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第三章 秋の段
第49話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達に飲み会に誘われた件・その3
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「ぷはっ、うめぇ。お前、飲まねーのかよ?」
「あ、その……種狛さん、本当に大丈夫でしょうか。あれから30分以上経ちますけど……」
なんとなく主役不在で進めることに後ろめたさを感じた私は、そわそわと辺りを見渡した。
御影さんが頬杖をつきながら呆れた顔でこちらを見ている。
「毎回こんなだぞ、アイツ。待ってたらキリねーし、さっさと注文を……」
ちょうどそこへ、種狛さんがげっそりした様子でこちらに戻ってくるのが見えた。耳がボサボサになっており、いかに凄惨な現場だったかを想像させられた。
「悪い、やっと解放された……」
「いつもより大分巻けたじゃねぇか。何食うんだか早くしてくれ」
「お疲れ様です、種狛さん」
「……ああ」
「こいつ、わざわざお前が来るまで飲まないで待ってたんだから、奢ってやれば?」
種狛さんが耳をピクッと動かした後、微動だにしない。
「私が勝手にやった事なので、大丈夫ですから。
今夜のメインは種狛さんだと思うので」
私がアッサリ辞退すると、種狛さんも続けて御影さんに文句を言った。
「そうだよ。何でおれが伊縄城に奢るんだ。別に、待たなくても気にしないっつの……」
《クルル…》
「!!」
「種狛。お前、ガキじゃねーんだから、ちったぁ制御しろよ。感情」
「っ、……これはっ! 知らねえよ!
勝手に鳴っちまうんだからしょうがねーだろっ!」
今のは、猫が喉をゴロゴロ鳴らした時の音みたいなものだろうか。相変わらず素直じゃないが、多分、種狛さんは嬉しかったのだ。
そう、解釈することにした。
* * *
「つーかよ。マジメな話。なんかあったのか? ここ最近、からっきしテンション低いじゃん」
お酒が進み、夜も更けてきた頃。
御影さんから急に話を振られた私は、一瞬固まった。
「うっ……えと、そう、見えますか? 私」
「めちゃくそ見えっけど。なぁ? 種狛、言ってやれよ。お前コイツの事色々詳しいんだろ」
「!?」
(ど、どういう事……?)
「んんー…………そうだぜ……伊縄城、正直に話してみろよ。おれらに隠し事はナシだ! 同じ委員会だった仲だろ~」
普段なら絶対言わないようなセリフだ。
同じキャラかと顔を見ると、目が据わっている。
完全にデキ上がっていた。
種狛さんの十八番であるツンケンした態度は微塵も感じさせず、いつの間にか肩が触れ合いそうな距離に来ている。
果てしなく近い。
とろんとした熱っぽい視線を向けられ、慌てて顔を逸らした。
「かっ、隠し事って……」
「ははーん。アレだろ? 恋愛系だな」
「!!」
御影さんに図星を突かれ、顔が瞬間沸騰する。
こういう時、自分の嘘の付けなさに改めて嫌気が差した。
「恋愛!? 伊縄城、おまえ……っ、好きな奴、いるのか?」
種狛さんにもストレートに質問され、いよいよこのイケメンコンビは私に何を話させようとしているのか理解不能だった。
「お前も呑気そうに見えてやる事やってんのな。誰だよ、お相手は」
「いないですってば! 相手、なんて……そもそも」
矢継ぎ早に聞かれ、拉致があかない。
深いため息を吐き、渋々答えた。
「……こ、″コンカツ″が、…………その。
上手くいかなくて……」
「あ? なんか、歓迎会で口走ってたヤツだよな。意味が全くわからんが」
「うぅ……絶っっっっ対、ひかないでくださいね」
「もったいぶんなよ! 早く聞かせろ!」
私は、自分の身の上をつっかえながら簡単に説明した。
* * *
「ふーん。つまり、あと約半年で結婚したいけど、男と付き合うことすら出来てないと」
「そんなバッサリ言わないでください! あぁ~もう……」
合わす顔がなくなり、テーブルに突っ伏す。
