転生したらシンデレラ♂でした、舞踏会なんか行きたくないので家出することにします・ドS王子に初めてを奪われちゃう~~!BL・完結

まほりろ

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二章・15話「塔でのスローライフ、毒殺と王子様と間接キスと 2」シンデレラ視点

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「食べろ」

「くっ、食えるか……!」

豪華な食事が並んだテーブル。

オレの隣の席に座るフィリップ王子。

王子から差し出される、使用済みのスプーン。

ぐ~ぐ~と鳴るオレのおなか。

テーブルの上にはスープやパン、サラダや果物、ステーキなどが並んでいる。

フルーツの甘い匂いや、ステーキの香ばしい匂いが、オレの鼻をくすぐる。

だけど問題がひとつ、スプーンとフォークとナイフが一セットしかないってどういうこと?

二人で食事をするのに、スープや肉も一皿しかない。

王子がスープを一口飲み。王子が同じスプーンでスープをすくい、「食べろ」とうながす。

「はい、あーん」というやつだ。

「はい、あーん」っていうのは、母親が小さな子供にすることだろ? 

もしくはラブラブな恋人同士や、新婚の夫婦がすることだ。

なんでオレが王子の使用済みのスプーンで、「はい、あーん」で食べさせてもらわなければいけないんだ?

「腹が空いてないのか?」

「空いてるよ」

さっきからうるさいくらい、おなかの虫が鳴いてるよ。

父親が亡くなってからずっと、残り物しか食べさせてもらえなかった。

こんなにご馳走(ちそう)が並んだテーブルに座るのは、数年ぶりだ。

「なら食べろ」

フィリップ王子が、スープをすくいなおし、スプーンをオレに近づける。

「なんでおまえと同じスプーンを使って、おまえと同じ皿のスープを、しかも『はい、あーん』で食べさせてもらわなくちゃいけないんだ!」

介護かよ! なんの嫌がらせだよ!

「そのことか」

フィリップ王子が、無表情で説明を始めた。

能面のような表情で、何を考えているのか読みとりにくい。

「おまえは、死にたいのか?」

「はぁ? なんだよいきなり、死にたくないに決まってるだろ!」

自分の手から食べなければ餓死(がし)しろってことか?

犯されて、拉致(らち)されて、監禁(かんきん)されて、餓死(がし)するとか……最悪だろ! 

「なら、この食べ方で我慢しろ」

「嫌だ」

ツンと、そっぽをむく。

シンデレラちゃんをなめるなよ。

継母にいじわるされて、ご飯を食べさせてもらえないことなんか、しょっちゅうだったんだ。

空腹に耐えることにはなれてる。

王子がため息をつく。

「食事に毒をもられたことはあるか?」

「ないけど……」

空腹に耐えかねて、腐りかけたご飯を食べたことなら何度かある。

シンデレラちゃんは見かけによらず頑丈(がんじょう)なので、おなかを壊さなかった。

「おまえはいま、危うい立場にいる」

予想はしていた。

「陛下と母上は結婚に賛同してくださったが、結婚に反対しているものも多い」

「そうだろうな」

第一王子が花嫁候補に連れてきたのが、落ちぶれた貴族の子供で、しかも男。

その王子様は王位継承権を剥奪(はくだつ)されても、オレと結婚するとかほざいている。

オレが第一王子派の貴族なら、「ふざけるな!」って激怒する。

王位継承権を簡単に放棄(ほうき)する、フィリップ王子にも腹が立つが。

怒りの矛先(ほこさき)はフィリップ王子をそそのかし、王位継承権を捨てさせようとしている悪女(悪男)、シンデレラに向くだろう。

フィリップ王子を王位に就かせるために、邪魔なシンデレラを……。

考えただけでゾッとする。

あと超絶ブラコンで、お兄ちゃん大好きっ子のルイス王子にとってもオレは邪魔な存在だろう。

そっちはオレを殺すまではしないと思うが……。

「反対派の中には、おまえの毒殺を企てているものもいる」

「……まじか」

無理やり連れてこられた上に、毒殺されるエンドなんて嫌だ!

だけど他人から見たら、王子を誘惑し正室の座につこうとしてる悪女(悪男)なわけで……。

そのくせ「王子に無理やり犯された」と、「拉致された」と玉座の間で騒ぎたて、被害者をよそおうとしている腹黒いやつなわけで。

オレがこの城の臣下や使用人だったら、「なんだこいつ?」ってなる。

フィリップ王子がオレ以外の人にやさしくて、聡明で優秀な王子様で通ってるならなおのこと。

「ようやく、自分が置かれた状況を理解したようだな」

オレはちょっと泣きそうだった。

状況に流されて城に来ただけなのに。あったことをありのままに話しただけなのに。毒殺されるほど恨まれていたなんて……!

