幼なじみの彼女に裏切られ、親友と付き合っていたことを知ってしまったので、親友の婚約者であり幼なじみの天敵の悪役令嬢と組みたいと思います

竜頭蛇

文字の大きさ
33 / 64

変わり果てた元婚約者

しおりを挟む

『昨日の今日だけど、秋也大丈夫よね?』

「とりあえずのところ住居侵入罪とか、その他もろもろは大丈夫らしいし、誘拐犯は花園家の会合ってことで出てる上にその道のプロの人も協力してくれるから大丈夫だよ」

 心配で電話して来た恵那に対して、大丈夫であるという旨の言葉を告げる。

「桃さん、待たせてすいません」

「いえお気になさらず、支障はありませんので」

 社長から紹介された潜入のプロこと愛川桃さんにお詫びを入れると、口少なにフォローをもらった。
 前麻黒さんの家に訪れた時に案内してもらった高級メイドの愛川さんのお孫さんだけあって、物静かで楚々とした雰囲気が似ている。
 どういう経緯で潜入のスキルを身につけたのかはわからないが、多くを語らない感じはプロフェショナルさを感じざるを得ない。
 プロクオリティだと思うのは昨日、潜入の仕方を教えてもらうのもあるかもしれないが。

「星源光輝以外在宅していないことが確認できたので、正面から入りましょうか」

 桃さんは家の内部にある盗聴器から音を傍受する機器のイヤホンを耳から取り外すとこれからやることを提示する。
 誘拐犯のオオグロチャンことオストラチア賢治は花園家から盗聴器やカメラで監視されているとの見立てだったが、本当にその通りだったようだ。
 花園家からも危険視されているのか、花園家が用心深いために関心されているのかはわからないが、ギリギリのところで成り立っている信頼関係のようなものを感じて、相手が別世界に生きているのを改めて実感する。

 桃さんの指示で扉をピッキングして開けると、桃さんはすぐ空いた扉から中に入り、事前の打ち合わせ通り、目にも止まらない速さでブレーカーを落とした。
 これで内部にある盗聴器やカメラはバッテリーで動くタイプ以外は無効化できたことになる。
 バッテリータイプのものはまず電気の届かない場所での用途が主なので、都市圏にあるここで使う必要のないことを考えれば、まだ目や耳が残っている確率は低いだろう。

 あとは盗聴できなくなったことに気づいて、駆けつけられる前にここから迅速に光輝くんを連れ出すだけだ。

 タッ。

 今後の予定を頭の中で確認していると背後から足音が聞こえた。
 例の誘拐犯が来たのかと思い振り返るとそこには緊張した面持ちの恵那がいた。

「恵那?」

「ごめん、どうしても気になって。 麻黒社長から場所を聞いて来ちゃった」

「社長からね」

 恵那が俺の疑問に対して答えると、桃さんが思案げに顎に手をやった。
 電話して間をおかずに来たので、先ほど俺に電話をして来たのは、場所の確かめと着くまでの時間稼ぎのためでもあったのかもしれない。

「社長が最終的に伝えたということは稀崎様へのサービスということですね。佐藤様、申し訳ありませんが、稀崎様も同行させていただきます」

 俺としてはそこまで余裕がないとは思うのだが、この救出の要となる桃さんの決定なので文句を言うわけにもいかない。
 それに技術だけ習得しただけの素人の俺がすでにいるので、彼女としてはもう1人素人が増えようとあまり変わらないのかもしれない。

「ええ、大丈夫です」

「ご協力に感謝します。少しペースを上げて現場を抑えられるリスクを小さくしたいと思うのでよろしくお願い致します」

「了解です」

「ちょ、早!」

 ーーー

 奥にある居間に進むとメイド服を着せられたツインテールの光輝くんがソファの上で寝転がっているのが見えた。

「お、男としての尊厳が完全に破壊されてるッ!」

 女装させられた光輝くんを見て、恵那が声を上げる。
 正直俺は光輝くんの姿については女装させたものを見ていることが多かったので、あまり違和感は感じなかったが、恵那にとってはかなりの衝撃だったようで彼女の表情は驚愕に染まっていた。
 そのまま恵那は光輝くんの元に近づいていく。

「ちょっと光輝!」

 恵那は寝ているだろう光輝くんの肩を揺すると、ゆっくりと彼は目を開けた。
 心なしか、写真に写っている彼の目と違って今の光輝くんには目に光がなかった。
 今までで見たことのない目だ。
 一体ここで何があったと言うのだろうか。
 
「あれぇ? ニャンちゃん、どうしてここにいるの? ケンちゃんは?」

「にゃんちゃんって、それはアバターの名前でしょ?」

「え? 何言ってるの? ヒカリ、わかんないよ?」

 恵那が問いかけるが会話が成立していない。
 それに声が完全に女声になっていて、まるで本物の女の子のようだ。
 流石にここまでいくと、彼が異常な状態であることが理解できた。
 このままほっといてもいいことは恵那にとっていいことはないだろうし、時間も押してしまうので、ひとまずは光輝くんを回収することにしよう。

「話は後にして、今はここから抜け出すことの方を優先しよう」

「う、うん」

 俺が声をかけると今の状況を再認識したのか、素直に返事をして恵那は後ろに下がった。

 ーーー

 途中で盗聴が妨害されたことに気づいて、花園家の人間もしくは誘拐犯本人がなだれ込んでくるかと思ったが、無事に光輝くんを連れ出すことができた。
 あとは光輝くんを車に乗せて、星源家に運べば救出完了だ。

「ああ、やっぱりだねえ~」

「いやああ! 巨人が!」

 虚な光輝くんを担いで、車に移動しようとすると、大男が現れ、恵那が悲鳴をあげた。


 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

嘘からこうして婚約破棄は成された

桜梅花 空木
恋愛
自分だったらこうするなぁと。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました

もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...