【完結】スキル調味料は意外と使える

トロ猫

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3巻

3-3

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「このままだと竜巻に呑まれるじゃねぇか! ああああああ」

 叫びながら落下していると、背中を思いっきり掴まれる感覚がした。ダンジョンホークか!

「ピィィィ」
「この声は、サトウか!」

 背中を見る余裕はないが、どうやらサトウが俺の背中を掴んでいるようだ。飛べるようになったのかと喜んだのも束の間、竜巻の風に押されてバランスを崩しながら地面へと落下していく。竜巻、失敗だったか……。
 クソッ! 

「『突風』『突風』『突風』『突風』『突風』『突風』」

 ウエッ。MP限界まで魔法を放ったことで、吐き気を催す。気持ち悪いが、落下のスピードはかなり抑えられた。もう地面まであと数秒、腕で顔を守るように隠す。ああ、クソ痛いんだろうな。
 そう思いながら落下の時を待ったが、衝撃がない。なぜだ?
 恐る恐る目を開けると、地面のほんの数センチ手前で浮いていた。

「は? どういうことだ?」
「ピィィ!」

 限界だ、とでも言うかのような鳴き声をサトウが上げると、ボトッと地面に顔から落とされる。

「痛ッ」

 痛いが、別に怪我などはしていない。

「助かったのか……?」
「ピィ!」

 サトウを見て目を見開く。そこには、長い翼を自慢げに広げる成長したサトウの姿があった。

「サトウ……お前、成長しすぎだろ!」


 灰色だった冠羽かんうは光沢のある銀色に変わり、全体的に黒に青が混じっていた色が、さらに濃いグラデーションになった。
 ダンジョンホークが強敵だったのか? それにしては成長が早すぎる。この大きさ、もう鞄に収まることもできない。
 サトウが幼い表情のままで、首を傾げながら俺を見つめる。

「ピィ?」
「いや、お前は何も悪くない。それどころか、ありがとうな。助かった」

 本当に助かった。上空を見上げ、今さらだが悪寒が走る。あの雲の上から落ちてきたのか。よく、助かったな。絶対死ぬだろうと思った。
 立ち上がろうとして、腰を抜かしていることに気づく。
 自分が情けなくて思わず笑うと、キモイが嬉しそうに俺の太ももの上で飛び跳ねる。

「キュイ! キュイ!」
「お前も怖かったよな?」

 キモイを撫でると、蝕手を上げながら抱っこをせがまれた。
 キモイに恐怖の感情があるかは分からないが、とりあえず全員無事で良かった。
 安堵していると、急に頭の中で機械音が流れる。


(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)


「は? 待て待て」

 連続で流れた機械音のせいで頭痛がする。なんだ? どういうことだ、これ?
 音が収まったのでステータスを確認すれば、レベルは45まで上がっていた。
 ログを確認する。ログの存在は以前から知っていたが、今回初めて確認した。
 ログには討伐した記憶のないダンジョンラビットやダンジョンバイソンなどを含む魔物たちが、ズラリと並んでいた。
 なんだ、この魔物ども……これではまるで災害――

「ああ! あれか! 竜巻!」

 竜巻は上空で俺を押した後、逆方向へと向かっていった。今はどこに行ったのか見えないが、その進路で魔物どもを殺したのか。俺の魔法で引き起こされた大型の竜巻だから、その過程で討伐された魔物は俺のレベルアップに繋がるのか。
 魔物たちにとっては災難だが、俺にとってはラッキーだな。
 なんだかズルをした気分だが、レベル50まであと5アップで到達する。
 このダンジョンに長居しないといけないと思ったが、意外に順調だな。
 追加された50ポイントを振り分ける。


[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
 L V: 45
 H P: 160
 M P: 210
 ATK: 110
 DEF: 110
 LUK: 36
 スキル: 【治療】【生活魔法】【索敵】【鑑定Lv4】【風魔法Lv5】【調味料Lv8】
 上位人族スキル: 【言語】【アイテムボックス】【能力向上】


 全てに10ポイントを入れた。
 このダンジョンを脱出できるまでに必要なレベルは残り5だ。マップを確認する。最下層まで数層あるが、もしかしたらこれ以上深くダンジョンを潜らずとも脱出できそうじゃないか?
 パタパタとサトウが羽を動かしながら軽く飛び上がる。まだ完全な飛行はできないようだが、これは飛ぶことができるまであと一歩ってところだな。
 しかし、レベル上げか……もう一度竜巻を連打して、その辺にいるダンジョンの魔物を巻き込むか?
 竜巻を唱えようとしたら、目の前の地面に再び赤い扉が現れた。