いじわるな継母や義理の姉たちでさえ、オレを毒殺しようとはしなかったぞ。

「だからボクと同じ食器を使用し、同じ器から食事をとる必要があるんだ」

「えっ……?」

「ボクがおまえと同じ器から食事をとっていれば、おまえだけを毒殺することはできない」

「たしかに……」

食事に毒を盛ったら、オレだけでなくフィリップ王子も死んでしまう。

フィリップ王子派の人間にとって、それは大きな損失だ。

「同じ器から食事をとる理由は分かったけど、同じスプーンを使う必要があるのか?」

間接キスだ。

フィリップ王子とは、それ以上のことをしている(というか無理やりされた)から今さらだが、すごく嫌だ。

フィリップ王子が肩をすくめる。

「食べ物ではなく、スプーンやフォークに毒を塗られていたら?」

「うっ……!」

それは痛いな。

「でもどっちがどっちのスプーンやフォークを使うかなんて、毒を盛ったやつには分からないんじゃ……?」

「念には念をいれるのがボクの主義だ」

結局おまえは、「はい、あーん」をしたいだけだろ?

「ボクは、今日からおまえと同じ器からしか食事はもとより水もとらない」

フィリップ王子がいつになく真摯(しんし)な表情で言った。

心臓がドキンと音を立てる。

「……えっ? だってそんなことして万が一食事に毒が入っていたら……」

「そうだな、そのときは君と一緒に死んでやる」

フィリップ王子に真剣な眼差しを向けられ、心臓がトクンと音を立てた。

「なっ、なにいってんだよ……!?」

オレのことなんか好きじゃないくせに。

オレのことをただ弄(もてあそ)んでるだけのくせに……。

なんでオレと一緒に死ぬとか、平然と言えるんだよ。

「ボクと同じ食器を使用するなど、君にとっては不本意だろう。だが命には変えられない。だから我慢(がまん)して食べろ」

王子がスープの入ったスプーンを、近づけてくる。

「それに空腹だと、いざというとき逃げられないぞ。君はここから逃げだしたいんだろ?」

オレは絶対にここを逃げ出す。フィリップ王子と結婚するのも、毒殺されるのも、断罪されて処刑されるのもごめんだ!

だけど家には帰れないし、金もない。

いざというときは体だけが頼りだ。空腹じゃここぞというとき逃げられない。

「びっ、媚薬(びやく)とか入ってないよな……?」

念のために聞いておこう。食べてエッチな気分になって、王子とヤってしまったらしゃれにならない。

フィリップ王子が一瞬きょとんとした顔をした、だがすぐにいつものクールな顔に戻り。

「ふっ、そうだなそれは考えつかなかった。君が望むなら次からは入れてこようか?」

からかうように笑った。

「入れるな!」

墓穴を掘ってしまった。

「心配しなくても、これには媚薬は入ってない。これからも入れない」

「分かった、食うよ」

王子の言葉を信じたわけじゃない。だけど食べなければ死んでしまう。

これは生きるためだ。生きるために今は耐えるんだ。

オレは観念(かんねん)して、差し出されたスプーンに口をつけた。

スープが口の中に広がる。まろやかでそれでいてコクがあり……おいしい。

話してる間に少し冷めてしまったが、冷めても絶品だ!

空腹だったせいもあるが、いままでの人生の中で三本の指に入るうまさだった。

ちなみに一番は、前世の母親が作ってくれたシチューで、二番目はシンデレラちゃんの実母が生きてた時に作ってくれたアップルパイ。

王宮だけあって、いい食材を使っている。

そういえば残り物じゃないまともなご飯を食べたのは、数年ぶりだ。

基本的にシンデレラのご飯は、継母や義理の姉の残り物だった。

父親の死後、使用人には暇をだした。使用人を雇う余裕がなくなったからだ。

それからは屋敷の家事を、シンデレラが一人でこなしてきた。

だから誰かにご飯を作ってもらったのも、自分のために作られたご飯を食べるのも、すごく久しぶりだ。

「ほら、もっと食べろ」

王子がスプーンでスープをすくい、オレの口に近づける。

一口目を食べたら、いろいろとふっ切れた。

食べなきゃ死ぬ。

これはラブラブな恋人同士がする「はい、あーん」ではない。王子は単なる毒味役だ。ご飯を食べさせてくれる機械だ。

そう割りきって、食べることにした。

いまは食べて体力をつける。

いつかすきをついて、絶対に逃げだしてやる!


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