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二章・14話「塔でのスローライフ、毒殺と王子様と間接キスと 1」シンデレラ視点
しおりを挟むあらためて部屋の中を見回す。
女性向けの可愛らしい部屋だ。
だが武器になりそうなものはない。
あるとすれば、イスぐらいか。
この部屋にいたら、フィリップ王子にまた犯される。
そしてフィリップ王子をたぶらかした罪で、ブラコンのルイス王子に断罪されて死刑にされる。
逃げよう!
プランは二つ! プランA、フィリップが部屋に入ってきたところをイスで殴り、フィリップの服を奪い逃走する。
問題は、迷路のように入り組んだこの城から、迷わずに逃げられるかってとこだな。
服を奪うのは、ドレスで城内を歩くより、目立たないと思ったからだ。
魔法使いの出したパーティー用のドレスは、ひらひらし過ぎていて妙に目立つ。
クローゼットの中もチェックしたが。舞踏会で着るような、華美(かび)なデザインのドレスばかりだった。
フィリップ王子の服を奪うのは、いやみな王子様をパンツ一枚にして部屋に放置してやりたいという、オレのうさ晴らしも兼ねている。
そしてプランB、フィリップ王子をイスで殴り、剣を奪う。フィリップ王子を人質に取り、城から脱出する。
フィリップ王子に道案内をさせれば、迷わずに城から出られる。
問題はフィリップに抵抗されたら終わりだってこと。
華奢なシンデレラの身体では、フィリップ王子に敵わない。
フィリップは王子様だ、護身術の一つや二つ習っているだろう。
それにあいつが正しい道を教えるとも、限らない。
兵士の宿舎とかに案内されたら、王子と兵士による、輪姦エンドに早変わりだ。
いっそのこと海に飛びこもうか? 渡り廊下の高さは推定ニ十メートル。飛びこむのには勇気がいる。それに浅瀬だったら頭を打つかもしれない。
前世のオレはカナヅチだった。現世では泳いだこともない。
やはり海に飛び込んで逃げるのは無理か。
どちらにしても、監禁凌辱(かんきんりょうじょく)エンド、あるいは断罪されて死罪、もしくは流刑になるエンドは避(さ)けたい。
とりあえず、フィリップ王子をイスで殴り倒し外に出るのは決定だ。
イスを持ち上げようとするが、猫足のイスは思いのほか重く、持ち上がらない。
シンデレラの力では、床から数センチ浮かすのがやっとだった。
くっそぅ~~! イスを頭より高く持ち上げ、扉の陰に隠れ、フィリップ王子が部屋に入ってきたところを奇襲し、ガツンと殴る予定だったのに……!
こうなったら、最後の手段。
この手だけは使いたくなかったが、プランC!
色仕掛(いろじかけ)けだ! フィリップ王子をベッドに誘い、あいつと一回ヤる。眠ってるあいつから剣を奪い、首もとに剣をつきつけ、人質にする!
フィリップ王子に全裸で城の中を歩かせてやる!
ああでもフィリップ王子が拘束プレイが好きで、オレが両手を縛られベッドにくくりつけられていたら、それもできないんだよな。
フィリップ王子が絶倫(ぜつりん)だったら、一晩中尻を掘られてヘロヘロで。それどころじゃないだろうし。
色仕掛けは諸刃(もろは)の剣だな。
やはり王子の頭をイスで殴ろう!
「くぅぅ……! なんで持ち上がらないんだよ!」
王族の使うイスをなめていた、重すぎる!
「これでフィリップ王子の頭をガツンと……!」
「ボクをどうするって?」
「ひゃぁっ!?」
突然後ろから声をかけられ、イスを落としてしまう。
五センチほど持ち上がっていたイスが、ドンと音をたて床に落ちた。
足を挟まなくてよかった。
「何をしていた?」
ふり返ると、フィリップ王子がいやみな笑みを浮かべ立っていた。
オレは反射的に王子から距離をとる。
「べっ、別に、いいイスだなぁと思って眺めていただけだ」
「ふーん」
フィリップ王子が、含みのある笑みを浮かべる。
「ボクはてっきりそのイスを使ってボクを殴り、そのすきに逃走しようと計画しているのかと思ったよ」
バレてる。
「もしくはハニートラップをしかけ、ボクが眠ってるすきに逃げ出そうとか」
そっちもバレてる。
「ボクとしてはイスで殴られるより、ハニートラップの方がいいけどね」
フィリップがくすりと笑う。
「ふざけんな! おまえにハニートラップをしかけるくらいなら、舌をかんで死んだ方がましだ!」
「どちらにしても、バカな考えはやめておくんだな。塔の外には兵士が待機している。ここから逃げたとしても兵士に捕まるのがオチだ」
「くっ……!」
フィリップ王子に監禁凌辱されるエンドから、兵士に輪姦されるエンドに変わるだけだってことか……。
「つうか、何しに来たんだよ!」
オレはフィリップ王子を、キッとにらみつける。
犯しに来たのか?
逃げられないように、手足を鎖でつなぎにきたのか?
「そうおびえるな、食事を持ってきただけだ」
「えっ……?」
王子の後ろを見ると、食事を乗せたカートがあった。
オレのおなかがぐ~きゅるるると音を立てる。
それを聞いたフィリップ王子が、くすくすと笑う。
そう言えば、昨日の夜から何も食べていなかった。
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