「……ご都合主義だな」

 このダンジョン自体が創造主のご都合主義だ。
 創造主の老人は、どうしても俺を最下層まで導きたいようだ。最下層に何がある――いや、何がいるんだ?
 そんなことを考えながら、地面の赤い扉を開く。
 扉の向こうには、褐色かっしょくの岩がゴロゴロあるのが見えるが……索敵に魔物は映っていない。

「キモイ、サトウ、行けるか?」
「キュイ!」
「ピィ!」

 二匹ともまだまだ元気のようだ。

「よし、 行くぞ」

 扉を通ると上下左右が逆転する。気持ち悪い感覚だ。
 壁に位置していた赤い扉は、俺たちが通り抜けるとすぐに消えた。
 辺りを見回し、ジワリと浮き出た額の汗を手で拭く。

「暑いな」

 見る限り、多方から蒸気が噴き出していた。ここは灼熱の階層ってところか。
 キモイから湯気が上がり、フニャフニャになりながら地面に溶け始める。

「キュィィィ……」
「は? おいおい!」

 急いでキモイを持ち上げ、ウォーターを連続してかける。

「キュイ……」

 フニャフニャは治ったが、どうやらキモイに灼熱は天敵らしい。水属性のスライムだしな、そりゃそうだよな。

「お前は鞄の中にいろ」

 鞄の中に押し込んだキモイから情けない声が聞こえる。

「キュイ~」
「変に頑張る必要はないぞ」

 苦手なものは仕方ない。サトウを見れば、平気そうに仁王立ちしていた。どうやら、サトウは問題がないようだ。
 マップを確認、下層に繋がりそうな場所を目指して先を進む。

 ◆ ◆ ◆

 歩くこと一時間弱……暑い……。
 ここ、なんなんだよ!
 歩いても歩いても、目的の下層に繋がりそうな場所は見つからない。それに加え、魔物の反応も一切ない。そして、クソ暑い。上半身の服を脱ぎ、水を浴びる。

「ああ、生き返る」

 鞄の中のキモイにも水をかける。

「キュイ!」
「気持ちいいだろ。暑さは大丈夫か?」
「キュイ!」

 鞄の中なら大丈夫そうだが、早くこの灼熱層から出たいな。
 サトウは力強く歩き、たまにジャンプしながら羽をバタつかせていた。以前より体力が上がったのか、疲れてはいないようだ。疲れていても、もう鞄に収まる大きさじゃないけどな。

「ピィ!」
「あ、コラコラ。背中にとまるのはやめろ!」

 地味に爪が食い込むから、痛いんだよ!
 タオルと服を腕に何重かに巻いた上にサトウがとまる。重いが、これくらいなら平気だ。こうやってサトウが腕にとまっているとなんだか鷹匠たかじょうみたいだな。
 ファレンスに着いたら、サトウ専用の腕用の革の防具を新調しないとな。そのためにも、こんなクソダンジョンは早く脱出しないと。
 問題は、この階層、魔物が全くいないのだが……。
 レベルアップどころか、脱水症状で枯れてしまう。


 それから一時間ほど歩くと、辺りが暗くなり始める。ここ、夜があるのか? 暗い中での移動は危険だ。ここで休憩するか。
 日陰になった岩の下で野営の準備を終わらせると、違和感に気づく。

「なんだか涼しくなってないか?」

 キモイが鞄から出てきてピョンピョンと飛び跳ねる。
 確実に涼しくなってきているな。灼熱から寒くなるって、砂漠かよ!
 アイテムボックスから出した服を重ね着する。ヤバいな。比較的暖かい地域にしかいなかったので、防寒服がない。
 まだ熱の残る岩を集め、刃風で斬り平べったくする。この上にブランケットを敷いて寝れば、少しの間は温かさを保てるだろう。燃やせるものも少ないが、いざとなったらアイテムボックスにある木製の食器などを燃やすしかないな。
 どれだけ涼しくなるか分からないが、今は少し肌寒い。このまま氷点下などになってしまったらおしまいだ。暑いのも嫌だが、寒いのはもっと困る。

「とりあえず、飯を食うか」

 俺はロコス焼き、キモイとサトウにはいつもの魔物を与えた。サトウは、以前のように魔物を細かく切らなくても食べることができるようになった。丸呑みなので、その後に吐き出すものもデカくなるのだろうが……。
 その後、岩の上で横になる。ホットブランケットを少し熱くした感じの温かさだ。これならすぐに眠りにつけそうだ。そんなことを考えていると、いつの間にか目を閉じていた。



 3 ダンジョン脱出


 それからどれほどの時間が経ったか分からないが、寒くて目が覚める。
 まだ辺りは暗い。数時間くらいは寝られたか?

