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二章・10話「エステン国の二人の王子様 1」フィリップ視点
しおりを挟む塔を出て、深く息をはく。
なかなか計画通りには進まない。
まさか陛下と母上が、男との結婚を許可なさるとは思わなかった。
エステン国では、婚姻前の性行為も、男同士の結婚も、公(おおやけ)には認められていない。
無論わずかな数はいる。地方貴族の中には、見目のよい若い男を愛人にする者もいる。
平民の中には、体の相性も大事だと言って婚前に性行為をする者もいる。
だが王子ともなれば話は別だ。
王子は民の見本とならなければならない。
その民の見本となる王子がしかも王太子が、婚前に性行為をし、正室に男を迎えるなど前代未聞(ぜんだいみもん)だ。
教会や、官僚、民からの反発は目に見えている。
それでも、ボクとシンデレラの結婚を許可するというのか?
ボクに王位を継がせるというのか?
陛下も母上もどうかしている。
ボクの王位継承権など剥奪(はくだつ)し、弟(ルイス)を王太子にすればいいものを。
それほどまでに、お二人のウィリアム叔父上への罪悪感は深いのですか?
それと、シンデレラが私に愛されていないと感じていたのは意外だった。
ボクが愛してもいない者と、しかも男と身体を結ぶと思っていたのだろうか?
ボクに体を許しながら、ボクの愛を感じていなかったと?
好きでもない男の家を、王子が自ら訪ね、求婚したと本気で思っているのだろうか?
好かれたいとは思っていなかったが、まさかこちら側の好意がこれほどまでに、伝わっていなかったとは。
シンデレラが好きだった。舞踏会で一目見たときから、心の中の全部を持っていかれるほどに。
王位を捨てて共に生きたいと思えるくらい、愛している。
シンデレラの拗(す)ねた横顔も、怒った上目遣いの顔も、ボーイソプラノの声も、みな好きだ。
シンデレラは困った顔と、怒った顔が特に可愛い。
その顔が見たくて、少々いじわるしすぎてしまった。
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