【完結】スキル調味料は意外と使える

トロ猫

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3巻

3-2

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 眩しさが収まり、目を開けると、先ほどと同じ場所にいた。キモイもサトウも側にいる。

「いや、違うな。同じ場所じゃねぇ」

 地図を確認すれば、大鼠ゾーンの手前にいた。
 転移させられたのか? 何かトラップを踏んだのか?

「めんどくせぇなぁ」

 仕方なくもう一度、大鼠ゾーンを通る。今度は鼠を無視しながらダッシュで通過する。先ほど転移させられた場所の手前で索敵をかける。
 索敵には、何もおかしなトラップは映っていない。辺りを確認する限り、特に何か変わったこともない。
 先を進めば、再び身体が光り……元の場所に転移させられた。

「は?」

 なんでだ? 意味が分かんねぇ。
 俺が一体何をしたって言うんだよ!
 一人イラついていたら、指輪が光り文字が現れる。


【きちんと魔物を倒さなければ、レベル50にならないだろうが!】


 あのクソ老人……大鼠を倒さずにアイテムボックスに収納していたから、俺たちを巻き戻したのか? スライムゾーンは、それなりに倒したから問題なく通れたんだな。

「細けぇんだよ」

 壁を蹴りたかったが、痛そうなのでやめる。行き場のない怒りを抑え、ため息をつく。
 あのクソ老人……干渉できないとかほざいていたくせに、これは干渉以外の何ものでもねぇだろ。存在Aと同列に厄介な老人だ。今は味方してくれているようだが、いつそれが変わるか分かんねぇな。
 今はこのダンジョンからの脱出のため、とにかく現れた魔物をある程度始末するしかない。

「キモイ、サトウ、大鼠を見つけ次第、全部狩るぞ!」
「キュイ!」
「ピィィ!」

 二匹ともまだまだ元気だな。
 余計に三時間ほどかかったが、大鼠ゾーンを突破する。大量にいた大鼠を九割ほど仕留めた。塩を投げつけて苦しむ大鼠を、刃風じんぷうで一気に切り刻んだ。拾った大鼠の核の数を確認する。


【アイテムボックス】 ダンジョン大鼠×50、ダンジョン大鼠の死骸×200、ダンジョン大鼠の核×700


 700以上ダンジョン大鼠を討伐した……これだけあれば、先に進めるだろう。
 二回も転移させられた地点を恐る恐る通れば、問題なく通過する。

「よし!」

 拳を上げ、索敵で次の魔物を確認する。
 数は大鼠ほどいないが、急に倍くらい強くなっている。
 キモイとサトウはやる気のようで、俺を置いて先に進み始めた。二匹を抱え上げ止める。

「お前ら、勝手に突っ込むな。どんな敵がいるのか確認が先だ」

 ライトを照らすと、奥の道は岩だらけだった。
 これ、嫌な予感しかしない。いぶかしげに辺りを鑑定する。


【ダンジョン大ガエル】
【ダンジョン大ガエル】
【ダンジョン大ガエル】
【ダンジョン大ガエル】


 これは、もはや嫌がらせだろ。
 今さら気づいたのだが、鑑定してもこいつらは名前しか出てこない。年齢やレベル等、何も表示がない。これも、このダンジョンの仕様なのだろうか。
 岩になっているカエルどもに、リスタ村でのトラウマを思い出しながら眉間に皺を寄せる。
 思い出したくもないカエルとの事故のおかげか、こいつらに対しては怒りの感情が強い。以前より抵抗がないのはいいが、索敵を見る限りあちこちにバラバラにいる。

「とりあえず、一匹倒してみるか」

 リスタ村のカエルと同じなら、水で活性化できるはずだ。
 ウォーターを唱え、手前の岩にかける。すると、解放されるかのようにダンジョン大ガエルの生の姿があらわになった。急いで一突き、カエルの脳天を剣で刺す。力を失い、地面に倒れたカエルはすぐに消えていった。

「楽だったな」

 どうやら目覚めたばかりのカエルは弱いようだ。これなら鼠よりも簡単だ。


【ダンジョン大ガエルの核】


 落ちていた核を拾うと、手に嫌なぬめりがついた。汚ねぇな……。
 時間はかかるが、ゆっくり一匹ずつ仕留めれば問題は――

「ん? なんの音だ」

 水の音が聞こえ振り向くと、キモイが大量の水のシャワーを岩化しているカエルに向かって撒いていた。

「は? おい!」
「キュイ?」
「キュイ? じゃねぇよ!」
「ゲコッ、ゴボッ」

 始めは数匹だったカエルの声が、十匹、二十匹と増えていく。ああ、キモイ! とんでもないことしてくれたな!