「それにしても寒みぃな」

 キモイとサトウが丸くなって引っついていた腹部分以外は、完全に冷えている。岩も温かさを失っている。吐息は白い。

「ヤバいな」

 キモイとサトウを起こし、ブランケットを羽織る。時間の進みは分からないが、早く暖かくなってくれないと……非常に困る。
 アイテムボックスを確認する。何か温かいもの――ああ、一応あるが……。


【アイテムボックス】 ダンジョンウルフの死骸


 キモイとサトウの飯用に拾っておいたものだが、こいつらの毛は暖かそうだ。
 これを羽織るか?

「いやいや、さすがにな」
「キュイ!」
「いや、待て!」

 飯だと思ったのか、キモイがダンジョンウルフを吸収する。まぁ、別に腹が空いていたのならいいのだが……。
 キモイの吸収が終わると、ペッとダンジョンウルフの毛皮だけを吐き出した。確認すれば、毛皮だけ綺麗に剝がされていた。これなら羽織れるな。

「お前、凄いな!」

 キモイを撫でると、蝕手を差し出される。

「キュイ」
「お前……いや、よくやった」

 それからもう数匹ダンジョンウルフの毛皮を作ってもらい、キモイに粉砂糖を与えると嬉しそうに踊り出した。
 羽織った毛皮は、まぁ……獣臭かった。だが、寒さの解消には役立った。
 サトウは寒さも平気なようで、特にダメージは受けていなかった。でも、寒いのは寒いらしく丸くなっていた。

「寒いな。日はいつ出るんだ?」

 手を擦りながら、温かい息をかける。
 すると、キモイが蝕手を地面に刺しながら騒ぎ始める。なんだ? 忘れていた索敵を急いでかける。

「ゲッ!」

 巨大な赤い点がこちらに猛スピードで向かってきているのを捉えた。
 残念ながら逃げる時間はなさそうだ。荒野のようなこの場所だ、逃げたとしてもすぐに追いつかれる。戦うしかないな。
 もしかしたらこの巨大な赤い点がいたから、ここには他の魔物がいなかったのか?

「キモイ、サトウ! 危険を察知したらお前らは逃げていいからな!」

 二匹が逃げる時間くらい敵を引きつける自信はある。
 奥歯を噛みながら索敵を確認する。ここまで大きい赤い点は初めて見る。相当強い相手のはずだ。
 アイテムボックスから大剣を取り出し、向かってくる赤い点に向け構える――が、いない?

「おかしい。どこだ?」

 赤い点はすぐそこまで迫っている。肉眼でも見える距離のはずだ。地面の振動が足に伝わってくる。
 どういうことだ!
 キモイが蝕手で地面を差す。

「キュイキュイ!」
「下か! クソッ!」

 赤い点が真下に到着すると、地面が盛り上がったので急いで剣を下に向け、力の限り刺す。剣は何かに確実に刺さったが、次の瞬間に身体が宙へと舞い上がった。急いで突風を出しながら、地面への衝突の衝撃を抑える。

「グワッ」

 転がりながら痛みに耐える。突風のおかげで身体への衝撃は減ったが、それでも十分痛い。キモイとサトウは無事に初手の衝撃をかわしたようだが、俺からは少し離れてしまう。
 治療をしながら立ち上がり、目の前にそびえ立つ怪物に唖然とする。

「キシャアア」

 怪物は、鮮やかな翠緑色すいりょくしょくで三階建ての高さに相当する巨大なコブラのような身体、それから鶏のような黄金の鶏冠とさかがあった。俺が刺した大剣は、そいつの額の近くに刺さっていた。そのせいで、虫の居所は相当悪いようだ。
 創造主の老人、あいつ本気でふざけんなよ! なんなんだよ、このデカブツは! こんなやつを出して、あのジジィは頭がおかしいんじゃねぇか? 存在Aと厄介さは変わらないだろ。
 蛇の怪物を鑑定する。


