転生したらシンデレラ♂でした、舞踏会なんか行きたくないので家出することにします・ドS王子に初めてを奪われちゃう~~!BL・完結

まほりろ

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二章・27話「さよならエステン国、さよならフィリップ王子、アップルパイの半分はやさしさと嘘で出来ている 1」ルイス視点

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―シンデレラが塔に幽閉され十日目、夜――



「兄上、お話があります」

「ルイスか、なんのようだ?」

兄上を部屋の前で待ち伏せた。

兄上は、またあの男の部屋に行っていたのだろう。

あの男の部屋から帰ってきた兄上の表情は、普段よりも穏やかで、それが余計に僕の癇(かん)にさわる。

シンデレラが城に来る前、兄上が穏やかな表情をされるのは、僕の前だけだったのに。

兄上の愛情は僕が独占していたのに……!

兄上が僕に向ける愛情が、家族愛だということは分かってる。

あのあと兄上に何度迫っても、兄上は僕を抱いてくださらなかった。

なぜ僕じゃだめなのですか……兄上!

城内で兄上はシンデレラという男に夢中で、毎日情を交わしていると噂が流れている。

シンデレラと同じ食器を使い、同じ器の物を食べているとか。

今の兄上は、聡明で誰からも時期国王にふさわしいと称賛(しょうさん)された、かつての兄上ではない。

シンデレラにたぶらかされ、情勢の見えなくなった腑抜(ふぬ)けだ。

兄上を乏(とぼ)しめる声や、兄上から王位継承権を剥奪(はくだつ)せよ、という声が後を立たない。

このままだと兄上は本当に……。

「ここではちょっと……」

廊下でできる話ではない。

「ではボクの部屋で話そう」

兄上が鍵を開け、部屋の中に通してくださった。

「手短に話せ、ボクは少年少女失踪事件の捜査で忙しい」

兄上は仕事用の机に座り、書類に目を通していた。

ボクは机をたたき、兄上に詰め寄る。

「仕事をしている場合ですか? 兄上がいま城内でなんと噂(うわさ)されているかご承知ですか?」

兄上がピクンと眉を動かし、書類に向けていた視線を僕に向ける。

「知っている、男にうつつをぬかし王太子としてのつとめを放棄(ほうき)したバカ王子、だろ?」

兄上は能面のように無表情で、淡々と答えた。

僕はぎりりと奥歯をかむ。

知っていてなぜあの男に執着するのか、僕には分からない。

「城内のものだけではありません! 教会の連中や民にいたるまで、みな口を開けば兄上の悪口を言っております!」

「だろうな」

「悠長に構えている場合ですか? いますぐにあの男、シンデレラを切り捨ててください! そうすれば兄上だけは助かります!」

真っすぐに兄上を見つめる。

「ルイス」

兄上がいつになく真剣な顔で、僕を見ていた。

それだけで、僕の心臓がドキドキと音をたてる。

いまは兄上のかっこよさにときめいている場合ではない。だが兄上に真摯(しんし)な眼差しを向けられると、心臓がバクバクしてしまう。

僕はのど元まで出かかった『抱いてください』という言葉を、のみ込んだ。

「ボクは、シンデレラを切り捨てるつもりはないよ」

「兄上!」

「話が終わったのなら帰ってくれ、ボクは忙しい」

そのあと僕が何を言っても、兄上は耳を傾けてはくださらなかった。

僕はあきらめて、机から手をはなす。

「兄上、最後にひとつだけいいですか?」

「なんだ?」

兄上が書類から目をはなさずに答える。

「兄上はあの男を、シンデレラを……愛しているのですか?」

兄上の体が、ピクリと震える。

僕の目を真っすぐに見て兄上が答えた。

「愛しているよ、もっとも本人は信じてくれないけどね」

そう言った兄上の笑顔はとてもやさしくて、どことなく寂しげだった。

「そう……ですか」

僕は踵(きびす)を返し、兄上の部屋をあとにした。

僕がシンデレラを殺しても、兄上は僕を愛してはくださらないだろう。

それでも僕は、兄上を籠絡(ろうらく)し、兄上の愛を独占し、兄上の名誉を傷つけた、シンデレラが憎い。

殺してしまいたいほどに……!

でもダメだ。

僕がシンデレラを殺したら、兄上は僕を許してくださらない。

兄上は僕を憎み蔑(さげす)み、言葉を交わすことも、目を合わせることも、しなくなるだろう。

そんなのは耐えられない。



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