「待て待て待て!」

 焦りながら剣を構える俺の隣で、キモイとサトウが闘争心を燃やす。

「キュイ!」
「ピィ!」

 二匹が突っ走ると、俺も覚悟を決める。

「クソッ! 行くぞ!」

 ◆ ◆ ◆

 息を上げ、地面に片膝を突く。

「はぁ……終わった……」

 あれから襲いかかってくるダンジョン大ガエルを、ひたすら剣で突き刺しまくった。何匹倒したかまでは数えていないが、途中でレベルアップの機械音が一回聞こえた。
 獲得した10ポイントをMPに振り当てる。


[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
 L V: 30
 H P: 80 (+50)
 M P: 100/160
 ATK: 40 (+50)
 DEF: 20 (+50)
 LUK: 26
 スキル: 【治療】【生活魔法】【索敵】【鑑定Lv4】【風魔法Lv4】【調味料Lv7】
 上位人族スキル: 【言語】【アイテムボックス】【能力向上】


 スキルの調味料、それから風魔法はもうすぐレベルアップしそうだ。試しにハバネロパウダーを二回生成すると、機械音が頭の中で流れた。


(調味料のレベルが上がりました)


 よしよし。今度の調味料はなんだ?


【調味料Lv8】
    塩/MP1
  胡椒こしょう/MP1
  マヨネーズ/MP1
  ハバネロパウダー/MP5
  粉砂糖/MP10
  鰹節かつおぶし/MP10
  酢/MP1
  醤油しょうゆ/MP15


「うぉぉぉ! ついに、ついに醤油が出たぞ!」

 ウキウキしながら醤油を出せば、液体のままの醤油が手の上にぶち撒けられた。
 醤油に興奮して忘れていたが、そういう仕様だった……。
 手から地面へと滴り落ちた醤油に、キモイが興味深そうに触れる。酢には拒絶反応を見せていたが、どうやら醤油は平気なようだ。
 醤油はひとまずアイテムボックスへと入れる。後で瓶に移し替えるが、なんせ必要なMPが15と他の調味料より多い。
 地面に落ちた分がもったいないな……。

「ピィ! ピィ!」

 醤油を突こうとしたサトウを抱き上げ止める。

「お前はやめとけ」

 キモイはスライムだから雑食だが、サトウはよく分からない。こんなダンジョンの中で体調でも悪くなられたら困る。
 キモイが落ちていた醤油を全部すすると、先を進んだ。


 その後、大量のダンジョン蝙蝠こうもり、大猿、蜘蛛、蛇、ウルフを倒していく。このダンジョンは質より量なのか?
 醤油も敵の目潰しには使える調味料だったが、MP消費の少ないハバネロパウダーの攻撃力が結局一番高かった。ハバネロパウダーは特にウルフには効いたようで、斬る前に悶絶しながら核に変わっていた。
 大量の魔物を倒したおかげで、レベルは40まで上がった。受け取ったポイントは100だ。
 風魔法のレベルも上がり、新しい魔法が追加された。風魔法のレベルが上がるのは久しぶりだ。攻撃魔法だといいのだが、どれどれ……。


【風魔法Lv5】
    そよ風/MP1
  旋風せんぷう/MP5
  突風とっぷう/MP10
  刃風/MP10
  竜巻たつまき/MP20


 た、竜巻? なんだか物騒だが、これは攻撃魔法だよな? 試し撃ちがしたいが、この狭い空間でやるのは俺が被害を受けそうなのでやめておく。
 ポイントだけを分配する。


[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
 L V: 40
 H P: 150
 M P: 200
 ATK: 100
 DEF: 100
 LUK: 26
 スキル: 【治療】【生活魔法】【索敵】【鑑定Lv4】【風魔法Lv5】【調味料Lv8】
 上位人族スキル: 【言語】【アイテムボックス】【能力向上】


 HPに20、MPに40、ATKに10、それからDEFに30を分配した。一定の数字を越えたからか、今まで+50と表示されていた上位人族の恩恵が合算された。見やすくなってありがたい。
 最後に、落ちていたダンジョンウルフの核を拾うと、目の前に赤い扉が現れた。