【ダンジョンバジリスク】


 は? バジリスクってあれか、ギリシア神話の……。確か目が合うと即死するって神話だったか? こいつにはその力はないようだ。助かったな。
 しかし、これを倒すのか? 無理だろ。

「シャアア」
「危ね!」

 バジリスクが牙から飛ばしてきた暗緑色あんりょくしょくの液体を避ける。液体が命中した岩は、ドロドロと煙を上げながら形を崩し溶けていく。
 なんだよ、それ……酸とか毒のたぐいか?
 それから何度も同じ液体で攻撃される。今は無事に回避しているが、結構ギリギリだ。
 バジリスクが、二連打で毒液の攻撃を仕掛けてくる。

「待て待て待て! ふざけんなよ!」

 あの毒液は無限なのか? しかも連続で出せるのか? これ、俺に毒液が当たるまで完全に時間の問題だろ。
 バジリスクからの連続の攻撃を何度か回避する間、この状況をどう切り抜けるかと頭の中で策を練っていると、キモイの水のビームがバジリスクの顔に命中する。いいぞ、キモイ。
 今がチャンスだ。バジリスクに風魔法の攻撃をする。

「『刃風』『刃風』『刃風』」
「キィシャアア!」

 バジリスクの身体から紫の飛沫しぶきが飛ぶ。俺の攻撃、効いてはいる。だが、決定打ではない。
 バジリスクは俺から距離を少し取ると、奇妙な上下の動きで腹を揺らし始めた。なんだ?
 あの距離でも刃風は届くはずだ。手に汗を握りながら、刃風を唱えようとして止まる。

「は。なんだよ、それ」

 バジリスクが分裂したのだ。そんなことができるなどとは聞いていないのだが……こんなのが二匹、それはさすがにチートだろ。
 よく見れば、新しいバジリスクはオリジナルよりも一回り小さく細い。それでも二階建てほどの体長だ。強敵には変わらない。
 小さいバジリスクがキモイとサトウの元へと向かう。あの野郎、こちらの人数に合わせて自分も分離したのか。そんな知能があるのか……知能がある魔物は厄介だ。キモイたちと合流しようと駆け出すと、バジリスクに阻害される。
 どうやら俺は、先にこいつをやらないといけないようだ。
 キモイたちの戦闘はすでに始まっていた。キモイが水のビームで、サトウが鋭い爪で小さなバジリスクの顔を攻撃していた。
 俺ができることは、早く目の前のこいつを倒し、キモイたちの援護に向かうことだ。

「『刃風』『刃風』」

 MPは残り160だ。刃風なら十六回使えるが、それでこいつを倒せる自信はない。蛇……蛇か。ああ、こいつが蛇なら嗅覚が鋭いはずだ。一か八か、持っていたハバネロパウダーの瓶をバジリスクの頭上に投げる。瓶は奴の頭上で回転して、ハバネロパウダーが上手く撒かれた。
 どうだ?

「シャアア」

 面倒そうにハバネロパウダーを払っているが、さほど効いてはいないようだ。
 クソッ、ダメか。
 そういや昔、田舎のばあちゃんが蛇避けに酢を小屋の裏に撒いていたな。酢なら激臭だ。
 バジリスクに向かって駆ける。狙うは顔だ。酢まみれにしてやる。
 毒液の攻撃を避け、ジャンプをしながらバジリスクの顔を目がけ酢を唱える。

「『酢』『酢』『酢』『酢』『酢』『酢』『酢』『酢』」
「ギュジャアアア」

 明らかに違う叫び声、それから悶え方だ。これは相当効いているんじゃないか?
 追い酢で目を狙い撃ちしながら数回攻撃をしていると、思いっきり尻尾でぎ払われ宙を高く舞う。
 ちょうど、どうやって上空から攻撃できるかを考えていた、これはチャンスだ。

「『突風』『突風』」

 突風で調節しながら、バジリスクの頭上を目指す。口を開け俺を呑み込もうと待つ奴に、酢のシャワーをお見舞いする。

「キシャァァ」

 こいつ、知能はあるけどそんなに頭は良くないんだな。
 悶えるバジリスクの額に刺さる大剣に手をかけ、ナイフで右目を刺す。

「うお!」

 バシリスクが上下左右に激しく揺れると、大剣が抜け再び宙に投げ出される。

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