5 / 8
5話「天使の顔も四度まででしてよ」
しおりを挟む「デール、あなたが王太子になるには現国王の正妃である私の養子に入り、なおかつ侯爵家の長女であるスフィアと結婚するしかなかったのよ。
せっかく養母である私が、お膳立てして差し上げたのに、あなたは自らの手で王太子になる道を閉ざした。王太子になることより真実の愛で結ばれた男爵令嬢との結婚を選んだ」
「そんな……嘘だっ!」
デールの体はぷるぷると震えていた。
「全部本当のことよ。デールが王太子の座をいらないというから、あなたとの養子縁組を解消し、現国王の甥であるレオナルドを私の養子にしたの。レオナルドは喜んで王太子になってくれたわ」
アロンザは扇で口元を隠しくすりと笑った。
「違う! 俺はレオナルドに王太子の地位を譲ってない!」
デールが声の限りに叫んだ!
「デール、側妃の子にすぎないあなたが、男爵令嬢と結婚し、真実の愛に生きるというのはそういうことなのよ」
アロンザはデールを見下しながら告げた。
「だって……父上は真実の愛に生きたじゃないか! 好きな人を側室にして、仕事は正室に任せて、母上と遊んでばかりいて、全然仕事しなくて、それでも国王になれて……楽して暮らしていたじゃないか!」
デールは父親である現国王と己の人生を比べながら、「不公平だ」とぼやいた。
「ハインツ様は悪い前例を作ったわね。でもねデール、あなたは国王であるハインツ様とは違うの。
ハインツ様をお生みになった王太后陛下は公爵家の出身。つまり国王陛下には強力な後ろ盾があったの。だから国王陛下は一度公衆の面前で婚約破棄した相手を正室に迎え仕事だけさせて、身分の低い女を側室として迎え、公務を放り出して側室と遊んで暮らす…………という無茶が通ったのよ。
その代わり王太后陛下のご実家のエーダー公爵家は、無茶を通した代償を払ったわ。エーダー公爵家は貴族社会から爪弾きにされて、商売がうまくいかず、今や没落寸前よ」
王太后の実家のエーダー公爵家は、この十八年で急速に力を失った。事業に失敗し、借金を重ね、今や名ばかりの貴族となり、貴族社会から孤立している。
エーダー公爵家が孤立するように仕向けたのは、王妃の実家であるイルク公爵家なのだが。
「デールあなたの生みの親は誰? ミアさんのご実家のクッパー男爵家はあなたが幼い頃に没落しているのよ。あなたにはなんの後ろ盾もないの」
『もっとも、ミアさんは側妃ですらなくなったから今は平民なのですが』
「だったら王妃、あんたが俺の後ろ盾になってくれたらよかったんだ! あんたは俺の養母だろう!」
「そうよ! そうよ! アロンザ様は義理の息子のデールのことが可愛くないの!」
デールとミアがアロンザに向かって吠えた。
「無礼者! 王妃陛下に向かって何たる口の利き方! その者共を捕らえよ!」
レオナルドがデールとミアの態度に激怒し、衛兵にデールとミアを捕らえるように命じた。
あっと言う間にデールとミアは衛兵に捕らえられ、縄で縛り上げられた。
「デールが生まれたときに現国王陛下が勝手にあなたを私の養子にしたの。以来私はずっとデールの後ろ盾になることを強要されてきたわ。
高い給料を払い優秀な家庭教師を雇い、デールをまともな人間に育てようとしました。
国内でも有数の名家であるシフ侯爵家のご令嬢を婚約者にしてあげた。仕事もしないで側妃と遊んでばかりいるハインツ様や、男爵家出身のミアさんがいくら頭を下げても、シフ侯爵家との縁組なんてできなかったのよ。デールがスフィアと婚約できたのは王妃である私のおかげだったの。
それなのにデールはまったく感謝せず、厳しいことを言う家庭教師は勝手に解雇。男爵令嬢のペピンと浮気をし、大勢の前でスフィアに罵詈雑言を吐きスフィアとの婚約を破棄。
私がお膳立てしてあげたこと全て壊して、私に罵詈雑言を吐いて『お前なんか母親じゃない! 俺の母親は俺を生んでくれた母上だけだ!』と言ったのはどこのどなたかしら?」
「くっ、それはそうだけど……」
デールは苦渋の表現を浮かべた。
「昔から天使の顔も四度までって言うでしょう? どんなに温厚で忍耐強い人間でも、四度目には腹を立てるのですよ。
当時王太子だったハインツ様から、卒業パーティーで公衆の面前で婚約破棄され、恥をかかされ。
前国王陛下と王太后陛下から正室になり仕事だけするように言われ、プライドを傷つけられたわ。
現国王陛下とミアさんの息子であるデールを、私の養子にさせられ、デールの後ろ盾になることを強要される。
私はこれまでに三度、王室に煮え湯を飲まされてきましたわ」
アロンザは美しい指を折り、数を数えた。
「そして四度目がデールとスフィアの婚約破棄」
アロンザは四本目の指を折った。
「これ以上はデールの面倒を見られないわ、甘えるのも大概にしなさい」
デールはこのときになって始めて、自分が誰を怒らせ、何を失ったのかに気づいた。
☆☆☆☆☆
136
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
とある婚約破棄の事情
あかし瑞穂
恋愛
「そんな卑怯な女を王妃にする訳にはいかない。お前との婚約はこの場で破棄する!」
平民の女子生徒に嫌がらせをしたとして、婚約者のディラン王子から婚約破棄されたディーナ=ラインハルト伯爵令嬢。ここまでは、よくある婚約破棄だけど……?
悪役令嬢婚約破棄のちょっとした裏事情。
*小説家になろうでも公開しています。
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。
それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。
※全3話。
【完結】悪役令嬢は断罪後、物語の外で微笑む
あめとおと
恋愛
断罪され、国外追放となった悪役令嬢エレノア。
けれど彼女は、泣かなかった。
すべてを失ったはずのその瞬間、彼女を迎えに来たのは、
隣国最大商会の会頭であり、“共犯者”の青年だった。
これは、物語の舞台を降りた悪役令嬢が、
自由と恋、そして本当の幸せを手に入れるまでの、
ざまぁと甘さを少しだけ含んだショートショート。
婚約者をないがしろにする人はいりません
にいるず
恋愛
公爵令嬢ナリス・レリフォルは、侯爵子息であるカリロン・サクストンと婚約している。カリロンは社交界でも有名な美男子だ。それに引き換えナリスは平凡でとりえは高い身分だけ。カリロンは、社交界で浮名を流しまくっていたものの今では、唯一の女性を見つけたらしい。子爵令嬢のライザ・フュームだ。
ナリスは今日の王家主催のパーティーで決意した。婚約破棄することを。侯爵家でもないがしろにされ婚約者からも冷たい仕打ちしか受けない。もう我慢できない。今でもカリロンとライザは誰はばかることなくいっしょにいる。そのせいで自分は周りに格好の話題を提供して、今日の陰の主役になってしまったというのに。
そう思っていると、昔からの幼馴染であるこの国の次期国王となるジョイナス王子が、ナリスのもとにやってきた。どうやらダンスを一緒に踊ってくれるようだ。この好奇の視線から助けてくれるらしい。彼には隣国に婚約者がいる。昔は彼と婚約するものだと思っていたのに。
【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました
丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、
隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。
だが私は知っている。
原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、
私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。
優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。
私は転生者としての知識を武器に、
聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、
王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。
「婚約は……こちらから願い下げです」
土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。
私は新しい未来を選ぶ。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる