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二十四話「山賊の襲来」*

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兄上の舌がボクの口の中を動きまわる、歯列をなぞられ、舌を絡め取られた。

「ん……、ふっ、んん……」

角度を変え何度もキスされ、互いの唾液が混ざったものを飲まされた。

ボクは兄上の首に腕を回し兄上のキスに応えた。

兄上の指が服越しにボクの胸の突起に触れる。

今までも、時折兄上の指がボクの胸の突起に触れることがあった。でもそれは軽く触れるもので、指はすぐに離れた。

でも今は兄上の指が、ボクの胸の突起に触れている。服の上から執拗(しつよう)になでられ、胸の突起が立ち上がってしまう。

兄上に胸の突起をつままれ、

「ぁっ、んっ……」

声が漏れてしまう。

ボクの胸の突起などに触れて、兄上は何が楽しいのだろう?

兄上は生まれてすぐに母親を亡くしたから寂しいのかな?

母親のおっぱいが恋しくて、その代用にボクの胸をつまんでいるのかな?

兄上って案外と子供っぽいんだな。そう思ったら、ちょっとだけ兄上が可愛く思えた。

馬車がぐらりと揺れ傾いたまま停車した。

何かあったのかな?

「んっ……」

唇を離すと兄上とボクの間を銀の糸が引く。

「ヴォルフリック様、エアネスト様、大変です!」

ハンクがいつになく落ち着きのない声で、ドアを強くたたいた。

「何事だ?」

ヴォルフリック兄上がハンクに尋ねる。

「山賊です! 二十人はいます! やつら道に穴を掘り、馬車を動けないようにして、襲撃してきました!」

ヴォルフリック兄上がバスタードソードに手をかける。

せっかく兄上といい雰囲気で キスしていたのに、間の悪い山賊だ。

などと悠長な事を考えている場合ではない! 山賊の襲撃!?

この馬車が豪華だから狙われたのかな? 王宮で使っている馬車なので、王都ならともかく地方では目立ったのだろう。

お金を全部あげれば助けてもらえるだろうか? いやだめだ、これはシュタイン侯爵領で暮らす民のために遣おうとお城から持ってきたお金だ。

エアネストはクリスマスや誕生日に家族や親戚からもらった宝石や金貨などを、ためていた。

王子様だったし、欲しいものは父上や母上が買ってくれたからお金の使い道がなかったのだ。

シュタイン領は北に位置するため冬が長く作物が育ちにくく、王都に比べて貧しい地域なのだ。

シュタイン領の民のために使うお金を、山賊にやるわけにはいかない。

だけど、ヴォルフリック兄上とハンクは巻き込めない。

「ボクが囮(おとり)になります! ヴォルフリック兄上はハンクと一緒に貴重品を持って逃げてください!」

ヴォルフリック兄上とハンクは、ボクの侯爵領行きに巻き込まれた。ボクが守らなければ。

光魔法が使えないボクでも、囮ぐらいにならなれるはずだ。

「馬鹿を言うな! お前は馬車の中にいろ! 私が行って山賊を片付ける!」

「一人では危険です兄上! ボクも一緒に戦います!」

ボクも一応王族として剣術の稽古は受けた。

兄上のようにバスタードソードは扱えないけど、護身用のロングソードなら持っている。 

「エアネスト、お前がいたのでは足手まといだ」

兄上にはっきり言われてしまった。

確かに多数の山賊相手にボクの剣術は役に立たないだろう。光魔法が使えない今のボクは、兄上の足手まといにしかならない。

「兄としてお前を守らせろ」

しょげるボクの頭を兄上がやさしい手付きで、なでてくださる。

「分かりました、でも無理をしないでくださいね」

兄上がふわりと笑う。

「エアネストが百数えるまでには終わらせる。百数え終わるまで、目を閉じ耳を塞いでいろ」

「はい」

ヴォルフリック兄上は馬車を飛び出していった。

ボクはヴォルフリック兄上に言われた通り、目を閉じ耳を塞ぎ、数を数えた。

ヴォルフリック兄上ご無事だろうか?

ゲームのヴォルフリックは、闇魔法とバスタードソードの使い手でとても強かった。

今は闇魔法を使えないけど、剣術の腕は立つと思う。髪が黒くなる前の兄上は水魔法と風魔法が使えた、髪の色が元に戻った今、もしかしたら水魔法と風魔法が使えるようになっているかも?

心配はないと思うけど不安で胸がドキドキする。兄上、ご無事でいてください!