「これはまた、怪しい扉が出たな」

 この先は行き止まり、どうやらこの扉を通れということらしい。
 扉を開けると、その先は空の上だった。目の前に広がる空に唖然とする。

「なんだよこれ……」

 手を伸ばし、足元を確認する。足場は存在しているな……。
 片足を空の上に乗せてみる。

「問題はないが、怖いな」

 創造主の老人、マジで何を考えているんだ? こんな演出いらねぇだろ。
 扉の先に向かう前に飯を食う。
 せっかくなので、小鍋でバールで購入したインディカ米を炊いてみる。
 蓋を開けると米の匂いがフワッとした。

「まぁまぁ、上手く炊けたな」

 米の上に醤油をかけ、シンプルに食べる。焼き飯の劣化版だが、醤油は相当旨い種類なので問題はない。
 肉と野菜を醤油で炒め、米に乗せ食う。

「美味い!」
「キュイキュイ!」

 俺の服を引っ張りながら、飯をねだり始めたキモイ。美味くて独り占めをしていたな。

「悪い悪い。ほら、キモイの分だ」

 皿に乗せた米をキモイの目の前に置くが、米をツンツンと触るだけで食べようとしない。

「なんだ? いらないのか?」
「キュイ!」

 皿を下げようとすれば、キモイが米を一気食いする。もう少し味わってくれてもいいのだが……。
 その後、キモイは米を再びねだったので味は気に入ったのだろう。
 サトウは米には全く関心がなく、小さく切った魔物をいつも以上に食べていた。心なしか大きくなっている気がするのだが、レベルはまだ上がっていない。

「飯も食ったし、扉を通るか」

 扉越しの一面の空を見ながらため息をつく。これ、本当に大丈夫か?
 進む道はここしかないので進むが……マップを確認すれば、結構広大な空間が広がっている。狭い場所は心地よくなかったが、広すぎるのも困るな。索敵にはいくつか光る赤い点が見える。空に敵がいるのか、面倒だな。
 勝手に行動しないようにキモイは頭の上に置き、サトウは鞄の中に入れる。サトウ……地味に重いな。
 恐る恐る扉の先の足元を見る。スカイダイビングするような気分だな。足場があると分かっていても怖い。片足を足場に着ける。足場はある、大丈夫だ。
 まぁ、何かあれば扉の中に戻ればいいだろう。
 両足を扉の外に着けると、赤い扉はその姿を消した。それは聞いていないのだが……。
 下を見てもろくなことはないと分かっていても、地面を見てしまう。

「おお。怖ぇな」

 尻辺りがムズムズとする。
 これ、前方はどこまで足場が続いているんだ?

「念のために撒きながら行くか」

 ハバネロパウダーの瓶を取り出し、足場に撒く。すると、付着した赤い粉が足場を示してくれる。風が吹いていないのは助かる。
 足場の幅は一メートルほどだ。ハバネロパウダーのつかなかった場所に触れると、手が通り抜けた。持っていた魔物の骨を落とすと、そのまま落下、見えなくなった。これは、落ちたら確実に死ぬな……。
 一歩ずつ、先を進む。これ、どこかで地上に到着するんだよな? 創造主の老人の笑顔を思い出し、不安になる。
 それでも、先を進むしかない。ハバネロパウダーを撒きながら一本道を進むと、索敵の赤い点が姿を現す。


【ダンジョンホーク】


 たかか。面倒だな。まだ距離はあるが、この距離でもその巨大さが分かる。ここは風魔法にハバネロパウダーを混ぜて潰しておくか。
 準備をしていると、鞄からサトウが顔を出す。

「ピィ!」
「お、なんだ?」
「ピィピ!」

 サトウは勇敢な表情で鞄から登場すると、羽を自分の胸に打ちつけながら何かを訴え始める。

「お前に任せろってことか?」
「ピィ!」
「大丈夫か? 敵は十匹以上いるし、お前より大きいぞ」
「ピィー!」
「あ、待て――」

 脚を地面に打ちつけながら羽を広げたサトウは、俺の話を聞かずにダンジョンホークのいる方角へと走り始めた。一体何をするつもりだ、お前まだちゃんと飛べないだろ!
 俺の髪を引っ張りながら、キモイが飛び跳ねる。

「キュイキュイ!」
「痛てて。こら、引っ張んな! 分かったから!」

 ダンジョンホークのいる場所へ走り出したサトウを、ハバネロパウダーを撒きながら急いで追いかける。
 サトウの近くまで到着。途中、急にサトウの足が速くなったな。
 目の前で飛ぶダンジョンホークの大きさに息を呑む。