こんな話、出来ればしたくなかった。
でも、誰かに聞いてもらいたいのも事実である。
聞かされたところで彼等にはどうする事も出来ないので、良い迷惑だと思うが。
そんな事も言ってられない精神状態の自分が醜い。
ぽん、と肩に手を置かれた。
どちらの手か分からないが、温かさに涙が出てきた。
「伊縄城は……そこまで焦らなくて良いと思う。身近に、い、言わないだけで、……っ、気になってる奴、いるんじゃないのか」
「え……」
種狛さんだ。
顔が見えないのは残念だが、情けなさ過ぎて結局このままで良かったと思った。
こんな慰め方をしてくれるなんて……酔ってるからだろう。
優しい気遣いに救われる想いだった。
「……だとよ。まぁ、あんま思い詰めんなよ。良いじゃねぇか、マイペースで。俺はやだけどね。脇目も振らずに男にガツガツ来る女は」
「だーれのことかな~~?」
顔を上げると、片手に腰を当てて料理を携えたみつはさんがやってきた。
「ご注文の串焼きお待ち~☆ ヒトのウワサなんかしちゃってカンジ悪いぞー? アキったら~」
「あ? お前の事なんて一言も言ってねーだろが。
まぁ、思い当たるフシがあんなら、自分の胸に手を当ててよーく考えな」
「ふーんだ! あっ、私まだご新規さんに挨拶してなかった☆」
看板美女が私に急接近してくる。
彼女の距離感も異様に近い。
「みつはでっす☆
こんな男達なんかよりも良い話し相手に全然なるから、いつでも気軽に寄ってね☆」
「あっ、ありがとうございます。私、伊縄城です。
よろしくお願いします」
「こちらこそー☆ はいっ、お友達になった記念に伊縄城さんにコレ! サービスしちゃうねっ☆」
テーブルにコトン、とお皿を置かれる。
なんと、立派なフルーツの盛り合わせだった。
「えっ! こんな、悪いです」
「いーのいーの! お近付きのしるしに、ね☆
じゃあ、楽しんでいってね~! 良い夜を☆」
弾ける笑顔を向けられ、店の中に戻るみつはさんを見送る。
「良かったじゃん。まぁ、また来てやれよ。
みつはも、女の常連客欲しがってたし」
「いつも、こんなにサービスしてくれるんですか?」
「いや? 気に入られたんじゃねぇの。アイツの基準って、可愛いかどうかみてーだし」
「はぁ……」
正直全然分からないが、嫌いになられるよりはマシだ。
「あ、良かったら種狛さんも食べませ……」
くるりと種狛さんの方を向いて、仰天する。
「た、た、種狛さん!?!?」
「あー、またかよ。ったく」
テーブルの上に、猫がいた。
キジ柄の艶やかな毛並み。
目を閉じ、耳を伏せ、ぐったりと伸びている。
「完全に落ちてんな。こりゃもうダメだわ」
「種狛さん……ですよね?」
「そーだよ。酔っ払うと人型を保てなくなんだよ。
バッカだなぁー。羽目外し過ぎだろ」
「あらら……」
すぅすぅと気持ち良さそうな寝息を立てている。
そういえば……
後ろをチラッと覗くと、お団子のようにまんまるな可愛い尻尾が付いていた。
うさぎのようで、思わず撫でたくなるのをグッと堪えた。
「じゃあ、そろそろお開きにしますか。ちょい待ち」
御影さんがIDバングルに何か打ち込んでいる。
「今、迎え呼んだ。すぐ来るぞ」
「はぇ?」
数分後、強い風が吹き、天からバサバサと巨大な鳥が飛んできた。
「なっ!?!?」
「ごめんね~。種狛がダウンしたようで」
「その声は……嶽平部長!!」
「お疲れっす。コイツ、会社に連れてってくれよ。
なんか、珍しく酔い潰れるくらい楽しかったみてーだから」
御影さんが何故か私の方を見て、嶽平部長に告げる。
「そっかそっか~。いや、私もちょうど会社に戻るところだったから、良いタイミングだったよ。
それじゃ、邪魔したね。伊縄城さん、御影くんにちゃんと送ってもらうんだよ」
「えっ、あ、私は……」
「分かってるよ。木にぶつかんなよ、おっさん」
「はは、ありがとう。それでは、おやすみ」
種狛さんを背に乗せた嶽平部長は、バサバサと宙を舞い、月を横切りながら飛び去っていった。
ミニサイズの嶽平部長しか知らなかった為、巨大化出来るなんて知らなかった。
「さて、俺らも帰るぜ。お前先出てろ」
