かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇

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エボリューションマネージャー

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 淳が攻略者トップの剣道絢香との配信の確約とS級ダンジョン攻略をしたのでダンプロの事務所内は騒然としていた。
 ダンジョン攻略をして今や時の人となった剣道絢香との配信確定したことを発表したことで、その時に自社の商材の宣伝をして欲しいという企業からの交渉の電話が殺到している。
 事務所にいる人間総出で対応に回っているが、処理しきれていないほどなので、先日のヒカリの件の時よりも程度がひどい。

「はい、もしもし、こちらダンプロですが」

 ダンプロ最年長であるマネージャーの谷崎も本来の業務ではないが応援に向かう。
 突然の業務であるが谷崎には特に煩わしいと感じることや、これを引き起こした伊藤淳に対する苛立ちはなかった。
 元は芸能事務所にマネージャーとして勤めており、所属しているタレントがひょんなことを拍子にヒットして、一気に修羅場になることをよく経験したこともあるし、伊藤が事務所が創立して間もないころから奔走してきたことは知っていたので、どこかのタイミングでそれが結実することを予期していたからだ。
 自分の担当している配信者もこれくらい働き者であればいいのだがと思いながら、内容と条件を谷崎は先方から伺う。

 ーーー

 午前中いっぱい電話対応をすると、谷崎は案件の仕事を紹介するために担当する配信者の望月エボリューションのところに向かう。
 最初はなんだこのふざけた名前はと思ったが、後にそう言うハンドルネームではないく、本名であることを聞き、谷崎は心の底から同情した。
 彼は俗に言うキラキラネームの被害者だったのだ。

 決まった時間に起きられないために、起こすところから始めなければいけないので、谷崎はエボリューションの部屋の鍵を合鍵で開けて、廊下を通り過ぎていくと居間のベッドでスマホをロックせずに寝ている彼の元に向かう。
 肩を揺さぶって起こそうと思うと、谷崎はスマホに映っているSNS投稿画面を見て、動きを止める。
 そこには同じ事務所で最近勢いのある配信者のアスカを誹謗するコメントが書かれていた。
 その行為自体に全く感心などはできないが、嫉妬や僻みを持つ程度にはまだ人気配信者と自らを比べようとしている態度に谷崎は感心した。
 こうしてやる気がないような感じでも、根はまだ腐ってないのだ。
 燃やす元はある。
 あとは火をつけて煽るだけだ。

「望月、起きろ。望月」

 話せる状態に持っていくために、谷崎は望月を起こす。

「……ああ、谷崎さんですか。すいません、目覚ましを掛けたんですけど自分で消してしまったみたいで」

「これはなんだ」

 望月が目を覚ましたことを確認すると、谷崎は望月のスマホの画面を彼の顔の前に突きつける。

「そ、それは!」

 望月は微睡から一転大きく目を見開く。

「自分より年下の女の子に恥ずかしくないのか」

「グ!」

 苦悶の声を上げる望月に、谷崎はさらに追い討ちをかける。

「なぜ僻む? お前とアスカでは天と地ほどの差がある。とてもではないが比べることも烏滸がましい」

「どうしたって同じ事務所で目につくんだからしょうがないだろ! 少し前までは同じくらいだったんだ! なのに今は僕よりも上でヒカリと並ぶくらいになってる。こんなの誰でも僻むに決まってるじゃないか」

「お前は勘違いしているぞ、望月」

「え……?」

 エボリューションが逆ギレして吐露した心情に対して、谷崎が頭ごなしに否定して説教するわけでなく、訂正を入れてきたことに驚く。
 昭和堅気の強気の性格だと言うこともあるが、ただの事実の羅列だと思っているので、訂正されるべきところなどないと思っていたためだ。

「人は圧倒的な差をつけられた時に僻むことを止める。最初から勝つのは無理だと悟り、土俵から降り、もはや切り離したもの、自分とは関係ないものとして無視する」

「でも僕以外にも誹謗中傷のコメントを送っている奴はいるからそんなはずは」

「奴らとお前とでは立場があまりにも違う。お前は配信者、奴らは全くの部外者。全くの別物。奴らは有名人の誹謗中傷を書いて、自己顕示欲を満たしたいだけで僻んでなどはいない」

「アスカを僻んでたのは僕だけだっていうのか。だからこそみっともないと」

「私はお前の誹謗中傷する行動が恥だと言っただけで、お前の姿勢についてはその逆。むしろ誇らしく思っている」

「え?」

「お前はアスカとの彼我の差を認識しても土俵から逃げなかった。他の配信者のように外野に逃げず、土俵の際で踏ん張った。無謀だと分かってもそれでも勝負を捨てなかった。お前は俺が知る他の誰よりも高潔だ。ともに仕事ができて誇りに思っている」

 谷崎は自分の言葉をしっかりと聞いていることーー届いていることを確認すると大きな声で喝を入れるように続ける。

「だがこのままではその高潔さは曇っていく。お前には勝とうと意思を持ち、アスカに挑むことが必要だ」

「勝つ? そんなことを言ったて現実はそんなに甘くは……」

「現実は甘くないだと。その言葉を軽々しく使うな。それは現実にある全ての可能性に挑戦してそれでも何も手にいられられなかったものだけが使っていい言葉だ。お前は現実の何を知っている。アスカとの差が開いていく中でダメだと思いつつ、何かをしたのか? 踏ん張って耐えるだけじゃダメなんだ。勝ちに行かねば!」

「僕がアスカに勝ちに行く?」

「そうだ! お前はアスカに勝ちに行く! 勝つんだ! エボリューション!」

「谷崎さん! 俺!」

 この日、谷崎が焚き付けることによって、自堕落な配信者であった望月エボリューションに火がついた。
 アスカのマネージャーが伊藤であることによって、エボリューションを焚き付けることだけで完結するはずのことが波乱を呼ぶとは、この時の谷崎は知るよしもなかった。


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