幼なじみの彼女に裏切られ、親友と付き合っていたことを知ってしまったので、親友の婚約者であり幼なじみの天敵の悪役令嬢と組みたいと思います

竜頭蛇

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水着選び

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「こんなところがこの町にあるなんて」

 放課後になるとデートに行く段になり、俺と麻黒さんは会員制のショッピングモールに来ていた。
 窓のないまるで監獄のような施設で黒服が入り口に立っていた時は、とんでもないところに来たかと思ったが、中は真っ当なショピングモールで安心した。

 よく見ると中にあるのは摩耶が好むような高級ブランドばかりなので、やはり一般的なショッピングモールのままではないが、ぱっと見はわからないので気後れしないで済んでいる。
 これが金の装飾や赤い絨毯で覆われたようなまるで中世の宮殿を思わせるような作りをしていた場合はとてもではないが、場慣れしていないのでそわそわしていたところだ。
 麻黒さんはそういうところも配慮してこの場所を選んでくれたかもしれない

「ショピングモールは多少の違いはあれど、庶民とお金持ちでも違いはないんだね」
 
「手を加えようにも完成されてるから同じ形になったのかしらね。大概のものが一箇所で手に入るのって理想的だもの」

「ショッピングモールを考えついた人って偉大だね」

「あなたが話を聞きたいというのなら、発案者に取り次ぐというのもやぶさかでもないけど」

「俺みたいな高校生にそんなすごい人の時間を取らせるのは気が引けるし、悪いけど遠慮しておくよ」

 そんなのちに語り継がれるレジェンドのような人を俺だけのために拘束するのは流石に申し訳ない。
 そういう人は一分一秒の損失が日本経済の損失と言っても過言ではないのだから。
 それにしても麻黒さん、パッと話の話題に出てきたレジェンドをすぐ取り次ぎができるほどの人脈があるのが凄まじい。
 お金持ちと著名人は知り合い同士が多いという風説があったが、この感じからするとあながち間違いでもなさそうだ。

「どこから回る?」

「旅行先で日用品で代替できないものは水着だから。まず水着からにしましょうか」

 水着ということで水着売り場に進路を取った。
 修学旅行に合わせてか、特設で水着売り場が拡張して作ってあり、さまざまな種類の水着があるのが見えた。
 会員制ということもあり、制限されていることもあってか、見たかぎりでは人も確認できない。
 周りの人を気にせずに買い物できる穴場の時間帯に運よく来れたという可能性もあるかもしれない。

「さて、ここからが少し大変ね」

「大変?」

 麻黒さんが大変と言ったので、思わず鸚鵡返してしまう。
 ただ水着を物色するのにそこまで大変になろう要素が俺にはとてもではないが見当たらなかったからだ。

「この商品群の中から麻黒グループのものを排除して探さなければならないからよ」

「それって」

 砂の中の金砂を見つけるようなものだ。
 服飾業界の最大手の麻黒家なのだから関わっているものが大半で考えると、この水着コーナーの中から見つける労力が果てしないことは想像に難くない。

「おおよそあなたの想像と違いはないわ」

「お店の店員さんって見当たらないけどここっていないのかな」

「試着コーナーに隠しカメラが仕掛けられたことが過去あったらしくて、配置できなくなっているらしいわ」

「洒落にならない大問題が起きてたんだね。確かにそのレベルになると無理そうだけど、会計とかはどうしているの?」

「ハンガーの横の凹みのボタンを押すと会計完了になるの。あとは執事のもとに連絡が入って、寸法を合わしたものが1、2時間後に家に届くわ」

「問題はないどころか、人の手を介さない分、効率的になってるんだね」

 理由は残念ではあるが、便利なシステムが確立しており、今回はそれにあやかれるようだ。
 会計以後にかかる時間はかなり短縮されれいるので、今回の水着選びの肝は非麻黒グループのものをできるだけ早く探し出すことになりそうだ。

「それにしても陽菜はなんで、非麻黒グループの商品にすることにこだわりが?」

「だって自分の会社の製品を身につけるのて自己主張が激しいし、身につけたものがグループ内の企業だった場合、序列がどうのっていらぬ争いが起こるから」

 水着を身につけるだけでグループ内でいらぬ争いが起こるのか。
 確かにそれは身につけるわけにはいかないだろう。

「陽菜が付けたからこっちの方が上だとか、身につけてもらえたからって調子に乗るんじゃないとかそんな感じか。グループ企業の長になると気苦労が多いんだね」

「物心ついてからこんな感じだから流石に慣れたわ」

 麻黒さんはそういうと粛々と水着を物色し始めた。
 結構な手間だが、それを慣れたと断言する姿が逞しい。
 女性ものの水着を俺が物色するのは抵抗があるが、麻黒さん1人に途方もない作業をさせるわけにもいかないので手にとる。

「ラレンツオ。これはグループ企業?」

「違うわね。いきなりビンゴを引くなんて運がいいわね、秋也」

 意外にあっさり一つ目をゲットした。
 麻黒さんは俺が取り出したシンプルな水色のパレオを手に取ると、周りの水着を取り出し始めた。

「ここの塊はラレンツオみたいね。とりあえずこの中から似合うものを選んでみようかしら。秋也、試着するから、判定してもらえるかしら?」

「ああ、わかったよ」

 ビシバシと水着の部色を済ませて、試着スペースに向かう陽菜の後に続いていく。

「3つともいっぱいみたいだね」

 見ると試着室のカーテンは閉まっており、使用中だった。
 いないと思っていたがやはり修学旅行前ということでやはり買いに来ている人間がいたらしい。

「あ、すいません、今出ますね」

 俺が呟きに対して断りが入れられると、3つの試着室が同時に開いた。

「「「あっ!?」

 見ると出てきた3人は恵梨香、恵那、精華だった。
 

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