「九十八、九十九、百……」

そっと目を開け、耳をそばだてる。

「ヴォルフリック兄上……?」

小さな声で呼びかけると馬車の扉が開いた。

ロングソードを手に、ドアを開けた人物を見据える。

ドアを開けたのは御者のハンクだった。

「ハンク無事でよかった、ヴォルフリック兄上は?」

ハンクはシワの多い顔を、さらにくしゃくしゃにしてにこりと笑う。

「ご安心ください、エアネスト様。ヴォルフリック様はご無事ですよ。いや~~、ヴォルフリック様はお強いですね! あっという間に二十人はいた山賊を蹴散らしてしまわれた!」

ハンクが興奮した様子で話す。

ボクはハンクの話を聞き、馬車を飛び出した。

「ヴォルフリック兄上!」

山賊達は風魔法で一掃されたようだ。

木々がなぎ倒されて、山賊たちが草の上に転がっていた。どうやら全員気を失っているようだ。

山賊たちが倒れている中心にヴォルフリック兄上がいた。

ヴォルフリック兄上がバスタードソードを鞘におさめる。

ボクはヴォルフリック兄上の元に駆け寄る。

「エアネスト、馬車からおりるな!」

「ごめんなさい、でも兄上が心配だったのです」

しゅんとうなだれると兄上が頭を撫でてくれた。

「これぐらいの人数なら、私ひとりで対処できる」

兄上がほほ笑む。兄上のやさしい笑顔を見て、ボクの頭が兄上が無事だと理解した。

ハンクに聞かされ、兄上の姿を見ても不安だったのだ。

「兄上、お怪我はありませんか?」

「問題ない」

「よかった」

ボクはヴォルフリック兄上に抱きつき、兄上の胸に顔を埋めた。

「どうした、エアネスト?」

兄上の穏やかな声が、頭上から聞こえる。

「兄上が無事で、本当によかった」

兄上が怪我をしたら大変だもの。

「すまない、心配をかけた」

兄上の腕がボクの背にまわる。ボクたちはしばらく抱き合っていた。

ボクと兄上が抱き合ってる間に、ハンクが山賊たちに縄をかけていた。

ハンクはおじいちゃんだけど、とても力持ちで抜け目がない性格のようだ。

「縄をかけ街道に放置していきましょう。次の街に着いたらに街の自警団に連絡しましょう」

山賊をここに放置すると、山賊の仲間が助けに来て、山賊に逃げられてしまうことも考えられる。

しかし馬車には山賊を二十人も乗せるスペースはない。よって放置するしかないのだ。

「王都から離れ道も悪くなってまいりました。これからどんどん道が悪くなり、山賊が襲ってくる可能性も増えます。ヴォルフリック様も、エアネスト様もどうか油断なされませんように」

ハンクの言葉に胸がどきりとした。

ここはもう王都ではない、今までは王都が近いから治安が良かった。

これから向かうシュタイン侯爵領は、エーデルシュタイン国で一番貧しい土地。

豪華な馬車を護衛もつけずに走らせていたら、襲われても文句は言えない。鴨がねぎを背負って歩いているようなものだ。気を引き締めなくては。

兄上が力(クラフト)の魔法をハンクにかける。

力(クラフト)の魔法の補助を受けたハンクが、山賊が掘った穴にはまった馬車を軽々と持ち上げ、車輪を穴から出した。

兄上もハンクもすごいな。ボクももう少し、兄上やハンクの役に立ちたい。

ハンクは御者席に戻り、ボクと兄上は客室に戻った。

「エアネスト、ハンクの話を聞いたな? これから先は治安が悪くなる。だから……」

「分かっています、兄上」

兄上と客席でいちゃいちゃしていたら、山賊が急に襲ってきても対応できない。

それにこれから道が悪くなるから、馬車が揺れて、キスしていたら歯がぶつかって危ない。

「もう抱きしめてくださいとか、キスしてくださいとか言いません」

ボクの言葉を聞いたヴォルフリック兄上が、ほっとしたような顔をされた。

「でも……」

兄上の手にボクの手を重ねる。兄上の手は大きくて、指が長くて、肌が白く、あたたかかった。

「だからせめて兄上の手を握っていたいのですが、だめですか?」

少しでも兄上の体温を感じていたい。

兄上は「はぁ……」と息をはき、ボクが握っていない方の手で額を押さえた。

「手をつなぐだけだ、あとは我慢しろ」

そういったヴォルフリック兄上のお顔は、少し赤かった。

「はい、ありがとうございますヴォルフリック兄上」

ボクは兄上に抱きつきたい衝動を必死で抑え、兄上の手をキュッと握りしめた。


◇◇◇◇◇
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