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二章・13話「エステン国の二人の王子様 4」フィリップ視点
しおりを挟むカールが部屋を出て行った数分後、ルイスが訪ねてきた。
トントントントンと四回ノックがあり、「ルイスです、兄上開けてください」と声が聞こえた。
扉を開けると、ルイスが沈んだ顔で立っていた。
「入れ」
ルイスを招き入れ、扉を締める。
「先ほどはすみませんでした、人目のあるところであのように取り乱してしまい……」
弟がショボーンとした顔であやまる。
ルイスはシンデレラに平手打ちし、罵倒し、剣の柄(つか)に手をかけた。
本当はもっと叱(しか)りたいところだが、ボクは弟に甘い。
愛くるしい顔で涙ぐまれると、大概(たいがい)のことは許してしまう。
「もういい、気にするな」
弟の頭をよしよしとなでると、たちまち上機嫌になる。
扱いやすい。シンデレラも弟の半分でもボクになついて……いや心を開いてくれたら。
「それより話があるのだろ?」
ボクがソファーに座ると、ルイスがボクのすぐ隣に腰をかけた。
距離が近い、まあいつものことだが。
「あの……」
弟が顔を赤らめ、もじもじする。
「どうした?」
「兄上……!」
急に弟に抱きつかれた。
ルイスは、今年で十八歳になる。いまだに幼な子のように、ボクに抱きついてくることがある。
ギュッとボクに抱きつき、ボクの肩に顔を埋める。
「ルイス……?」
玉座の間で強く叱(しか)りすぎただろうか?
あのときはシンデレラを罵倒(ばとう)され、ボクも頭に血が上っていた。
ルイスをどうやってなぐさめようかと思案していると、不意に唇をうばわれた。
ルイスの体をつかみ、距離をとる。
「ルイス! なんのまねだ!」
エステン国に兄弟でキスする習慣はない。
ルイスが瞳をうるうるさせ、ボクを見上げる。
「兄上……僕を抱いてください!」
「はっ?」
一瞬、ルイスが何を言ったのか理解できなかった。
弟が、ボクを慕っていたのは知っている。
だかそれは、尊敬の念だと思っていた。
どうしてそれが、キスからの「抱いてください」になるんだ??
「いままでボクは男同士だから、兄弟だからと、兄上への思いを圧し殺してきました。ですが兄上が花嫁候補に選んだ、シンデレラという者も男です。兄上が男色なら話は別です。生理的な欲求なのでしょう? あの者の見目(みめ)がよく、女にしか見えないから抱いたのでしょう? 僕も見目の良さならあの者に負けていません。兄上が望むなら女装だってします! 性的な衝動がおさえられなくなったときは、あの者ではなく、僕を抱いてください! 僕はどんなプレイでも受け入れます! 一晩中だってお付き合いしますから!」
弟は頬を赤らめ、目をうるうるさせ、抱きついてきた。
たしかにルイスは可愛い。女顔だし、華奢(きゃしゃ)だし、女装をさせたら絶対に似合うだろう。
だが、どうしてそうなる?
ボクが性衝動だけで、愛してもいない男を抱いていると思っているのか?
あり得ない。ボクはそこまで卑劣でも、野獣でもない。
いくら顔が綺麗だからと弟に惚(ほ)れたりしない! 弟を抱くなど論外だ!
首にまとわりつく、ルイスの腕をとき、体をはなす。
「兄上……!」
弟に冷ややかな視線を向ける。
「いいかよく聞け、ボクは兄でおまえは弟だ! ボクは男色だが弟のおまえを性的な対象として見たことは一度もないし、恋愛対象として好きになることは絶対にない!!」
吐き捨てるように言い、冷淡な眼差しを向ける。
弟はひどくショックを受けたようで、つらそうな顔で瞳に涙を浮かべていた。
「話しはそれだけか? なら部屋からでていけ」
いまにも泣きだしそうな弟を、部屋から追いだす。
しばらく扉をたたく音とともに「兄上! すみませんでした! 兄上、開けてください!」という声が聞こえていたが、やがて静かになった。
まさかルイスが私に惚れていたとは。
妙になつかれているとは思っていた。だがそれが兄弟愛を超えた恋愛感情だったとは、夢にも思わなかった。
ボクの変わりに王位を継いでもらうルイスが男色で、しかもボクに惚れていたとは、やっかいなことになった。
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