幼なじみの彼女に裏切られ、親友と付き合っていたことを知ってしまったので、親友の婚約者であり幼なじみの天敵の悪役令嬢と組みたいと思います

竜頭蛇

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カルトと接触する婚約者

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 搭乗中に特にトラブルもなく、シンガポールに降り立ち、諸手続きとホテルに荷物を運ぶ作業を行う時間兼自由時間となった。
 使用人がいないものは前者の作業を全て自分で負担しなければならないので、自然俺は自由時間がそっちのけで前者の作業を行うはずだったが、麻黒さんの執事である黒桐さんがついでに諸々の作業を処理してくれると申し出てくれたので、俺も麻黒さんたちと共に自由時間を過ごすことになった。

 午後6時までが自由時間ということで、今現在が午後4時だということを考えれば、結構余裕はある。
 そのため、俺たちは焦らずに空港から観光を始めることにした。

 国際線、国内線一挙に集まっている上、長距離を飛行機で移動際の中継点としても利用されるハブ空港ということもあり、多種多様な人種の人々であふれかえっており、移動するのも一苦労だ。

「時間帯も時間帯だから混雑してるね」

「前家族旅行で行った時よりも混雑してるような印象があるわね。何かあるのかしら?」

 人に需要がある場所なので、そういうものかと思っていたが、今の混雑具合は普段の空港の様子を知る麻黒さんからしても多いようだ。
 周りの利用者の様子を見ると確かに、塊で動いている団体客が圧倒的多く、麻黒さんのイベントがあるのではないかという推測も確からしいように感じる。

「団体客の人たちはアジア人が多いけど、パッと思いつく限りで何かしらの大掛かりな催しがあるってニュースには流れてなかったから、はっきりとしたことはわからないな」

「確かに何かしらイベントがあれば、黒桐たちが把握しててもおかしくないから、少し不思議ね」

「一番可能性があるとしたら、学校で開催する催し物じゃないでしょうか?」

 学校の催し物か。
 確かによくよく考えればうちの学校で催し物をするのでその関連性の方が高い。
 中学までの修学旅行の経験から学校内で完結する程度の規模感で考えていたせいで、精華に指摘されるまで気づかなかった。

「確かにその可能性もあるわね。去年が現地の企業関係者とコンペを行う形式だったから、すっかり日本企業を呼ぶパターンを除外していたわ」

「あ、すいません。わざわざシンガポールに日本企業を呼び寄せる必要性ないですね」

 麻黒さんが同調すると、精華が自分の穴に気づいたようで否定を入れる。

「いや、日本の企業を連れてくれば、コンペとかをした時に理事長が結果を操作できる可能性があるから。むしろ呼び寄せる必要があるような気がするよ」

「そういえば、理事長も今回の件に介入するって言ってましたね。でもあの人は今回の件ではあまり露骨な介入はできないと思いますよ」

 理事長の介入の可能性について言及すると、精華は半ば確信しているような様子でツッコミを入れてきた。

「どうしてそう思うの?」

「理事長が秋也と対立するとは聞いてますけど、花園組が秋也の庇護を解いて、敵対するとは聞いていないからです」

「花園組の派閥のあなたが話を聞いていないのなら。確かなことね」

 初めて聞いた。
 精華は花園組の派閥の人だったのか。
 お母さんは一般的な主婦のような感じだったし、社長からの紹介ということで麻黒さんの家の派閥の人だと完全に思っていた。

「花園組の派閥だったんだ、精華。優しそうな見た目してるのに暴力団員だったのね」「Sの方だとは思ってもみなかったです」

「今時そんな露骨にオラついてる暴力団は極々一部しか存在しませんよ。それに花園組は前身が暴力団ていうだけで今は一般企業ですよ」

 精華は偏見に満ちた恵那と恵梨香、二人の言葉にに若干ムスっとした感じで答え、俺も若干暴力団イメージが強かったのでドキリとする。

「秋也ももしかしてそういうイメージ持ってました?」

 どうやら俺の内心の動揺が外面にも現れていたようで、膨れ面でそう尋ねてくる。

「あ、例の複合施設見えてきたよ」

 とりあえず、眼前に聳える壮大なシンボルに注意を逸らした。


 ーーー

「摩耶もこんな状態だし、ろくに秋也に勝てる目算も経っていないんだろう? 目を付けられないためにも俺は今回の件は降りるよ」

「お、おい!」

 最初は冬夜と協調しようとした律だったが、メンタルブレイク中の摩耶の回復する兆しが見えてこないことに不安になり、修学旅行の件からは降りることにした。
 彼には秋也から襲撃される危険性よりも、足手纏いを抱えながら秋也と争うことの方の危険性の方が致命的なような気がしてならなかった。
 呼び止める冬夜の声を無視して、二人から離れることで律の周りには誰もいなくなり、若干心細い気もしたがそれよりも気まずさの方が勝ち、二人から視認されない位置まで移動していく。

「ターゲットが一人になったな」

「最悪、リスクを負ってまとめて引き込もうと思っていましたけど、暁光ですね」

 その様子をカルト団体ハピネスギルドの構成員の宮川と小川は、周囲にいる他の構成員に紛れながら、確認し、徐に律の元にカップルを装いながら近づき初めた。

「日本の方ですよね? 私たちシンガポールに初めて来たんですけど、スマホのバッテリー二人とも無くなっちゃって困ってるですよ。近くなのでそんなに時間を取らせないと思うので道案内お願いできませんか?」

 彼らは現地に住んで5年以上住んでいるため、案内されるまでもないが、律と接触するために全くの出鱈目を言う。
 手持ち無沙汰な上、自分のことを正義漢だと信じてやまない律は自己のイメージを守るためにその誘いに快く答えた。

「いいですよ」


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