「鷹……デカくないか?」

 サトウの五倍はある大きさだ。

「ピィィィ!」

 サトウが羽を広げながらダンジョンホークを睨む。

「キェェェェ」

 ダンジョンホークから発される獰猛どうもうな威嚇音に耳が痛くなる。こんなの普通の鷹の鳴き声じゃないだろ。

「ピィ!」

 サトウが羽をバタつかせながらやる気を見せているが、明らかに相手のほうが修羅場をくぐってきた経験者だ。あいつ、なに上級者の団体に喧嘩売ってんだよ!
 ダンジョンホークがクルクルとサトウの上空を回り始める。これは良くないな。
 ホークどもを蹴散らそうと刃風で攻撃をしたが、軽く避けられる。空は奴らのテリトリーだ。

「……分が悪いな」

 ダンジョンホークの一匹がサトウに襲いかかると、次々と他のホークも続いた。
 ヤバい。このままだとサトウがやられる。そう思った瞬間、サトウの脚の爪から強い光が放たれ、眩しさに目を閉じてしまう。
 光が止み、目を開けると、バランスを崩したダンジョンホーク二匹が羽根を散らしながら落下した。
 お? どういうことだ?


(個体名サトウのレベルが1上がりました)


 頭の中で機械音が流れる。サトウのレベルアップだ。


【サトウ(0)】    良好 3 メタルクロー


 再びサトウから光が放たれる。今度はこちらへの被害はなかったので、サトウの光を間近に観察することができた。
 メタルに変化させた爪を日の光に反射させて、敵の目潰しをしているようだ。サトウは素早く飛び上がると、目潰しをしたダンジョンホークをその鋭い爪で攻撃して落とした。
 飛ぶのはまだまだ成長中だが、跳躍は驚くほど高い。サトウ……そんなことできたんだな。
 サトウの頭上を見れば、猛スピードで降下するダンジョンホークが見えた。

「サトウ! 避けろ!」

 サトウの活躍に目を奪われてしまい、一歩出遅れたせいで間に合わない。刃風を使うか。いや、あのスピードでは上手く狙いを定められない。

「『竜巻』」

 初めて使う風魔法だが、背に腹は代えられない。
 魔法は間に合ったようだ……サトウの頭上に小さな竜巻が現れる。思ったよりも小さいな。だが、ダンジョンホークの進路の阻害はできたようだ。

「ピィ!」

 バランスを崩したダンジョンホークを、サトウの鋭い爪がえぐる。

「ナイス、サトウ!」

 サトウに駆け寄ろうとしたが、残っていたダンジョンホークに突き飛ばされ、通路から足を踏み外してしまい、落下してしまう。

「おい! 嘘だろ!」

 猛スピードでフリーフォールする間、上空を虚無顔で見上げる。ああ、終わったな……。
 叫べばいいものを、意外と冷静な自分に驚く。
 地面に追突したら痛いだろうなぁ。いまだに上空をクルクルと回るダンジョンホークとサトウが戦う姿が遠くなっていくのを眺めた。


(個体名サトウのレベルが1上がりました)


 頭の中で機械音が流れる。サトウ、頑張れ……ああ、なんだか意識が遠のく――

「キュイィィ!」

 頭にしがみつくキモイの大声でハッとする。いやいや、待て待て、まだ死にたくないぞ!
 それに俺が死んだら、キモイとサトウはどうなるんだよ!

「クソがぁぁぁぁ!」

 上空で回転、腹を下に両手を広げる。雲を抜けると、地上が見えた。普通に怖えぇ。この状況、どうすんだよ!

「『突風』『突風』」

 咄嗟とっさに出した風魔法で、少しは空気抵抗が生まれるが、落下しているのには変わりない。
 地上に到着する寸前にありったけの突風を出せば助かるのか? 分かんねぇ。
 落ちるまでどれくらいの時間がある? 長く感じたが、ここまでの時間が十五秒ほどだ。地上激突まで一分あるかどうかか?

「『竜巻』『竜巻』」

 特にプランもなく焦って竜巻を出す。二つが融合すると、中くらいの竜巻が俺を押し上げる感覚がした。これ、いけるか?

「『竜巻』『竜巻』『竜巻』」

 五つの竜巻が融合すると、想像以上に大きな一つの竜巻になった。風魔法を出すたびに反動で押し上げられたので、十数秒稼げたかもしれない。だが――

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