王族は幽閉され、王族を支持していた貴族は身分を剥奪され平民となった。


☆☆☆☆☆

次回最終話

☆☆☆☆☆
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...