魔法少女なら、なんだってできるのさ

柊原 ゆず

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魔法少女なら、なんだってできるのさ

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 私と同じ女の子なのに、金髪のあの子は魔法を使って世界に平和をもたらしている。彼女の魅力は強さだけではない。彼女の周りには光が煌いているのではないかと思う。敵と戦う時に揺れる彼女の髪の美しさは表現できない程だ。見ているだけで眩しくて、格好良くて、素敵。私は彼女のように強くなることはできないけれど、憧れるくらいは許してほしい。
 彼女は、どういう女の子なのだろう。凛とした佇まいの彼女と友達になってみたい。正義の味方の正体を知りたいだなんて、野暮だとは思うけれど考えてしまうのだった。





 下校時間をとっくに過ぎて、人のいなくなった薄暗い教室。私を呼び出したのは川村くんだった。川村くんとは同級生で、話すことはあれど特に親しいという間柄ではなかった。

「見ていてくれないか」

 川村くんは私を見つめてそう告げる。すると、光が私達を包み込み、川村くんは私の目の前で姿を変えた。太陽の如く金色の美しい髪に、フリルのついた衣装。間違いなく彼女、いや彼はこの街を守る魔法少女だった。憧れの魔法少女が川村くんだったなんて。頭を強く打ったような衝撃に私は立ち尽くしてしまった。こんなの、知りたくなかった。
 そんな私の様子を見て、川村くんは眉を下げる。

「君がどんな形であれ、僕を見てくれるのであればそれでよかったんだ」

 川村くんは、小さく呟いた。俯いた顔を隠すように長い髪が垂れ下がる。俯いて今にも泣きそうな声色の魔法少女は私が初めて見る姿だった。

「君が、魔法少女に憧れているのは知っていた。友達に僕のことを話している時の君はとても眩しくて、綺麗だった。僕が活躍することで君の笑顔を見ることができる。それがとても嬉しかった。最初のうちは、君が僕を見てくれて、必要としてくれているようで、心地良かったんだ。でも僕は気付いてしまったんだ。魔法少女の姿は僕であって僕ではない。君は僕を必要として、愛してくれている訳ではない。僕は、君のことが好きで堪らないのに」

 ぼろぼろと涙を零す川村くんの涙を拭ってあげる資格は私にない。私は彼のことを友人としか見ることができないからだ。彼の想いに応えることはできなかった。

「だから、僕は考えたんだ。どうしたら愛してもらえるかって」

 川村くんはどこからか紐を取り出す。ふよふよと宙に浮かぶ紐に私は目を奪われてしまった。

「見ていてくれないか。魔法少女なら、なんだってできるんだ」

 川村くんが指を動かすと、空中に浮いた紐が動いた。茫然とその様子を見ていた私は、その紐が自分に向かっていることに気づいたが既に遅かった。紐は生物のように動き私の自由を奪う。私はあっという間に縛られて身動きがとれなくなり、地面に倒れてしまった。

「ようやく気づいたんだ。僕は君を縛り上げることだって容易いことに。何故今まで気付かなかったんだろうな」
「か、川村くん…っ!解いて…!」
「それは無理な話だ」

 川村くんの指が動き、私は身体ごと宙に浮く。今まで憧れだった存在が急に恐ろしい存在へと変化を遂げる。宙に浮いた私の目の前まで近づいた川村くんは溢れる涙を指の腹で拭った。

「どれだけ時間がかかったって構わない。魔法少女じゃない僕のことも、いつの日か愛してほしい」

 お願いだ、と懇願する魔法少女の川村くんの顔は酷く歪んでいるのに、どこか美しく思えて私は背筋が凍った。

Fin.
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