「あ、お会計なら私も」
「いーよ。俺から誘ったし。面倒な種狛の相手もしてくれたしな。あ、今回だけだぞ」
ニッと不敵に微笑まれ、どきっとする。
「ありがとう、ございます」
御影さんの男前な心意気に感謝し、私は店を後にした。
* * *
「今夜は、色々、えーっと……すみませんでした。変な話しちゃって」
帰り道、月夜に照らされて道すがら御影さんに話を振った。
「意外だったけどな。色恋沙汰には縁が無さそーなカオしてっから」
「ひどい! ……言わなきゃ良かったですっ」
相変わらずの軽口を叩かれ、こちらも冗談で応戦すると、ふと御影さんが足を止めた。
止まりきれず御影さんの背中に激突してしまう。
「わぁっ?! すみませんっ、……御影さん?」
「あ、わりぃ」
じっ、とこちらを見つめる御影さんに、何事かと問いかける。
「どうしました?」
「いや、……お前さ」
いつになくシリアスな面持ちに、長い間が空く。
「思兼部長と付き合ってんの?」
「…………はい?」
言われた言葉の意味が掴めず、脳内がフリーズする。
(私と、思兼さんが、今、なんて……)
いくらアルコールで思考が鈍いとはいえ、聞き間違いではないだろう。
彼は、確かにそう言った。
ただ、どこか人ごとのように感じている自分がいる。
呆然としていると、御影さんが一瞬迷ったように視線が泳いだ後、再び私を見据えて話を続けた。
「お前ら一緒だっただろ、研修の帰り。
てっきり、そーいう仲だと思ってた」
「さ、さっき言ったじゃないですか。
お付き合いどころか、そもそも……夢のまた夢です」
「隠さなくてもいいぜ、別に」
「えっ!? いやいやいやいや、ないです!
そんな畏れ多い……!!」
全力で否定する。
まさか、御影さんに見られていた上に、そんな風に思われていたとは。
「あっそ。……さっきのは忘れろ」
ぽんぽんと頭を叩かれると、また先へと進んでいく。
「み、御影さーん! 待ってくださーい!」
「話す暇があんならさっさと歩けー。俺も酔ってっから、早く寝てーんだよ」
いつもよりも速い歩調に置いていかれそうになりながら、私達はオフィスタワーへと向かったのだった。
「あ、その……種狛さん、本当に大丈夫でしょうか。あれから30分以上経ちますけど……」
なんとなく主役不在で進めることに後ろめたさを感じた私は、そわそわと辺りを見渡した。
御影さんが頬杖をつきながら呆れた顔でこちらを見ている。
「毎回こんなだぞ、アイツ。待ってたらキリねーし、さっさと注文を……」
ちょうどそこへ、種狛さんがげっそりした様子でこちらに戻ってくるのが見えた。耳がボサボサになっており、いかに凄惨な現場だったかを想像させられた。
「悪い、やっと解放された……」
「いつもより大分巻けたじゃねぇか。何食うんだか早くしてくれ」
「お疲れ様です、種狛さん」
「……ああ」
「こいつ、わざわざお前が来るまで飲まないで待ってたんだから、奢ってやれば?」
種狛さんが耳をピクッと動かした後、微動だにしない。
「私が勝手にやった事なので、大丈夫ですから。
今夜のメインは種狛さんだと思うので」
私がアッサリ辞退すると、種狛さんも続けて御影さんに文句を言った。
「そうだよ。何でおれが伊縄城に奢るんだ。別に、待たなくても気にしないっつの……」
《クルル…》
「!!」
「種狛。お前、ガキじゃねーんだから、ちったぁ制御しろよ。感情」
「っ、……これはっ! 知らねえよ!
勝手に鳴っちまうんだからしょうがねーだろっ!」
今のは、猫が喉をゴロゴロ鳴らした時の音みたいなものだろうか。相変わらず素直じゃないが、多分、種狛さんは嬉しかったのだ。
そう、解釈することにした。
* * *
「つーかよ。マジメな話。なんかあったのか? ここ最近、からっきしテンション低いじゃん」
お酒が進み、夜も更けてきた頃。
御影さんから急に話を振られた私は、一瞬固まった。
「うっ……えと、そう、見えますか? 私」
「めちゃくそ見えっけど。なぁ? 種狛、言ってやれよ。お前コイツの事色々詳しいんだろ」
「!?」
(ど、どういう事……?)
「んんー…………そうだぜ……伊縄城、正直に話してみろよ。おれらに隠し事はナシだ! 同じ委員会だった仲だろ~」
普段なら絶対言わないようなセリフだ。
同じキャラかと顔を見ると、目が据わっている。
完全にデキ上がっていた。
種狛さんの十八番であるツンケンした態度は微塵も感じさせず、いつの間にか肩が触れ合いそうな距離に来ている。
果てしなく近い。
とろんとした熱っぽい視線を向けられ、慌てて顔を逸らした。
「かっ、隠し事って……」
「ははーん。アレだろ? 恋愛系だな」
「!!」
御影さんに図星を突かれ、顔が瞬間沸騰する。
こういう時、自分の嘘の付けなさに改めて嫌気が差した。
「恋愛!? 伊縄城、おまえ……っ、好きな奴、いるのか?」
種狛さんにもストレートに質問され、いよいよこのイケメンコンビは私に何を話させようとしているのか理解不能だった。
「お前も呑気そうに見えてやる事やってんのな。誰だよ、お相手は」
「いないですってば! 相手、なんて……そもそも」
矢継ぎ早に聞かれ、拉致があかない。
深いため息を吐き、渋々答えた。
「……こ、″コンカツ″が、…………その。
上手くいかなくて……」
「あ? なんか、歓迎会で口走ってたヤツだよな。意味が全くわからんが」
「うぅ……絶っっっっ対、ひかないでくださいね」
「もったいぶんなよ! 早く聞かせろ!」
私は、自分の身の上をつっかえながら簡単に説明した。
* * *
「ふーん。つまり、あと約半年で結婚したいけど、男と付き合うことすら出来てないと」
「そんなバッサリ言わないでください! あぁ~もう……」
合わす顔がなくなり、テーブルに突っ伏す。
こんな話、出来ればしたくなかった。
でも、誰かに聞いてもらいたいのも事実である。
聞かされたところで彼等にはどうする事も出来ないので、良い迷惑だと思うが。
そんな事も言ってられない精神状態の自分が醜い。
ぽん、と肩に手を置かれた。
どちらの手か分からないが、温かさに涙が出てきた。
「伊縄城は……そこまで焦らなくて良いと思う。身近に、い、言わないだけで、……っ、気になってる奴、いるんじゃないのか」
「え……」
種狛さんだ。
顔が見えないのは残念だが、情けなさ過ぎて結局このままで良かったと思った。
こんな慰め方をしてくれるなんて……酔ってるからだろう。
優しい気遣いに救われる想いだった。
「……だとよ。まぁ、あんま思い詰めんなよ。良いじゃねぇか、マイペースで。俺はやだけどね。脇目も振らずに男にガツガツ来る女は」
「だーれのことかな~~?」
顔を上げると、片手に腰を当てて料理を携えたみつはさんがやってきた。
「ご注文の串焼きお待ち~☆ ヒトのウワサなんかしちゃってカンジ悪いぞー? アキったら~」
「あ? お前の事なんて一言も言ってねーだろが。
まぁ、思い当たるフシがあんなら、自分の胸に手を当ててよーく考えな」
「ふーんだ! あっ、私まだご新規さんに挨拶してなかった☆」
看板美女が私に急接近してくる。
彼女の距離感も異様に近い。
「みつはでっす☆
こんな男達なんかよりも良い話し相手に全然なるから、いつでも気軽に寄ってね☆」
「あっ、ありがとうございます。私、伊縄城です。
よろしくお願いします」
「こちらこそー☆ はいっ、お友達になった記念に伊縄城さんにコレ! サービスしちゃうねっ☆」
テーブルにコトン、とお皿を置かれる。
なんと、立派なフルーツの盛り合わせだった。
「えっ! こんな、悪いです」
「いーのいーの! お近付きのしるしに、ね☆
じゃあ、楽しんでいってね~! 良い夜を☆」
弾ける笑顔を向けられ、店の中に戻るみつはさんを見送る。
「良かったじゃん。まぁ、また来てやれよ。
みつはも、女の常連客欲しがってたし」
「いつも、こんなにサービスしてくれるんですか?」
「いや? 気に入られたんじゃねぇの。アイツの基準って、可愛いかどうかみてーだし」
「はぁ……」
正直全然分からないが、嫌いになられるよりはマシだ。
「あ、良かったら種狛さんも食べませ……」
くるりと種狛さんの方を向いて、仰天する。
「た、た、種狛さん!?!?」
「あー、またかよ。ったく」
テーブルの上に、猫がいた。
キジ柄の艶やかな毛並み。
目を閉じ、耳を伏せ、ぐったりと伸びている。
「完全に落ちてんな。こりゃもうダメだわ」
「種狛さん……ですよね?」
「そーだよ。酔っ払うと人型を保てなくなんだよ。
バッカだなぁー。羽目外し過ぎだろ」
「あらら……」
すぅすぅと気持ち良さそうな寝息を立てている。
そういえば……
後ろをチラッと覗くと、お団子のようにまんまるな可愛い尻尾が付いていた。
うさぎのようで、思わず撫でたくなるのをグッと堪えた。
「じゃあ、そろそろお開きにしますか。ちょい待ち」
御影さんがIDバングルに何か打ち込んでいる。
「今、迎え呼んだ。すぐ来るぞ」
「はぇ?」
数分後、強い風が吹き、天からバサバサと巨大な鳥が飛んできた。
「なっ!?!?」
「ごめんね~。種狛がダウンしたようで」
「その声は……嶽平部長!!」
「お疲れっす。コイツ、会社に連れてってくれよ。
なんか、珍しく酔い潰れるくらい楽しかったみてーだから」
御影さんが何故か私の方を見て、嶽平部長に告げる。
「そっかそっか~。いや、私もちょうど会社に戻るところだったから、良いタイミングだったよ。
それじゃ、邪魔したね。伊縄城さん、御影くんにちゃんと送ってもらうんだよ」
「えっ、あ、私は……」
「分かってるよ。木にぶつかんなよ、おっさん」
「はは、ありがとう。それでは、おやすみ」
種狛さんを背に乗せた嶽平部長は、バサバサと宙を舞い、月を横切りながら飛び去っていった。
ミニサイズの嶽平部長しか知らなかった為、巨大化出来るなんて知らなかった。
「さて、俺らも帰るぜ。お前先出てろ」
「あ、お会計なら私も」
「いーよ。俺から誘ったし。面倒な種狛の相手もしてくれたしな。あ、今回だけだぞ」
ニッと不敵に微笑まれ、どきっとする。
「ありがとう、ございます」
御影さんの男前な心意気に感謝し、私は店を後にした。
* * *
「今夜は、色々、えーっと……すみませんでした。変な話しちゃって」
帰り道、月夜に照らされて道すがら御影さんに話を振った。
「意外だったけどな。色恋沙汰には縁が無さそーなカオしてっから」
「ひどい! ……言わなきゃ良かったですっ」
相変わらずの軽口を叩かれ、こちらも冗談で応戦すると、ふと御影さんが足を止めた。
止まりきれず御影さんの背中に激突してしまう。
「わぁっ?! すみませんっ、……御影さん?」
「あ、わりぃ」
じっ、とこちらを見つめる御影さんに、何事かと問いかける。
「どうしました?」
「いや、……お前さ」
いつになくシリアスな面持ちに、長い間が空く。
「思兼部長と付き合ってんの?」
「…………はい?」
言われた言葉の意味が掴めず、脳内がフリーズする。
(私と、思兼さんが、今、なんて……)
いくらアルコールで思考が鈍いとはいえ、聞き間違いではないだろう。
彼は、確かにそう言った。
ただ、どこか人ごとのように感じている自分がいる。
呆然としていると、御影さんが一瞬迷ったように視線が泳いだ後、再び私を見据えて話を続けた。
「お前ら一緒だっただろ、研修の帰り。
てっきり、そーいう仲だと思ってた」
「さ、さっき言ったじゃないですか。
お付き合いどころか、そもそも……夢のまた夢です」
「隠さなくてもいいぜ、別に」
「えっ!? いやいやいやいや、ないです!
そんな畏れ多い……!!」
全力で否定する。
まさか、御影さんに見られていた上に、そんな風に思われていたとは。
「あっそ。……さっきのは忘れろ」
ぽんぽんと頭を叩かれると、また先へと進んでいく。
「み、御影さーん! 待ってくださーい!」
「話す暇があんならさっさと歩けー。俺も酔ってっから、早く寝てーんだよ」
いつもよりも速い歩調に置いていかれそうになりながら、私達はオフィスタワーへと向かったのだった。
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